これから新たに創業を考えている方や、新規事業の開拓を考えている方は、設備投資による大きな資金の必要性を感じていらっしゃることでしょう。
そこで、初期投資の経済的な負担を軽減できるように、新規事業に使える補助金や助成金を紹介します。これから解説する補助金や助成金の活用を検討していただき、事業の発展に寄与していただければ幸いです。
新規事業を起ち上げに補助金・助成金がおすすめの理由
新しい技術や優秀なスタッフがいたとしても、新規事業が軌道を乗せることは簡単ではありません。新規事業を起ち上げて失敗した場合、このコストは事業主の負担となってしまいます。この投資の費用をすべて、銀行からの借入で行っていた場合、再起不能になることも多いでしょう。
このリスクを小さくするために、補助金・助成金の活用を検討すると良いでしょう。まずは、新規事業を立ち上げる際に、補助金や助成金を活用するのがおすすめである理由を紹介していきます。
- 返済が必要ない資金が手に入る
- 時代の流れが把握できる
- 計画を明確にできる
返済が必要ない資金が手に入る
銀行借入によって資金調達をした場合、このお金はいずれ返済する義務があります。現在は低金利にあるとはいえ、利子も支払う必要があります。事業が成功したとしても、このコストは会社経営にとって負担になりますが、事業がうまく行かない場合は実に大きな負担となります。
それに対して、補助金や助成金は、返済する必要のないお金です。このようなリスクをかなり小さくすることができます。
時代の流れが把握できる
助成金や補助金は、国の機関や地方自治体から企業に向けて交付されるお金です。 国や地方自治体は国内外の課題を検討し、国や地域をより良くするために政策目標を立て実行しています。しかし、国と地方自治体だけでは、その課題を解決し、目標を実現することは難しいのです。
そして、国の機関や地方自治体がこのような助成金や補助金を交付する理由は、政策・方針に即した企業の事業展開・事業拡大を資金面からサポートすることで、政策目標を実現しやすくすることにあるのです。これを逆手に取れば、国内外の課題や時代の流れが把握できるということです。
計画を明確にできる
補助金を申請するときには、多くの場合、経営計画書の提出が求められます。経営計画書では、顧客ニーズや市場動向、事業内容や自社の強み、ターゲットやその魅力をはじめ、必要なコストや将来得られる利益などを具体的に書く必要があります。
申請書を書くことで、自分の会社の事業を見直したり、整理したりすることができるのです。
新規事業に利用できるおすすめの補助金・助成金
創業期に受けることができる補助金や助成金は、直接この時期の補助を対象としたものだけでなく、まだ会社が小さいことを利用して受けることができる補助金・助成金もあります。
補助金・助成金の中身をよく確認しないとわからないので、おすすめしたい補助金・助成金を紹介していきましょう。
- キャリアアップ助成金
- 小規模事業者持続化補助金
- ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金
- 創業助成金(東京都)
- 事業承継補助金
キャリアアップ助成金
「キャリアアップ助成金」は、有期雇用労働者や短時間労働者、派遣労働者といった、いわゆる非正規雇用労働者の企業内でのキャリアアップを促進するため、正社員化や処遇改善の取り組みを実施した事業主に対して助成する制度です。
新規事業を起ち上げる場合に、直接的に関係のある助成金というわけではありませんが、知名度の低い創業期のスタートアップや中小企業にとって、経験豊富な人材の採用は困難なものです。そこで、経験の乏しいスタッフを採用し育てていく必要があり、キャリアアップ助成金を活用するケースがあるのです。
また、キャリアアップ助成金は中小企業事業主の方が、助成金の金額が大きくなる仕組みですが、創業期のスタートアップや中小企業であれば該当するため、効果が大きく活用を検討されるのです。
キャリアアップ助成金には、次の6つのコースがあります。
- 正社員化コース
- 障害者正社員化コース
- 賃金規定等共通化コース
- 諸手当制度等共通化コース
- 選択的適用拡大導入時処遇改善コース
- 短時間労働者労働時間延長コース
