ものづくり補助金は、設備投資や新サービスを開発するといった革新的な取り組みにチャレンジする中小企業・小規模事業者を支援するために設立された補助金制度です。最大1,000万円まで補助を受けることができる魅力的な補助金制度ですので、歯科医院や歯科技工所を経営している方も競合医院との差別化や成長戦略を明確化するために、積極的に活用したいところです。
今回は、ものづくり補助金の概要から歯科での活用例、申請する際の注意点まで網羅的に解説していきます。ものづくり補助金の申請の際にぜひお役立てください。
ものづくり補助金とは
ものづくり補助金とは、「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」の略称で、中小企業庁と独立行政法人中小企業基盤整備機構が、中小企業による新商品や新サービスの開発、または新たな生産方式や提供方法の導入など、革新的な取り組みを実現するための設備投資などを支援する補助金です。
名称に「ものづくり」とあることから製造業に特化した補助金といった印象をお持ちの方も多いのですが、サービス業や小売業、もちろん医療業の申請も採択され補助金を交付されており、実際には業種による制限はほぼありません。
活用するメリット
医業業に該当する歯科医院や歯科技工所が、ものづくり補助金を活用するメリットは次のとおりです。
- 補助金額が大きい
- 低リスクで設備投資できる
- 自社の将来像を明確化できる
補助金額が大きい
中小企業・小規模事業者向けの補助金制度の多くは、補助金額がそれほど大きくありません。その点、ものづくり補助金は最大1,000万円まで補助を受けることができますので、他の補助金では実現できなかった取り組みに挑戦できます。
低リスクで設備投資できる
CAD/CAMシステムや3Dスキャンを導入できれば高精度の治療が可能になり、近隣の競合医院と差別化することができます。しかし、失敗したときのリスクを考えて、設備投資を躊躇してしまう医院も多いと思います。
せっかく設備投資をしても売り上げにつながらなければ、せっかくの資金がムダになるからです。その点、ものづくり補助金は機械装置の導入に最大1,000万円が補助されますし返済も不要ですので、リスクを大幅に減らすことができます。
自社の将来像を明確化できる
ものづくり補助金は最大1,000万円という大きなお金を補助してくれる制度ですから審査もそれなりに厳しく、全体では3〜4割の採択率となっています。
採択を得るためには、自社が今度どのように成長していくかのビジョンを明確にする必要があります。そのビジョンがないと、ものづくり補助金の趣旨である「設備投資や新サービスを開発するといった革新的な取り組み」がどういうものかわからず、補助金申請に必要な事業計画を作成することができないからです。
採択される書類を作成するために、「どのように成長していきたいか」「そのためにはどのような設備投資が必要か」といった事項を明確にしましょう。そうすることで、自社の将来像を明確化する機会になります。
医療分野の採択率
ものづくり補助事業公式ホームページでは、これまでの申請数や採択数を確認することができます。
歯科医院や歯科技工所が該当する「医療業」の採択率を確認してみると、約40%となっています。小売業やサービス業の採択率が約33%であることを考えると、比較的高い採択率といえます。また、申請数は圧倒的に多い製造業に次いで第2位となっており、歯科医院をはじめとした医療業にとって活用しやすい補助金制度であることがわかります。
補助金額
ものづくり補助金には3つの事業累計があり、それぞれの事業累計によって補助金額が異なります。一般的な歯科医院や歯科技工所は「一般型」での申請となります。
事業類型 | 概要 | 補助上限額 | 補助率 |
一般型 | 新製品や新サービス開発、生産プロセスの改善などに必要な設備投資、試作開発を支援 | 1,000万円 | 中小企業:1/2 小規模企業:2/3 |
グローバル展開型 | 海外拠点などの活動を含む、海外事業の拡大と強化を目的とした設備投資等の場合 | 3,000万円 | 中小企業:1/2 小規模企業:2/3 |
ビジネスモデル構築型 | 中小企業30者以上のビジネスモデル構築と事業計画策定のための面的支援プログラムを補助 | 1億円 | 定額 |
