介護現場における業務の効率化や職場環境の改善、サービス品質の向上のため、タブレット端末やソフトウェアの導入が進んでいます。また、新型コロナウイルス感染対策のため、オンライン面会を行うためのICT化も需要が高まっています。
しかし、端末やソフトウェアの購入には莫大なお金がかかりますし、購入に踏み切れないでいる経営者の方も多いのではないでしょうか?
「ICT導入支援事業費補助金」は、介護現場におけるICT導入を支援する補助金なので、悩める経営者の方にはぜひ活用を検討していただきたいです。この記事では、ICT導入支援事業費補助金の補助対象や利用するメリットについて解説していきます。
なお、介護事業者以外でITツールの導入を検討している方は、ICT導入支援事業費補助金ではなく「IT導入補助金」の申請を検討しましょう。
※以下は2021年3月15日時点の情報であり、2020年度のICT導入支援事業費補助金の募集要項などを基に作成しています。
ICT導入支援事業費補助金とは
ICT導入支援事業とは、介護現場におけるICT技術の導入を支援する事業です。
採択されると、地域医療介護総合確保基金により、ICT導入支援事業費補助金の補助を受けることができます。補助金を活用し、記録業務、情報共有業務、請求業務を一気通貫で行えるよう、介護ソフトやタブレット端末などを導入することができます。
ICT導入支援事業は、厚生労働省による介護現場におけるICTの利用促進の一環ですが、補助金の申請窓口は都道府県となります。都道府県ごとに公募要領が公表されているので、所在地の都道府県のホームページで申請要件や必要書類などについて確認しましょう。
IT導入補助金との違い
ICT導入支援事業費補助金とよく似た名称の補助金に、「IT導入補助金」があります。この2つは明確に異なる補助金ですので、事業にマッチしている方の申請を行いましょう。
IT導入補助金は、経済産業省が運営する中小企業などへのITツール導入を支援する補助金です。介護事業のみならずさまざまな業種の企業が対象となるので、介護事業以外の事業者でITツールの導入を考えている方は、IT導入補助金の申請を考えていきましょう。
ICT導入支援事業費補助金を申請できる事業者のポイント
- 従業員300人以下の医療法人、社会福祉法人
- 介護保険法上の指定又は許可を受けている全ての事業所
介護事業の方は、ICT導入支援事業費補助金とIT導入補助金のどちらかを申請して受給します(併用はできません)。下表のように補助率や補助額が異なるので、適した方を選ぶ必要があります。
補助金の種類 | 補助額 | 補助率 |
---|---|---|
ICT導入支援事業費補助金 | ~260万円 | 2分の1 |
IT導入補助金(A類型) | 30万円~150万円 | 2分の1(都道府県ごとに決定) |
IT導入補助金(B類型) | 150万円~450万円 | 2分の1 |
IT導入補助金(C類型-1) | 30万円~450万円 | 3分の2 |
IT導入補助金(C類型-2) | 30万円~450万円 | 4分の3 |
また、手続きの流れや必要書類、提出する窓口も異なります。
ICT導入支援事業費補助金とIT導入補助金のどちらを申請するべきなのか迷っている方は、中小企業診断士など補助金について詳しい専門家に相談してみましょう。
なお、併願して両方とも採択されてしまった場合、片方を辞退する必要があります。どちらを選ぶべきか、辞退の手続きはどうするのかなど、専門家に相談しましょう。
ICT導入支援事業の補助金を利用するメリット
介護現場にICT機器を導入すると、どのようなメリットがあるのでしょうか?ICT導入支援事業費補助金の報告から、ICT機器の導入効果を一部紹介していきます。
ただし、提供するサービスと導入した介護ソフトが合っていなかった、といった失敗事例もあります。機器やソフトを導入する前に、現場における課題を明確にし、どのように解決するのが望ましいのかを考えておく必要があるでしょう。
- 支援の質の向上
- 業務の効率化やミスの削減
- 勤務態勢の改善やストレスの軽減
- 記録の充実
- 情報共有の円滑化
支援の質の向上
ICT機器を導入することで、利用者支援に充てる時間を増やしたり、家族への正確な情報提供が可能になったりできるので、支援の質が向上させることができます。