例えば、「6. 短時間労働者労働時間延長コース」は、現在雇用している有期雇用労働者等について、週所定労働時間を5時間以上延長、または、週所定労働時間を1時間以上5時間未満延長するとともに処遇の改善を図り、新たに社会保険の被保険者とした場合に助成されます。したがって、業務の拡大にともなって、以前から雇用していた方に労働時間の延長をお願いする場合に活用が想定されるコースです。
助成金の金額は、短時間労働者の週所定労働時間を5時間以上延長し、新たに社会保険に適用した場合は次のようになっています。
中小企業:1人当たり22万5,000円<生産性の向上が認められる場合:28万4,000円>
大企業:1人当たり16万9,000円<21万3,000円>
小規模事業者持続化補助金
小規模事業者持続化補助金とは、販路開拓等(生産性向上)のための取り組みや業務効率化(生産性向上)のための取り組みに対して交付される補助金です。経営計画を策定し、商工会議所の支援を受けながら実施する必要があります。商工業者であれば、個人事業主も補助の対象となります。
応募提出書類として、会社法人の場合は「登記簿謄本(履歴事項全部証明書)」、個人事業主の場合は税務署に提出した「開業届」が必要となりますので、補助金に応募するタイミングで、すでに創業している必要があります。
補助の対象は幅広く、創業したての企業や、新業態を開拓する企業がよく活用する補助金です。新商品を陳列するための棚の購入、販促用チラシの作成や送付から新商品の開発にあたって必要な図書の購入、国内外の展示会、見本市への出展、商談会への参加まで補助の対象となります。
小規模事業者に該当するという要件がありますが、創業したての企業であれば多くの場合問題ないでしょう。
小規模事業者の定義
商業・サービス業(宿泊・娯楽業除く):常時使用する従業員の数5人以下
サービス業のうち宿泊業・娯楽業:常時使用する従業員の数20人以下
製造業その他:常時使用する従業員の数20人以下
補助率と補助金の上限額は、次のようになっています。一般型のほか、2020年にコロナ特別対応型、2021年には低感染リスク型特別枠ができました。
- 補助率:2/3(コロナ特別対応型、低感染リスク型特別枠は3/4)
- 上限金額:50万円(コロナ特別対応型、低感染リスク型特別枠は100万円)
なお、小規模事業者持続化補助金は年に何度か募集している補助金であるため、補助金の申請がしやすいのも特徴の一つです。そのため、販路拡大に向けて動くタイミングでの応募が可能です。
ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金
ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金は、いわゆる「ものづくり補助金」と呼ばれ、メジャーな補助金の一つです。
中小企業・小規模事業者等が、今後複数年にわたり相次いで直面する制度変更(働き方改革や被用者保険の適用拡大、賃上げ、インボイス導入等)等に対応するため、中小企業・小規模事業者等が取り組む革新的サービス開発・試作品開発・生産プロセスの改善を行うための設備投資等を支援してくれます。
設備投資や研究開発、販路開拓、事業再生などの支援をしてくれる補助金ですので、新規事業を考えている企業にとってマッチする補助金です。
ものづくり補助金の補助の対象は、中小企業とされています。しかし、小規模事業者持続化補助金よりも規模の大きな企業も対象です。
- 小売業:資本金5,000万円以下または常時使用する従業員の数50人以下
- 旅館業:資本金5,000万円以下または常時使用する従業員の数200人以下
また、新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受け、社会経済の変化に対応したビジネスモデルへの転換に向けた投資を行う事業者に対して、補助率を引き上げ、営業経費も補助対象とした「低感染リスク型ビジネス枠」が設けられました。補助率は次のようになっています。
- 通常枠 :中小企業 1/2、 小規模企業者・小規模事業者 2/3
- 低感染リスク型ビジネス枠 :2/3
創業助成金(東京都)
東京都では創業希望者への着実な支援により、東京都内開業率の向上を図ることを目標として掲げています。都内の産業活力上等に寄与する創業者等の事業計画に対して、より効果的 な事業実施が可能となるよう、創業初期に必要な経費の一部についての助成が行われます。
助成金の対象は、賃借料や広告費、器具備品購入費、産業財産権出願・導入費、専門家指導費、従業員人件費と多岐にわたるため、使いやすい助成金です。また、従業員の人件費も助成の対象となっています。そして、助成対象事業に対し最長2年間にわたって助成が行われるため、助成の期間も長めに設定されています。