また、新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受けて、新型コロナウイルスへの対応を目的とする「低感染リスク型ビジネス枠」という特別枠が設けられています。
申請の要件として、補助対象経費全額が下記のいずれかの要件に合致する必要があります。
- 物理的な対人接触を減じることに資する革新的な製品・サービスの開発(例:顧客への製品供給継続のための設備投資)
- 物理的な対人接触を減じる製品・システムを導入した生産プロセス・サービス提供方法の改善(例:従業員のテレワークに必要なシステムの構築)
- ウィズコロナ、ポストコロナに対応したビジネスモデルへの抜本的な転換に係る設備・システム投資(例:キャッシュレス端末の導入やオンラインによるサービスの提供)
特別枠で申請するメリットには次のようなものがあります。
- 補助率が2/3に上がる
- 特別枠で不採択になった場合、通常枠で優先的に採択される
- 通常枠では対象外となる宣伝広告・販売促進費が補助の対象となる
これらのメリットがありますので、上記の類型への取り組みが可能であれば、特別枠で申請した方が良いでしょう。
申請要件
ものづくり補助金の申請要件は次のとおりです。
- 日本国内に本社及び実施場所を有する中小企業者および特定非営利活動法人
- みなし大企業ではない
- 補助対象外事業ではない
- 付加価値額が年率3%以上向上、かつ、事業計画期間(補助金交付後3~5年間にわたって)において給与支給総額が年率平均1.5%以上向上、かつ、事業場内最低賃金が地域別最低賃金+30円以上の3つを満たす
- 申請締め切り日前10ヶ月以内に同一事業(令和元年度補正ものづくり・商業・サービス生産性向上促進事業)の採択決定及び交付決定を受けた事業者は申請できない
- 申請時点で補助事業の実施場所(工場や店舗等)を有していること
- 申請時点で申請要件を満たす賃金引上げ計画を従業員に表明し、事業計画を策定・実行すること
上記の細かい規定等は公募要領に細かく記載されていますので、申請を検討する際はご確認ください。
ものづくり補助金の歯科での活用例
ものづくりの概要や医療業で活用するメリットなどを解説してきましたが、ここでは具体的にどのように活用すれば良いのか、採択例を含めて紹介します。
対象となる経費
ものづくり補助金の申請要件を満たす歯科医院や歯科技工所であれば、設備投資や革新的サービスの開発がどんな内容であったとしても補助の対象になるかというと、実はそんなことはありません。補助の対象となる経費は定められており、代表的なものは次のものがあります。
- 機械装置・システム構築費:機械装置や専用ソフトウェアの構築や購入
- 技術導入費:事業を遂行するために必要な知的財産権等の導入
- 専門家経費:事業を遂行するために依頼する専門家に支払う報酬や諸経費
- 運搬費:運搬料や郵送費用
- クラウドサービス利用費:クラウドコンピューティングの利用
上記の中で利用する機会が多くなるのは「機械装置費・システム構築費」で、機械の設置はもちろん、工具や器具の購入・借用にかかる経費、専用ソフトウェア・情報システムの構築や購入・借用にかかる経費などが該当します。
歯科の採択例
ものづくり補助金が採択された歯科や歯科技工所の申請は、どのような内容が多いのでしょうか?直近の第6次ものづくり補助金で採択された内容を実際に確認してみましょう。
歯科
- 最新式CTを活用した最小限の来院回数での治療を完結できる治療提供モデルの確立
- 高精度画像データ活用による補綴装置の非対面での調達と難 治性病巣の根治
- 最新設備導入による高品質義歯制作と患者の生活品質向上 への取り組み
歯科技工所
- 歯科技工所におけるデジタル化と新技術の導入による新型コロナ感染対策及び生産プロセスの改善
- 歯科治療の生産性を向上させるデジタル特化型歯科技工所 の実現
- 業界初のCAD/CAMソフト開発による生産プロセス変更と訪問同行体制構築による医療分野への貢献
歯科での活用例
採択結果から、申請内容としては設備投資が多いことがわかります。特に多いのがCTやCAD/CAMです。
従来、総合病院等他の医療機関に依頼せざるを得なかったCTの撮影を自分の歯科医院で行えるようになれば、患者との接触回数を増やしつつ、地域医療の発展に貢献する取り組みが行えるようになります。また、ポストコロナを見据えた口腔内スキャナでのマウスピース矯正や感染症リスク低減と補綴(ほてつ)治療の高質・短期化に向けたCAD/CAMの導入の取り組みなどが実際に多数採択されています。
