新型コロナウイルス感染症による影響は、ビジネスに大きな変化をもたらしました。社内の労働環境の整備を中心としたデジタル化だけでなく、業務やビジネスモデルを根本から見直さざるを得ない会社も多いのではないかと思います。
そして新分野や新市場への開拓を迫られ、マーケティング戦略を考えている方も多いことでしょう。そこで今回は、マーケティングに利用可能な補助金について説明していきます。
マーケティングに利用できる補助金・助成金はある?
もちろん、マーケティングに利用できる補助金や助成金はあります。ただし、直接マーケティングに利用できると案内されている補助金は少ないと言えます。しかし、少し経営戦略を練りながら考えを進めていくと、マーケティングに利用できる補助金や助成金があります。
新型コロナウイルス感染症による影響により、社会の常態が大きく変化しました。そして、新しく定着した常態は「ニューノーマル(新しい常態)」と呼ばれます。買い物のスタイルはリアル店舗での買い物からオンラインショッピングへの変化勢いがつき、オンライン会議やオンライン面接、ウェビナーなどもよく聞くところとなりました。マーケティングも、この消費者の行動変化につれて変化しているのです。
マーケティングに利用できるおすすめの補助金・助成金
それでは、マーケティングに利用できる補助金・助成金を具体的に紹介していきましょう。紹介するのは次の4点です。
- 小規模事業者持続化補助金
- IT導入補助金
- 共同・協業販路開拓支援補助金
- 販路拡大助成事業
小規模事業者持続化補助金
小規模事業者持続化補助金は、経営計画を作成し、その計画に沿って販路開拓の取組等を行う際に支援を受けられる補助金です。経済産業省のホームページでも「小規模事業者が変化する経営環境の中で持続的に事業を発展させていくため、経営計画を作成し、販路開拓や生産性向上に取り組む費用等を支援します。」と案内されています。
小規模事業者持続化補助金は販路開拓費用で計上できることから、マーケティングの費用として計上できることになります。ホームページの制作やLP制作、ECサイト制作、広告出稿(ネット、紙)、SNS運用、チラシやパンフレット制作などを補助の対象として申請することができます。
また、例えば新たにPOSレジソフトウェアを購入し売上管理をすることで、マーケティングに利用することができ業務の効率化にも貢献します。このレジソフトウェアの購入費も補助の対象ですし、そのマーケティング戦略に関するコンサルティングにかかった費用も補助金の対象となるため使いやすい制度です。2020年は、さらにコロナ特別対応型という特別なコースも設けられており、「非対面型ビジネスモデルへの転換」に関わる費用が対象となっていました。
小規模事業者持続化補助金は、その名のとおり小規模事業者が対象です。小規模事業者に該当するか否かは、常時使用する労働者の数によって以下のように定義されています。
業種 | 従業員数 |
---|---|
商業・サービス業(宿泊・娯楽業除く) | 常時使用する従業員の数5人以下 |
サービス業のうち宿泊業・娯楽業 | 常時使用する従業員の数20人以下 |
製造業その他 | 常時使用する従業員の数20人以下 |
補助率と上限額は以下のようになっています。一般型のほか、2020年にコロナ特別対応型ができました。
- 補助率:2/3(コロナ特別対応型は3/4)
- 上限金額:50万円(コロナ特別対応型は100万円)
IT導入補助金
IT導入補助金は、ITの導入に使うことができる補助金です。事務局業務を運用している一般社団法人サービスデザイン推進協議会のページでは、次のように案内されています。
IT導入補助金は、中小企業・小規模事業者等のみなさまが自社の課題やニーズに合ったITツールを導入する経費の一部を補助することで、みなさまの業務効率化・売上アップをサポートするものです。自社の置かれた環境から強み・弱みを認識、分析し、把握した経営課題や需要に合ったITツールを導入することで、業務効率化・売上アップといった経営力の向上・強化を図っていただくことを目的としています。
出典:IT導入補助金
