新型コロナウイルスの新規感染者数や重症者数がトップニュースを飾り、「医療崩壊は近い」「コロナ患者の受け入れはもう限界」などと連日報道されているため、いずれの医療機関もコロナ患者で溢れかえっているイメージを持たれているかもしれません。
しかし、日本病院会など3団体が行った調査によると、全国約1,200の病院のうち、全体の3分の2にあたる66.7%が赤字で、特にコロナ患者を受け入れた病院の8割ほどは赤字でした。新型コロナへの感染を恐れた利用者の外来受診が減ったり、病院側が感染防止対策として入院患者を減らしたりしたことで、経営が圧迫されたためです。
上記の通り、多くの医療機関が苦境に立たされていますが、「事業再構築補助金」を活用することで、活路を見出すことができるかもしれません。今回は、次の3点について詳しく解説します。
- 事業再構築補助金とは何か
- 医療法人は対象になるのか
- 採択されやすい取り組みは何か
事業再構築補助金とは
事業再構築補助金とは、新分野への進出や業種を変更するなど、中小企業等の思い切った事業再構築を支援する目的で設立された補助金です。事業再構築補助金を活用することで、新型コロナウイルス感染症の影響で深刻な売上減少に苦しむ企業でも、自社の強みや特長を活かせる新分野へ挑戦することが可能になります。
対象者
事業再構築補助金の公募要領によると、対象者は新型コロナウイルス感染症の影響により売上減少などの深刻な経営状況にある日本国内に本社を有する中小企業者等及び中堅企業等とされています。
補助金の申請には、新分野展開や業種変更といった事業再構築に積極的に取り組む意欲があり、かつ次の要件を満たしている必要があります。
- 売上が減っている
- 事業再構築に取り組む
- 認定経営革新等支援機関と事業計画を策定する
一つずつ解説しましょう。
売り上げが減っている
事業再構築補助金は、新型コロナウイルス感染症の影響を受ける中小企業等を支援することが目的ですので、売り上げが減少していなければ、補助金を受け取ることはできません。
売上減少の要件は、下記の3パターンがあります。
1. 2020年4月以降の連続する6ヶ月間のうち、任意の3ヶ月間の合計売上高が、コロナ以前(2019年または、2020年1~3月)の同3ヶ月の合計売上高と比較して10%以上減少しており、2020年10月以降の連続する6ヶ月間のうち、任意の3ヶ月間の合計売上高が、コロナ以前の同3ヶ月の合計売上高と比較して5%以上減少していること。
2. 2020年4月以降の連続する6ヶ月間のうち、任意の3ヶ月の合計付加価値額が、コロナ以前の同3ヶ月の合計付加価値額と比較して15%以上減少していること。
3. 2020年10月以降の連続する6ヶ月間のうち、任意の3ヶ月の合計付加価値額が、コロナ以前の同3ヶ月の合計付加価値額と比較して7.5%以上減少していること。
つまり、補助対象となるためには、コロナ後(2020年4月以降)の任意の3ヶ月の売上高がコロナ以前(2019年1月〜2020年3月)の任意の3ヶ月の売上高より、一定の割合で下落している必要があります。
任意の3ヶ月(連続した3ヶ月である必要はない)を申請者が選べるため、補助の対象範囲が広くなる点がポイントです。
例として、2020年1月~3月の売上高と2021年1月~3月の売上高が次のような場合で比較してみます。
・2020年1月~3月の売上高
2020年1月 | 2020年2月 | 2020年3月 | 合計 | |
売上高(A) | 1,000 | 800 | 500 | 2,300 |
・2021年1月~3月
2021年1月 | 2021年2月 | 2021年3月 | 合計 | |
売上高(B) | 700 | 500 | 200 | 1,400 |
- B÷A=1,400万円 ÷2,300万円=60.8 %
上記の計算の通り、売上高が10%以上減少しているため、この要件を満たすことになります。
事業再構築に取り組む
補助の対象となる事業の内容が、経済産業省が定める「事業再構築指針」に沿った次の5つの事業のどれかに該当していなければなりません。
- 新分野展開
- 事業転換
- 業種転換
- 業態転換
- 事業再編
上記の5つの事業の内容については、後ほど採択事例と合わせて詳しく解説します。
認定経営革新等支援機関と事業計画を策定すること
事業再構築補助金の公募要領に「事業計画を認定経営革新等支援機関と策定すること。」と記載されています。認定経営革新等支援機関とは、「中小企業経営力強化支援法」に基づき認定された税理士や商工会・商工会議所等の支援機関を指します。詳しくは中小企業庁のホームページにてご確認ください。