また、2021年の傾向として、
- 感染対策に配慮した革新的歯周病治療プログラムの構築
- 高圧滅菌器や非接触化を実現する医療機器を導入し、安全・安心な矯正治療の提供
- 歯科技工所におけるデジタル化と新技術の導入による新型コロナ感染対策及び生産プロセスの改善
など、新型コロナウイルス感染症対策のための取り組みの採択数が増加傾向にあります。
まとめると、歯科がものづくり補助金で採択されるためには、「設備投資」「コロナ対策」を盛り込んだ事業計画を策定する必要があるといえるでしょう。
歯科医院がものづくり補助金の申請する際の注意点
ものづくり補助金の採択率は約40%となっており、決して簡単に採択される制度ではありません。申請しても必ずしも採択されるとは限りませんし、費やした時間や費用をムダにしてしまう可能性もあります。
そこで、ここではものづくり補助金を申請する際の注意点や知っておくべきポイントを解説します。万全の状態で申請できるよう参考にしてください。
医療法人は対象外
ものづくり補助金は中小企業・小規模事業者を支援する補助金制度とお伝えしましたが、医療法人で経営されている歯科医院や病院は対象外であるため注意が必要です。ものづくり補助金は申請な可能な法人や組合などを明確に規定していますが、医療法人は対象外と定められているのです。
また、社会福祉法人や社団法人、財団法人なども対象外となっています。結論としては、個人事業主としての歯科医院やクリニックは申請可能、医療法人は申請不可ということです。
MS法人での申請は慎重に行う
ものづくり補助金では医療法人の申請は認められていませんが、MS法人(メディカルサービス法人)の申請も難しいと考えた方が良いでしょう。
MS法人は、法令上医療機関でなくてはできない業務以外で、病医院運営に関わる事業を行う法人のことですが、ものづくり補助金の目的は革新的な事業に意欲的に取り組む事業者を支援することですので、多くのMS法人のように事業実態がない、もしくは薄い法人で申請してしまうと虚偽申請になってしまい問題です。
たとえば、医療法人を運営している事業者が歯科技工所をMS法人として分離しているように、実態が明確に認められる場合は申請が通る可能性もありますが、実務上は難しいと考えられるため、ものづくり補助金をMS法人で申請しようと検討しているのであれば注意が必要です。
補助金は後払い
ものづくり補助金には後払いシステムが採用されています。たとえば、1,500万円の機械を購入し、1,000万円の補助金を受ける場合、差額の500万円だけ負担すれば良いと考えられがちですが、実際にはまず1,500万円を支払い、後ほど1,000万円が振り込まれるといった流れになります。
ですから、事業計画を策定する際には、手元の資本金を確認する必要がありますし、足りない場合は借入先の検討も必要になってきます。
申請は電子申請のみ
ものづくり補助金の申請方法は電子申請のみとなっており、郵送等での申し込みはできないことには注意が必要です。
電子申請をするには、事前にGビズIDアカウントの取得が必要です。取得までに1〜2週間前後かかりますので、事前に取得手続きを行いましょう。GビズIDアカウントについての詳しい説明や取得手続きについては、GビズIDオフィシャルサイトにてご確認ください。
また、電子申請の流れについては、ものづくり補助金の公式ホームページに「電子申請システム操作マニュアル」が掲載されていますので、申請をスムーズに行うために参照してみてください。
まとめ
コンビニよりも多いと言われる歯科医院。人口が減少している近年において、歯科医院間の経営は厳しくなっています。その中で、最先端の医療用機械や器具を設置し、高度な治療技術を提供できる環境を整えることは、集客力の強化につながります。
ものづくり補助金は、最新設備の導入による治療機会の提供のような革新的なサービスを支援する補助金制度であるため、他の歯科医院も同じような取り組みでは「革新的」と認められなくなるでしょう。競合となる医院を一歩でもリードするために、ものづくり補助金の申請には早めに取り掛かることをおすすめします。
申請について疑問点がある場合は、当サイト「補助金バンク」にお気軽にお問い合わせください。経験豊富な補助金申請の専門家がサポートさせていただきます。