IT導入補助金という補助金名ですが、単なるホームページ制作では、補助金は採択されないところがポイントだと言えます。
- 定型処理作業をRPA等の自動化ツールを利用し自動化する
- さまざまな機能が付随するグループウェアを導入し社員間の情報共有を円滑にする
- ホームページが担う自社のホームページを訪れた顧客の動きを分析してマーケティングをする
など、小規模事業者持続化補助金よりも高度な内容を踏まえる必要があります。マーケティングにつながるような、ニューノーマルへの対応が求められていると言えるでしょう。
小規模事業者持続化補助金に比べ条件が厳しくなっていますが、補助金額の上限が高くなっています。付加価値の高いECサイトを構築する場合などはIT導入補助金を利用しましょう。
IT導入補助金では、導入するITツールが担うプロセスの数と、補助対象となるITツールの補助対象経費から、補助金の上限額を2つに区分しています。
大分類I ソフトウェア(業務プロセス・業務環境) | 大分類II ソフトウェア(オプション) | 大分類III 役務(付帯サービス) | |
---|---|---|---|
小分類 |
|
自動化・分析ツール
汎用ツール(テレワーク環境の備に資するツール含む) 機能拡張 データ連携ツール セキュリティ |
導入コンサルティング
導入設定・マニュアル作成・導入研修 保守サポート ハードウェアレンタル |
6つの業務プロセスのうち、必ず1つ以上を担うソフトウェアであるA類型の補助金額は30万~150万円未満となっています。
6つの業務プロセスのうち、必ず4つ以上を担うソフトウェアであるB類型の補助金額は150万~450万円となっています。ITの導入に先立って、業務のうちIT化が可能なプロセスを明確にしておく必要があります。
- A類型: 30万~150万円未満
- B類型: 150万~450万円
- 補助率:1/2以下
また、2020年はIT導入補助金特別枠(C型)が設けられ、テレワークの導入や業務改善の費用に補助されました。補助率が最大3/4に拡充され、最大450万円を補助となっています。
共同・協業販路開拓支援補助金
地域振興等機関(地域に根付いた企業の販路開拓を支援する機関)が中心的な役割を担い、企業の商品やサービスの販路開拓に取り組むために要する経費の一部を補助する補助金です。地域振興等機関として、企業の販路開拓につながる支援を事業として行う法人である必要があります。
継続可能なマーケティング手段を構築する取組に対して、補助金が出されます。地域振興等機関に該当していれば、使いやすい補助金といえます。
- 補助率:2/3以内(項目によっては定額)
- 上限金額:5,000万円
販路拡大助成事業
デジタル化が推進されている一方で、これまで通りの販路拡大の助成金もあります。東京都が行った「販路拡大助成事業」がそれです。助成内容は、都内中小企業者が販路拡大及び経営基盤のさらなる強化を図るために行う、展示会への出展等に係る経費の一部を助成するというものです。
東京都内で事業を行っていることが要件で、個人事業者の場合、 都税事務所発行の「個人事業税の納税証明書」及び都内区市町村発行の「住民税納税証明書」が提出できることなどの証明が必要です。しかし、いくつかの地域で同じ趣旨の補助金があります。地元の地域でも同じような助成金や補助金がないか確認する価値はあるでしょう。
補助の対象も幅広く、出展小間料、資材費から自社Webサイトの制作や自社製品チラシなどの費用も補助されるため、マーケティングでも活かせる補助金です。
- 助成限度額:150万円
- 助成率:
- 小規模企業者:2/3以内
- その他中小企業者=1/2以内
補助金の申請に関する注意点
補助金は返済不要の資金なので、中小企業にとってはありがたい存在です。しかし、補助金の原資は国民の方が納めた税金が主です。そのため、常日頃から法律を遵守し、事業計画や経営計画を提出し、採択される必要があります。
補助金を申請するにあたって注意しなければならないことには、次のような点が挙げられます。
- 計画書の作成をしなければならない
- 法制度の把握と遵守が必要になる
- 補助金は前払いではない
