東京都中小企業振興社が実施する「革新的事業展開設備投資支援事業」をご存知でしょうか?さまざまな課題に挑戦し、イノベーションを起こそうとする中小企業を応援する補助金で、「ものづくり補助金」の東京都版と言われています。
今回は、この「革新的事業展開設備投資支援事業」について、概要や助成対象事業などを紹介していきます。
革新的事業展開設備投資支援事業の概要
「革新的事業展開設備投資支援事業」は、公益財団法人東京都中小企業振興社が実施する補助金です。現状に満足することなく果敢に挑戦する中小企業等が、さらなる発展に向けた競争力強化、成長産業分野への参入、IoT・ロボット活用、後継者によるイノベーションを目指す際に必要となる最新機械設備の購入経費の一部を助成するものです。
2020年10月1日現在で東京都内に登記簿上の本店または支店があり、都内で2年以上事業を継続している中小企業者等に申請資格が認められます。助成対象期間は、交付決定日の翌月1日から1年6ヶ月となっており、この間に設備の導入などを実施する必要があります。
ちなみに、直近の第8回募集の助成対象期間は2021年4月1日から最長で2022年9月30日となっているため、交付決定を受けた中小企業等はこの期間内に間に合うように準備を進めましょう。
詳しくは後述しますが、助成対象事業は4つに区分けされ、競争力強化、成長産業分野、Iot・ロボット活用、後継者イノベーションがあります。助成限度額は、それぞれ1億円から3千万円で設定されており、助成下限額はいずれの事業も100万円となっています。
助成対象経費は、最新機械設備の購入・搬入・備付に要する経費で、1基100万円以上のものに限定されます。
このように、「革新的事業展開設備投資支援事業」は中小企業における最新設備導入や後継者にイノベーションを支援する補助金です。この特徴が、東京都版の「ものづくり補助金」と呼ばれる所以です。東京都に本店や支店を置いている中小企業からすると、とても有利な補助金と言えるでしょう。
革新的事業展開設備投資支援事業の助成対象事業
革新的事業展開設備投資支援事業の助成対象事業は4つに区分けされています。ここでは、この4つの助成対象事業がどのような内容なのか紹介していきます。
4つの区分け
- 競争力強化
- 成長産業分野
- IoT・ロボット活用
- 後継者イノベーション
競争力強化
1つ目は「競争力強化」です。さらなる発展に向けて、競争力強化を目指した事業展開に必要となる最新機械設備を新たに購入する事業です。
4つの事業の中で最も申請数が多いのがこの事業で、
- コスト削減
- 製造リードタイム短縮
- 新設備導入によるボトルネック工程の解消
- 省エネルギー
といった取り組みが競争力強化に該当します。
対象となるのが「中小企業者」と「小規模事業者」であり、助成限度額が異なります。前者は最大1億円、後者は最大で3千万円となります。
なお、小規模事業者とは、常用従業員数が「製造業・その他」の場合は20人以下、「商業・サービス業」の場合は5人以下のものを指します。
成長産業分野
2つ目が「成長産業分野」です。成長産業分野の「支援テーマ」に合致した事業展開に必要となる最新機械設備を新たに購入する事業が該当します。
支援テーマ
- 医療・健康・福祉
- 環境・エネルギー
- 危機管理
- 航空機・宇宙
- ロボット
- 自動車
上記の分野の業種の企業はぜひ活用したいところです。
IoT・ロボット活用
3つ目が「IoT・ロボット活用」です。さらなる発展に向けて、「生産性向上」を目指した事業展開に必要となる最新機械設備を新たに購入する事業が該当します。IoT分野とロボット分野で線引きがされており、それぞれ以下のようになります。
- 【IoT化】機械設備導入と同時にIoT化を進めるために必要となる最新機械設備を新たに購入する事業
- 【ロボット導入】産業用ロボット、サービスロボット等を購入して行う生産性向上に資する事業
近頃IoTとロボットは注目を集めており、ビジネスだけでなく日常生活でもその活躍が期待されています。昨今の情勢を反映した助成金と言えます。
後継者イノベーション
最後となる4つ目が、「後継者イノベーション」です。事業承継を契機とした後継者によるイノベーションに必要となる最新機械設備を新たに購入する事業が該当します。
現時点で直ちにイノベーションを起こすことは難しいけれど、後継者の代でイノベーションを起こそうとする企業が利用しやすい事業内容となっています。中長期的なビジョンでイノベーションを起こそうとする企業は、積極的に活用したいところです。
2021年に申請するなら「ものづくり補助金」を利用しよう
ここまで、公益財団法人東京都中小企業振興社が実施する補助金である「革新的事業展開設備投資支援事業」についてその概要や事業内容をご紹介してきました。しかし、「革新的事業展開設備投資支援事業」は、2021年3月1日現在、申請の受付けを終了しています。