また、補助金額が3,000万円を超える場合は、金融機関も参加して計画を策定することが要件となっているため、はじめから認定経営革新等支援機関でもある金融機関に相談しても良いでしょう。
事業再構築補助金はかつてない予算規模で手厚い補助が受けられる制度ではありますが、その分、事業計画に求められる内容が高くなります。
採択される事業計画書の作成のために、押さえておきたいポイントをまとめた記事を以下で紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
補助金額
事業再構築補助金では、申請者の企業規模や応募枠ごとに補助金の金額の範囲が設定されており、また申請時に提出した事業計画に応じて補助金が交付されることになっています。
企業規模 | 補助金額 | 補助率 | |
中小企業 | 通常枠 | 100万円〜6,000万円 | 2/3 |
卒業枠 | 6,000万円〜1億円 | 2/3 | |
中堅企業 | 通常枠 | 100万円〜8,000万円 | 1/2(4,000万円超は1/3) |
グローバルV字回復枠 | 8,000万円〜1億円 | 1/2 |
※卒業枠:400社限定。事業再構築を通じて、資本金または従業員を増やし、3年~5年の事業計画期 間内に中小企業者等から中堅・大企業等へ成長する中小企業者等が行う事業 再構築を支援
※グローバルV字回復枠:100社限定。事業再構築を通じて、コロナの影響で大きく減少した売り上げをV字回復させる中堅企業等を支援
事業再構築補助金の対象となる医療法人の種類
ここまで事業再構築補助金の概要について解説してきましたが、ここからは「事業再構築補助金の対象となる医療法人の種類」についてお伝えしていきます。
対象となる医療法人
事業再構築補助金の公募要領には、対象者として「日本国内に本社を有する中小企業者等及び中堅企業等」と記載されていることは、先ほどお伝えしました。それでは、「日本国内に本社を有する中小企業者等及び中堅企業等」にあたる医療機関は何なのでしょうか?
結論からお伝えすると、事業再構築補助金の対象となる医療機関は次の3つです。
- 個人開業医
- 社会医療法人
- 公益財団法人・一般財団法人・一般社団法人の経営する病院
個人開業医
公募要領に記載されている「中小企業者」は中小企業基本法に規定されている中小企業者であり、中小企業庁のホームページによると、個人開業医は中小企業に該当します。したがって、個人開業医は事業再構築補助金の対象となります。
ただし、中小企業者に該当する場合でも、「資本金:3億円、従業員数(常勤):300人」といった制限があるため注意が必要です。
社会医療法人
事業再構築補助金の対象となる医療法人は社会医療法人のみです。公募要領の7ページには、次のように記載されています。
- 補助対象者の「イ 【「中小企業者等」に含まれる「中小企業者」以外の法人】」において、「中小企業等経営強化法第2条第1項第6号~第8号に定める法人(企業組合等)又は法人税法別表第二に該当する法人(※1)若しくは法人税法以外の法律により公益法人等とみなされる法人 (従業員数が300人以下である者に限る。)であること」という要件がある
- 「法人税法別表第二」に記載されている医療法人は「社会医療法人」のみ
上記から、事業再構築補助金の対象となる医療法人は「社会医療法人」のみが対象となることがわかります。
公益財団法人・一般財団法人・一般社団法人の経営する病院
医療法人として対象となるのは「社会医療法人」のみですが、公益財団法人や一般財団法人、一般社団法人の経営する病院は対象となります。
公募要領の8ページに「※1 一般財団法人及び一般社団法人については、非営利型法人に該当しないものも対象となります。」といった記載がありますし、実際に第2回公募結果を見てみると、「一般社団法人双育会」や「一般社団法人のぞみ会」の申請が採択されています。
対象とならない医療法人
おさらいですが、事業再構築補助金の対象となる医療機関は次の3種類です。
- 個人開業医
- 社会医療法人
- 公益財団法人・一般財団法人・一般社団法人の経営する病院
つまり、上記以外の医療機関はすべて対象外となります。
- 大病院(一般的に病床400以上)
- 大学病院
- 医療財団法人
医療法人が申請する場合、対象範囲となるかどうか公募要領をしっかりと読み解く必要があります。「うちは対象なのかな」と判断がつかない場合は、当社「補助金バンク」にお気軽にお問い合わせください。補助金申請の経験が豊富なプロが、事業再構築補助金の申請をお手伝い致します。
医療法人の事業再構築補助金採択事例