さらに、助成対象期間終了後も東京都中小企業振興公社が継続的に支援を行い、きめ細かくサポートしてくれます。
都内で創業予定の個人の方、都内で事業を行う事業を始めてから5年未満の個人事業主の方、法人代表者の方が対象です。都内で創業という点と、また指定された創業支援事業のいずれかを利用しているという要件もあるため注意が必要です。
創業助成金の助成額と助成率は次のとおりです。
- 上限額: 300万円
- 下限額:100万円
- 助成率: 助成対象と認められる経費の2/3以内
事業承継補助金
中小企業においては、経営者が廃業の可能性を感じたきっかけとして、「経営者の高齢化、健康の問題」「売上の減少」がその半数以上を占めていると、アンケート調査により明らかとなっています。そして、後継者不在により、事業継続が困難になることが見込まれている現状があります。
そこで、中小企業者等の世代交代を通じ、経済の活性化を図ることを目的として創設されたのが「事業承継補助金」です。事業再編や事業統合を含む事業承継を契機として、経営革新等を行う中小企業や小規模事業者等に対して、その取り組みに要する経費の一部を補助してくれます。
事業承継補助金は、大きく2つの類型に分けられています。主に経営者の交代を契機とした経営革新を行う中小企業者等に対して補助する類型「後継者承継支援型」と、事業再編・事業統合を契機とした経営革新を行う中小企業者等に対して補助する類型「事業再編・事業統合支援型」です。
なお、事業を引き継がせる者 (被承継者)と、事業を引き継ぐ者(承継者)の二者が登場するはずですが、承継者が補助対象者として申請する必要があります。
中小企業に該当している要件は次のとおりであり、中小企業基本法第2条に準じた定義とされています。
- 製造業、その他:3億円以下又は常時使用する労働者数300人以下
- 卸売業:1億円以下又は常時使用する労働者数 100人以下
- 小売業:5千万円以下又は常時使用する労働者数 50人以下
- サービス業:5千万円以下又は常時使用する労働者数 100人以下
- 旅館業:5千万円以下又は常時使用する労働者数 200人以下
- ソフトウェア業、情報処理サービス業:3億円以下又は常時使用する労働者数 300人以下
補助の対象は、次の条件のすべてに該当する限り、人件費も含めて幅広く補助の対象となります。
- 使用目的が本事業の遂行に必要なものと明確に特定できる経費
- 承継者が交付決定日以降、補助事業期間内に契約・発注をおこない支払った経費
- 補助事業期間完了後の実績報告で提出する証拠書類等によって金額・支払等が確認できる経費
補助率、補助額は次のとおりですが、「先端設備等導入計画」又は「経営革新計画」いずれかの認定を受けているなどの要件を満たすことにより、補助金上限額が増額され、補助率も3分の2に引き上げられます。
また、廃業をともなう経費が存在するケースでは、補助金の上限額が2倍になります。つまり、「事業再編・事業統合支援型」での補助金額は最大で1,200万円となります。
「後継者承継支援型」
- 補助上限額 : 225万円(要件を満たす場合300万円)
- 補助率 :1/2 (要件を満たす場合2/3)
「事業再編・事業統合支援型」
- 補助上限額 : 450万円(要件を満たす場合600万円)
- 補助率 :1/2(要件を満たす場合2/3)
コロナ禍で登場した「事業再構築補助金」
新型コロナウイルスは、人々の生活様式に大きな変化をもたらしました。そこで、日本政府は特に中小企業の経営者の方々が、このような社会の変化に対応できるよう補助金を設けています。その代表的な補助金が「事業再構築補助金」です。
補助の対象
事業再構築補助金は、ウィズコロナ・ポストコロナ時代の経済社会の変化に対応するための企業の思い切った事業再構築を支援してくれる補助金です。新たな製品等で新たな市場に進出する、主な「事業」を転換する、主な「業種」を転換する、製造方法等を転換する、事業再編を通じて新分野展開、事業転換、業種転換又は業態転換のいずれかを行う中小企業等が対象となります。
中小企業のほかに、中堅企業、個人事業主、企業組合等も補助の対象に含まれます。中小企業の範囲は、以下のようにされています。
- 製造業その他:資本金3億円以下 又は 従業員数300人以下