ICT機器を導入して事務作業が効率化すると、事務に充てる時間を削減することができます。そのため、施設を利用する人の支援という本業により多くの時間を充てることができ、支援の質を向上させるとともに利用者の満足度も高めることができます。
また、情報をデータで管理することによって、利用者と家族に対して正確な情報を迅速に提供することができます。
業務の効率化やミスの削減
業務の効率化やミスの削減も、ICT機器の導入による大きな効果です。
従来であれば、訪問介護を行った後の事務を行うために事業所に立ち寄り、事務仕事を行うのが一般的です。しかしICT機器の導入によって遠隔で事務作業を行えるようになれば、事業所に立ち寄るための時間や労力を節約し、他の仕事に取り組むことができます。
また、書類の管理を手作業で行っていると転記ミスが発生しやすくなります。ICT機器やソフトの導入によって書類を電子データで管理することで、簡単なヒューマンエラーを防止することができます。
勤務態勢の改善やストレスの軽減
ICT機器の導入によって業務が効率化されると、職員の負担やストレスが軽減され、働きやすい職場環境を整えられるメリットもあります。残業の削減や、膨大な業務へのプレッシャーの軽減なども、ICT導入の重要な効果です。
職員の心身に余裕ができると、ミスの削減やサービスの向上も図ることができます。
記録の充実
介護の記録を電子データで管理するため、手書きよりも読みやすく、誤字脱字が少ないデータで管理することができます。手書きよりも素早く記録できるため、内容を充実させることができた、という意見もあります。
ただし、パソコンが苦手な職員の入力内容が薄くなってしまうという課題も指摘されています。ICT機器に慣れていない職員もいるため、機器や介護ソフトの使い方などの研修を設けることも検討していく必要があります。
また、記入する文章量も同時に見直して業務効率化を進めていくと良いでしょう。
情報共有の円滑化
データの電子化により、情報共有を円滑にすることができます。
事業所内で職員が電子データを共有することにより、リアルタイムな情報共有や円滑な引継ぎを行うことができます。結果として、必要な話し合いの時間を増やすことができるので、サービスの質の向上につながります。
また、事業所外とのやり取りもICT機器の活用によって円滑になります。外部のケアマネジャーとの連絡や利用者の家族との連絡も、リアルタイムで迅速に行えるようになります。
ただし、直接会話しなくても情報を共有できるため、職員や家族との必要なコミュニケーションまで減ってしまったという声もあります。特に介護事業は対面での会話によって課題を発見できることもあるので、ICT機器に頼りすぎない工夫も検討していく必要があります。
介護事業におけるICT導入支援事業とは
介護現場のICT化を進めるために、ICT導入支援事業費補助金の申請を検討していきましょう。
ここでは、ICT導入支援事業費補助金の対象者や補助額・補助率、対象となるICT機器などについて解説していきます。ご自身の経営する会社が当てはまるか、受給したらどのようなICT機器を導入するかをイメージしながらお読みください。
補助対象の事業者
ICT導入支援事業の対象となるのは、介護保険法に基づく全サービスの介護事業所です。介護老人福祉施設、通所介護事業所、訪問看護事業所、居宅介護支援事業所などが幅広く対象となります。
補助の要件
ICT導入支援事業の補助を受けるには、主に以下の要件を満たすことが必要です。より詳しくは都道府県の公募要項でご確認ください。
- 記録業務、情報共有業務、請求業務を一気通貫で行うことが可能となっている介護ソフトであること。また、複数の介護ソフトを連携させることや、既に導入済みである介護ソフトに新たに業務機能を追加すること等により一気通貫となる場合も対象となる
- 居宅介護支援事業所、訪問介護事業所等の場合には、「居宅介護支援事業所と訪問介護などのサービス提供事業所間における情報連携の標準仕様」に準じたものであること
- 導入する介護ソフトについて、日中のサポート体制を常設していることが確認できる製品であること(有償・無償を問わない)。また、研究開発品ではなく、企業が保証する商用の製品であること
- 既に介護ソフトによって一気通貫となっている場合は、新たにタブレット端末等やバックオフィス業務用のソフトを導入することのみも対象とする。ただし、タブレット端末等を導入する際にあっては、必ず介護ソフトをインストールのうえ、業務にのみ使用すること。また個人情報保護の観点から、十分なセキュリティ対策を講じること