8回に渡り実施されてきているため、今後第9回が実施される可能性もありますが、現時点では申請することができません。
そこで、いますぐに補助金の申請をしたいと考えている方は、「ものづくり補助金」を申請しましょう。正式名称は「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」です。
ものづくり補助金は経済産業省が実施している補助金で、中小企業等による生産性向上に資する革新的サービス開発・試作品開発・生産プロセスの改善を行うための設備投資を支援する補助金です。このことからもわかる通り、ここまででご紹介した「革新的事業展開設備投資支援事業」と「ものづくり補助金」とは補助の対象とする事業が似通っています。
「革新的事業展開設備投資支援事業」の募集が終了してしまっても、「ものづくり補助金」へ申請すれば設備投資やイノベーションといった目的は達成できるでしょう。とはいえ、補助金の上限額はものづくり補助金の方が一般的には低くなってしまいます。この点は留意しておきましょう。
ものづくり補助金の補助額・補助率
ものづくり補助金は、経営革新と生産性向上がテーマになっています。そのため、経営革新(新商品、新サービスの開発、生産プロセスの開発)や、生産性の大幅向上に資する取り組みが評価され、補助金が支給されることとなります。
ものづくり補助金の類型には、次の3つがあります。
- 一般型
- グローバル展開型
- ビジネスモデル構築型
それぞれの補助額の上限は次のとおりです。下限額はいずれも100万円です。
- 一般型:1,000万円
- グローバル展開型: 3,000万円
- ビジネスモデル構築型:1億円
補助率は、原則として2分の1で、一般型とグローバル展開型に応募し採択された小規模事業者は3分の2となります。
上記の通り、ものづくり補助金の上限額は類型ごとに1,000万円、3,000万円、1億円と異なりますが、グローバル展開型やビジネスモデル構築型は要件が厳しく、申請が非常に難しいです。そのため、ものづくり補助金の補助額上限は一般型の1,000万円と考えておいた方が無難です。
ものづくり補助金の対象となる経費は設備投資のための費用です。人件費や消耗品費といった経費は対象とならないため注意しましょう。
なお、ものづくり補助金を申請するためには電子申請(Jグランツ)の利用が必須です。Jグランツの利用には「GビズIDプライムアカウント」が必要ですが、アカウントの取得は2週間以上かかります。まだお持ちでなければ、まずはアカウントを申請しましょう。事前に、電子申請システムを利用できる環境を整えておくとスムーズに申請ができます。
ものづくり補助金の要件
ここでは、ものづくり補助金の主な要件をご紹介していきます。当然ですが、要件を満たしていなければ補助金は支給されません。ここで要件をよく確認しておきましょう。
申請適格
前提として、ものづくり補助金の一般型とグローバル展開型は中小企業・小規模事業者などが対象とされ、業種は問われません。会社や組合、特定非営利活動法人(NPO法人)のほか、個人事業主も該当します。そのため、基本的には事業を営んでおり後述の規模要件を満たせば誰でも申請が可能です。
申請時点で既に創業していること
ものづくり補助金は、既に創業している企業や事業者を対象としています。そのため、これから創業予定の事業者は申請できません。具体的には、会社をはじめとして法人であれば法務局での設立登記、個人事業主であれば税務署での開業届を提出していることが要件となります。
ただ、当然ながら創業間もなく実績のないうちから申請する場合は、具体的かつ現実的な事業計画書で自社の将来性をアピールし少しても採択率を上げる努力が求められます。
「中小企業」「小規模事業者」に該当すること
ものづくり補助金を申請するためには、業種に応じた資本金の額や従業員の人数からなる規模要件を満たさなければなりません。各業種の規模要件は次のとおりです。
【製造業・運輸業・建設業・ソフトウェア業・情報処理サービス業など】
- 資本金:3億円以下
- 従業員数:300人以下
【ゴム製品製造業】
- 資本金:3億円以下
- 従業員数:900人以下
【卸売業】
- 資本金:1億円以下
- 従業員数:100人以下
【旅館業】
- 資本金:5,000万円以下
- 従業員数:200人以下
【その他サービス業】
- 資本金:5,000万円以下
- 従業員数:100人以下
【小売業】
- 資本金:5,000万円以下
- 従業員数:50人以下
ここで注意が必要なのが、資本金と従業員数の両方を満たす必要はないということです。資本金、従業員数のどちらかを満たしていれば規模要件を満たすこととなります。
例えば、卸売業で資本金が2億円であっても、従業員数が90人であれば規模要件を満たします。
事業計画の作成・表明