計画書の作成をしなければならない
補助金を受給するためには、事業計画や経営計算を作成し、厳しい審査を経る必要があります。これらの計画書において、新事業の魅力やそれを実現するための計画、得られる売上や利益などを書面にして提示しなければなりません。
特に決まった様式や項目が決まっているわけではありませんが、次の9項目は考えなくてはならないでしょう。
- 新事業の魅力
- 人・モノ・金が充分である
- 想定される売上及び利益
- ターゲットとなる市場
- ターゲットにアプローチできること
- 事業の問題点やリスク
- 市場規模や人口動向
- 経営する上での自社の競争優位性
- 具体的な事業の立ち上げ方法と運営方法
これらを書くのは骨の折れる作業であり、とても時間がかかります。また、自分の会社や業界のことは、当たり前になっており気付きにくいことも多いです。その中で強みや競争優位性をまとめ新しい事業の展開を書く必要があるため、想像以上に大変な作業だと言えます。
法制度の把握と遵守が必要になる
補助金の採択を受けた場合、「補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(補助金適正化法)」を遵守する必要があります。この法律によって、事業内容に変更が生じた場合や中止する場合も、行政に報告しなければなりません。
また、多くの場合、資金の使途が補助金の目的と合致したものであるか、補助事業に関する経費の内訳などを記載した書類を提出する必要があります。そして、補助金の不適切な使用には、補助金の全部または一部を返還する義務が生じます。補助金の不適切な使用には、補助金の全部または一部を返還する義務が生じます。
その他にも、反社会的勢力に関係する事業者ではないこと、事業場で用いている賃金が地域別最低賃金以上であること、訴訟や法令遵守上において問題を抱えていないなど、公募要領を熟読し要件を満たしていることを確認しなければなりません。公募要領だけでも数十ページにわたるため、この作業だけでも数時間はかかると覚悟しておきましょう。
補助金は前払いではない
無事に補助金に採択されたとしても、注意するポイントがあります。補助金の受給のタイミングは前払いではないことです。採択された補助事業が終了した後に、実際に支払った経費支出の一部に対し精算払いを受けるため後払いとなります。したがって、補助金が支給されるまでの資金繰りを計画しておかなければならないのです。
新型コロナウイルス感染症による影響を受け、ただでさえ経営状況が厳しい中で新規事業への投資資金が必要となるのですから、ギリギリの状態かもしれません。そして、十分なキャッシュが必要な上に、補助事業として始めた事業がすぐに軌道に乗るとは限りませんし、必ずしもうまく行くとは限らないためより注意が必要です。
また、これまで進出したことのない業界に進出するケースでは、想定外の支出が生じることも考えられますし、思ったように業界に馴染めず人件費もこれまで以上にかかることも考えられます。
まとめ
補助金が採択されるためには、事業計画や経営計算を作成し、厳しい審査を経る必要があります。これらの計画書において、新規事業の魅力やそれを実現するための手段、得られる売上や利益などを書面にして提示しなければなりません。
計画書の作成は時間がかかりますし、自分の会社や業界のことは当たり前になっており気づきにくいことも多いので、専門家への相談をする方がスムーズに進められるでしょう。
その上、マーケティングに関する補助金は、直接的な補助金は多くなく、小規模事業者持続化補助金 、IT導入補助金、共同・協業販路開拓支援補助金、販路拡大助成事業などの補助金をうまく活用する必要があります。自分の会社や業界の動向だけでなく、補助金に関しても十分な知見を有して補助金を活用しなければならないのです。
マーケティングに関する補助金を活用するには、専門家のマッチングプラットフォームである「補助金バンク」の利用も検討してみてください。補助金バンクでは、補助金や助成金について専門家に相談することができます。補助金バンクを通じて自社に適用できる補助金を探し、専門家とともに計画書を作成することが採択への近道となります。