- タブレット端末等による音声入力機能の活用を推奨すること
- 厚生労働省において、ケアの内容や利用者の変化などに関わる情報を収集・蓄積するために新たに構築するデータベース「CHASE」を運用するため、CHASEによる情報収集に協力すること(タブレット等のみを導入する場合も同様)
- 導入の成果を都道府県へ報告するとともに、ICT導入に関して他事業者からの照会等に応じること
以上のとおり、業務の効率化に資するICT化であることなどが補助金支給の条件となっています。詳しくは都道府県が公開している公募要領でご確認ください。
補助上限額
ICT導入支援事業費補助金の上限額は、事業所の職員数に応じて下表のとおり決定します。
職員数 | 補助上限額 |
---|---|
1~10人 | 100万円 |
11人~20人 | 160万円 |
21人~30人 | 200万円 |
31人以上 | 260万円 |
以上の上限の範囲内で、都道府県が設定する補助率の補助金を受給することができます。
補助率
ICT導入支援事業費補助金の補助率は都道府県が設定するため、所在地の都道府県のホームページでご確認ください。基本的には2分の1に設定されています。
例えば、職員数が10人以下の事業所において、補助対象となる経費が200万円発生した場合、2分の1の100万円の補助を受けることができます。経費が300万円だった場合は2分の1の金額が150万円になりますが、上表のとおり職員数が10人以下の職場は補助上限が100万円のため、補助金は100万円の交付となります。
対象となる経費
ICT導入支援事業の補助の対象となるICT機器などの経費は、主に以下のとおりです。
- タブレット端末・スマートフォン等ハードウェア購入費又はリース代
- ソフトウェア購入費又は使用料
- 事業所内で情報共有に使用するインカム機器購入費又は使用料
- 運用に必要なネットワーク機器(Wi-Fi等)の購入費及び設置費
- クラウドサービス利用料
- 保守・サポート費
- 導入設定費、導入研修費
- セキュリティ対策費
- バックオフィス業務ソフトの購入費又は使用料
- ICT導入に関する他事業者からの照会等に応じた経費
- その他知事が適当と認めるもの
以上のICT機器などの経費について、補助を受けることができます。タブレット端末やネットワーク機器などのハードウェア類は、他の補助金では原則として補助を受けられないので、ICT導入支援事業費補助金を活用する大きなメリットです。
ただし、対象となる経費について以下の点にご留意ください。
- 当該年度中に係る経費のみを対象とする。毎月支払いを行う利用料やリース費用も対象とするが、対象となる期間は当該年度分に限る(当該年度の3月末まで)
- タブレット端末等ハードウェアは、生産性向上に効果のあるハードウェアが対象である
- 運用に必要なWi-FiルーターなどWi-Fi環境を整備するために必要な機器の購入・設置のための費用も対象とする(ただし通信費は対象外)
なお、以下のような経費は対象外となります。
- 交付決定前に購入、リース又はレンタル契約を締結したもの
- 保険料、通信費、メンテナンス費用
- 事業所に置くパソコンやプリンター
- 既に保有している機器等の廃棄にかかる経費
- 機器の設置に係る建物の改修費
- すでに国および都道府県から他の補助金を受けているもの
- その他本事業として適当と認められないと知事が判断した経費
経済産業省のIT導入補助金との併用はできませんので、ご留意ください。
補助の回数
ICT導入支援事業費補助金は、1事業所あたり1回受給することができます。ただし、受給した補助金の金額が上述の上限の範囲内であれば、2回目の補助を受けることができます。
2回目の補助額は、補助上限額から1回目の補助額を除いた金額が上限となります。ただし、1回目に補助を受けた機器のリース代や保守・サポートにかかる経費等恒常的な費用については、補助を受けることはできません。
ICT導入支援事業の手続き
ICT導入支援事業に応募し、補助金を受給する流れについて解説していきます。
なお、ICT導入支援事業はICT機器などを導入した後の効果の報告も必要です。交付申請や支給申請のみならず、導入報告も行うため、手間がかかってしまう場合があります。