- 卸売業:資本金1億円以下 又は 従業員数100人以下
- 小売業:資本金5000万円以下 又は 従業員数50人以下
- サービス業:資本金5000万円以下 又は 従業員数100人以下
新型コロナウイルス感染症の影響を受けたことが要件となりますので、次の要件があります。
(1)申請前の直近6か月間のうち、任意の3か月の合計売上高が、コロナ以前の同3か月の合計売上高と比較して10%以上減少している中小企業等。
(2)事業計画を認定経営革新等支援機関や金融機関と策定し、一体となって事業再構築に取り組む中小企業等。
補助の対象は、建物の建築・改修に要する経費、設備費、システム購入費、外注費(製品開発に要する加工、設計等)、研修費(教育訓練費等)、技術導入費(知的財産権導入に係る経費)、広告宣伝費・販売促進費(広告作成、媒体掲載、展示会出展等)等が含まれるため、幅広く活用できる補助金です。
ただし、従業員の人件費及び従業員の旅費は補助対象外であり、汎用品(パソコン、スマートフォン、家具等)の購入費も補助の対象外とされています。
事業再構築補助金の活用例
この事業再構築補助金は、要件に該当するか否かの判断が難しい補助金です。そこで、活用例を3つ紹介します。
(1)居酒屋を経営していたところ、コロナの影響で売上が減少していた飲食業が、店舗での営業を廃止し、オンライン専用の弁当の宅配事業を新たに開始。
店舗縮小に係る建物改修の費用や新規サービスに係る機器導入費や広告宣伝のための費用などが、補助の対象となります。
(2)紳士服販売業を営んでいたところ、コロナの影響で売上が減少した小売業が、店舗での営業を縮小し、紳士服のネット販売事業やレンタル事業に業態を転換。
店舗縮小に係る建物改修の費用や新規オンラインサービス導入に係るシステム構築の費用などが、補助の対象となります。
(3)航空機部品を製造していたところ、コロナの影響で需要が減少した製造業が、既存事業の一部について、関連設備の廃棄等を行い、医療機器部品製造事業を新規に立上げ。
事業圧縮にかかる設備撤去の費用や製造のための新規設備導入にかかる費用、新規事業に従事する従業員への教育のための研修費用などが、補助の対象となります。
申請の流れ
補助金の審査は事業計画を基に行われますので、採択されるためには合理的で説得力のある事業計画を策定する必要があります。事業計画の策定は、要件にもあったように、認定経営革新等支援機関や金融機関と相談しつつ実行する必要があります。
認定経営革新等支援機関には、事業実施段階でのアドバイスやフォローアップも期待されています。事業計画に含める内容は、次の3点です。
(1)事業再構築の具体的内容(提供する製品・サービス、導入する設備、工事等)
(2)事業再構築の市場の状況、自社の優位性、価格設定、課題やリスクとその解決法
(3)実施体制、スケジュール、資金調達計画、収益計画(付加価値増加を含む)
現在の企業の事業、強み・弱み、機会・脅威、事業環境、事業再構築の必要性を念頭におきながら、計画を立てていくと良いでしょう。
申請はjGrants(電子申請システム)での受付とされています。GビズIDプライムアカウントの発行に2~3週間ほど要する場合がありますので、事前のID取得が効率的です。
次に、事業計画の策定には時間がかかりますので、早めに進めておく必要があります。また、必要に応じて、早めに認定経営革新等支援機関に相談すると良いでしょう。認定経営革新等支援機関は、中小企業庁ホームページで確認できます。
電子申請システムから補助金を申請したら、採択または不採択の連絡がきます。そして、実際の交付決定からが、1年程度の補助事業期間となり、この期間に設備の購入等を行います。補助金は事業者による支出を確認した後に支払われますので、計画を立て始めてからは1年以上先になると考えておいてください。
まとめ
補助金が採択されるためには、事業計画や経営計画を作成し、厳しい審査を経る必要があります。この事業計画などを書き上げ、今後のプランを明確にするとともに、専門家にその内容を確認してもらうと良いでしょう。そうすることで、これまで気づかなかった視点が手に入ると同時に、補助金の採択にも近づくことができます。
補助金を申請したい人と、多数の専門家を抱えたマッチングプラットフォームである「補助金バンク」の活用を検討してみてください。補助金や助成金について専門家に相談することができます。創業や新規事業の展開を考えている方は、うまく活用していただきたいです。