ものづくり補助金を申請する上でもっとも高いハードルであり、かつ、審査の上で最も重要なのが事業計画の作成と表明です。ものづくり補助金を申請するためには、付加価値向上・従業員の賃金引き上げといった要件を満たす3〜5年の事業計画を作成し、従業員に表明する必要があります。
事業計画書には、3つの要素を盛り込まなければなりません。
3つの要素
- 付加価値額の年率平均3%以上の増加
- 給与支給総額の年率平均1.5%以上の増加
- 事業場内最低賃金を『地域別最低賃金+30万円以上』の水準とすること
まず1つ目が、「付加価値額の年率平均3%以上の増加」です。ものづくり補助金において、付加価値額とは営業利益と人件費、減価償却費を加算したものを指します。付加価値額が年率平均3%以上増加するよう、事業計画を策定する必要があります。
2つ目が「給与支給総額の年率平均1.5%以上の増加」です。ここでの「給与」には、毎月の給料だけでなく、賞与(ボーナス)や家族手当・通勤手当といった各種手当が含まれます。役員報酬も「給与」に含まれます。
しかし、福利厚生費や退職金といった給与所得以外のものは含まれません。算定の基礎となる従業員は正社員だけでなく非常勤・非正規を含む従業員全員となります。
3つ目が「事業場内最低賃金を『地域別最低賃金+30万円以上』の水準とすること」です。事業場所在地の地域別最低賃金よりも30万円を加算した賃金水準を確保しなければなりません。
なお、2つ目と3つ目については、所定様式の「賃金引き上げ計画の表明書」に従業員代表者が押印する必要があります。
上記の通り、ものづくり補助金を申請するためには、従業員の賃金水準を高く保ち、経営基盤がしっかりとしていなければなりません。事業計画は、自社の経営基盤の堅実性をアピールできるだけの具体性も持った記載を心がけましょう。
ものづくり補助金の活用事例
最後に、ものづくり補助金の活用事例を3つ紹介しましょう。
設備投資と生産システム導入により生成性向上|株式会社弘木技研
株式会社弘木技研は、家具製造業として創業後、現在は鉄道車両部品製造業を営む会社です。新幹線車両の乗降口に組み込まれる「出入台ユニット」や「デッキと客室を仕切る妻パネル」などを主に製造しています。
限られた人員で海外案件や国内の需要に広く対応するため、生産設備は定期的に最新のものへと更新しています。生産管理システムについても、IoTやIT技術を折り込みながらバージョンアップを図っており、こうして取り組みが生産性の向上につながっています。
オリジナル製品開発による競争力強化|有限会社内田縫製
有限会社内田縫製は、多様なミシン技術を駆使して多品種の製品を生産する技術力を持った会社です。デニムを中心に、大手メーカーやセレクトショップのOEMを行っています。
2016年から、自社で開発したオリジナル製品「UCHIDAHOUSEI」ジーンズの製作・販売を開始。当初は自社の技術力・企画力を広く発信し、事業の柱であるOEMの受託拡大に繋げることを狙いとしていましたが、これに留まらず、知名度の上昇によりUターン・Iターン人材の人材獲得にも良い影響を及ぼしています。
さらに、専門技術が求められるパターンチェック工程にITを導入することで、作業時間の短縮や多用工化を実現しています。
新技術の活用で世界の地下インフラに貢献|ヤスダエンジニアリング株式会社
ヤスダエンジニアリング株式会社は、水道・下水・電力・ガス・通信など、生活に欠かせない地下管路インフラの施工会社です。
2012年に、同社が得意とする推進工法に革新をもたらす「ミリングモール工法」という地中で金属障害物を切削できる新技術を開発。同工法の導入により、工期遵守、安全性確保、コスト削減を実現しています。
推進機に搭載したシステムで、電磁波を用いて障害物の有無を検知し、安全で確実に施工するとともに、地中障害物の撤去が不要となり人員削減が可能となっており、生産性向上だけでなく安全性の確保にも貢献しています。
まとめ
「革新的事業展開設備投資支援事業」の概要や対象事業について紹介し、「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」(ものづくり補助金)についても併せて紹介しました。
2021年3月1日現在、東京都中小企業振興社が実施する「革新的事業展開設備投資支援事業」は募集が終了しています。補助金を申請したい企業や事業主は、経済産業省が実施する「ものづくり補助金」を申請しましょう。
ものづくり補助金を申請するためには、賃金引き上げのための具体性と実現可能性を持った事業計画の作成が必須です。早めに準備を開始し、スムーズに補助金の申請を行いましょう。
ただし、通常の業務に加え、補助金申請業務まで行うとかなりハードです。そんなときは、申請書作成の代行や申請支援を専門に行っている企業を利用することも一つの選択肢です。当社補助金バンクには、補助金に関する専門家が多数在籍しています。お困りの場合は、まずは気軽にお問い合わせください。