補助金の申請は、中小企業診断士などがサポートやアドバイスを行っています。申請時だけでなく導入報告までアフターフォローもしてくれる専門家に相談し、必要書類の提出を円滑に進めていきましょう。
- 交付申請
- 交付決定
- ICT導入
- 実績報告
- 交付請求
- 補助金の交付
- 導入効果の報告
- 導入効果の公表
交付申請
必要な書類を揃え、窓口となる都道府県に申請を行います。申請書や申請方法(郵送かメールかなど)は都道府県のホームページに掲載されているので、所在地のホームページを必ず確認しましょう。
以下は千葉県で交付申請する場合に必要となる書類の一覧です。
- 補助金交付申請書
- 補助金所要額調書
- ICT導入計画書
- 誓約書
- 役員等名簿
- 法人の登記事項証明書の写し
- 申請月の従業者の勤務の体制及び勤務形態一覧表
- 導入するICTのカタログ等
- 見積書の写し
- 介護サービス事業所指定・許可書類
- 交付申請時チェックリスト
ICT導入計画書には、導入後に達成すべき目標や導入すべき機器、期待される効果などを記載します。
各書類のフォーマットや記載例は都道府県のホームページに掲載されているので、必ず所在地のホームページで確認しましょう。
申請期限もホームページに掲載されているので、必ず期限内に申請を行いましょう。
交付決定
交付申請時の書類に基づき、審査が行われます。審査に通過すると、申請者に交付決定の通知が送られてきます。
ICT導入
交付決定の通知を受けたら、ICT機器の導入を行いましょう。交付申請時に提出したICT計画などを基に、現場のICT化を進めていきます。
後に導入効果の報告を行う必要があるので、導入前と比べてどのような効果があったのかを測れる客観的指標について記録を取れるようにします。例えば、職員の労働時間や利用者の満足度の記録などが挙げられます。
なお、補助金は実績報告後の後払いとなります。補助金でまかなえる経費についても一旦は自己負担となるため、必要であれば資金調達を行って機器を導入します。
実績報告
補助対象の期間が終了したら、実績報告を行います。都道府県の窓口に、実績報告に必要な所定の書類を提出します。
例えば千葉県の場合、必要な書類は以下のとおりです。
- 補助金実績報告書
- 補助金精算額調書
- ICT使用状況報告書
- 補助事業に係る契約書の写し
- 補助事業に係る領収書の写し
- 導入した機器の写真
- 実績報告時チェックリスト
各書類のフォーマットや記載例は都道府県のホームページに掲載されているので、必ず所在地のホームページで確認しましょう。
交付請求
実績報告を基に、交付される補助金の金額が決定されます。補助金の決定を受けたら、「補助金交付請求書」を送付し、交付請求を行いましょう。
補助金交付請求書のフォーマットも、都道府県のホームページに掲載されています。
補助金の交付
交付請求を行った後、補助金が交付(支払い)されます。
導入効果の報告
交付決定を受け、ICT機器を導入したら、導入効果の報告を随時行います。補助金が支払われる前に報告して構いません。
報告の内容は、ICT機器の導入によって得られた効果を、客観的に評価できる指標に基づいて示すことです。例えば、介護時間の短縮、直接・間接負担の軽減効果、介護従事者(利用者)の満足度、日々の活用状況が確認できる日誌などを基に報告します。
導入効果の報告期限や報告様式は、都道府県のホームページに掲載されています。掲載されている宛先に、必ず期限内に報告を行いましょう。
導入効果の公表
都道府県に寄せられた各事業所の導入効果は、都道府県が取りまとめて厚生労働省に報告します。厚生労働省や都道府県にて、ICT機器の導入効果について公表されることがあります。
まとめ
介護現場にICT機器を導入する際に活用できるICT導入支援事業費補助金について解説してきました。タブレット端末や介護ソフトの導入を考えている事業者の方は、申請を検討してみてはいかがでしょうか?
しかし、介護事業者の方は、ICT導入支援事業費補助金とIT導入補助金のどちらを申請したら良いのか、また膨大な申請書類の書き方が難しくてわからない、と悩んでしまうかもしれません。中小企業診断士など、補助金についてよく知っているプロフェッショナルに相談してみましょう。
「補助金バンク」には、介護事業で使える補助金について詳しい中小企業診断士などが多数登録しているので、身近な専門家を探すことができます。補助金を受給するためにも、「補助金バンク」でプロフェッショナルを検索してみましょう。