事業再構築補助金は第1回、第2回の公募が終了し、現在令和3年9月21日を締め切りとする第3次公募が始まっています。医療・福祉分野の採択結果を見ると、第1回公募では163件、第2回公募では176件が採択されています。
ここでは、医療・福祉分野において採択されやすい事業再構築の取り組みとは一体どういったものになるのか、第1回公募、第2回公募の採択結果を元に解説していきます。
新分野展開
事業再構築の一つのパターンである新分野展開は、既存事業はそのままに、新たな製品・サービスで新しい業種へ進出することを指します。新分野展開は第一回、第二回を通して最多の採択数となっています。
新分野展開として採択されるためには、次の3つの要件を満たす必要があります。
- 製造等の新規性要件:自社にとっての新製品・新サービスであるか
- 市場の新規性要件:自社にとって新しい市場であるか
- 売上高要件:事業計画終了後、新分野の売上高が総売上高の10%以上となる見込みがあるか
「新規性」の解釈については、世の中でまったくの初めてという意味ではなく、自社にとって初めての製品やサービス、初めての市場への進出を指しています。
また、売上高の10%については、申請するための最低条件となっており、新たな製品・サービスの売上高が占める割合がより大きくなる事業計画を策定することで、審査においてより採択されやすい場合がある、とされています。
【採択例】
- 接骨院事業を主要事業としてきた企業が「障がい者グループホーム」事業への新分野展開を行う。柔道整復師をはじめとする有資格者を強みとして、他社との差別化を図り、早期に収益化を実現する。
- 現在、保育園事業、児童発達支援事業、相談支援事業の3事業を行っている企業が、新たに、就学している発達障害児(6歳以上)を対象とした『放課後デイサービス』事業を加えた多機能施設を開設し「新分野展開」を行うことで、新型コロナウイルス収束後の事業再構築を図る
- 医療レーザー脱毛による新分野展開を計画する。形成外科診療を営むクリニックが知識や経験を活かし、近年需要の高まる「介護脱毛(男女の陰部脱毛)」を中心に医療レーザー脱毛事業へ新分野展開することで広い年齢層の脱毛事業で成長を図る
事業転換
事業転換とは、メインとなる既存事業を廃業または縮小し、その代わりとなる同じ業種で異なる新事業を成長させる取り組みを指します。事業転換として採択されるためには、次の3つの要件を満たす必要があります。
- 製品等の新規性要件
- 市場の新規性要件
- 売上高構成比要件
事業転換では、3〜5年の事業再構築期間中に、新事業の売り上げが企業全体の売り上げの中で50%以上になることがポイントです。
【採択例】
- 現在の高齢者を主な顧客とする出張はりきゅう院から、女性向けの産後の骨盤調整をメインとした店舗型整体院へ事業転換する。
- コロナ禍において打撃を受けている通院型の整骨院事業から、自社の持つ人的資源(経験、資格)・物的資源(土地)を活かして、新型コロナウイルス感染症対策、管理に留意した入所型の障がい者グループホーム事業への事業転換を図る。
- 既存事業の介護支援サービス業が新型コロナウイルスにより影響を受け、回復まで長期化する見通し。よって今まで培った既存事業のノウハウを活かし医薬品販売小売業へ事業転換させることで事業の維持・成長を図る。
業種転換
業種転換とは、メインとなる業種を変更し、新商品や新サービスの開発等を行う取り組みを指します。業種転換として採択されるためには、次の3つの要件を満たす必要があります。
- 製品等の新規性要件
- 市場の新規性要件
- 売上高構成比要件
メインとなる業種を変更し、新規事業の展開を始めて3〜5年後には、新たな業種の売り上げ比率が最も高くなるよう運営していく必要があるため、新分野展開や事業転換と比べて企業にとっては大きな改革が必要な取り組みとなります。
【採択例】
- コロナ禍の影響で、訪問鍼灸・鍼灸院の経営状況が苦しくなる中、東洋医学・自然妊娠・食育の知識・経験を活かし、新たに自然妊娠サポートビジネスを立ち上げ、オンラインサポートやFC化により全国展開を図る。
- 障がい者施設の利用者に対しての訪問看護事業が、新型コロナウイルスの影響により利用者様が減少したことから不動産売買事業に事業転換し、FCに加盟し参入することにより短期での業績向上を目指す。
- 新型コロナウイルスの影響で生活様式が変わり、鍼灸治療だけでは事業の維持・拡大が見込めない。そこでバーチャル型美容をメインとした、次世代型セルフエステへの業種転換に挑戦する。
業態転換
業態転換とは、製品やサービスの製造方法または提供方法を大きく変更することを指します。新分野展開と似ていますが、製品やサービス自体よりも、製造方法や提供方法の新規性が重要視されている点がポイントです。
業態転換として採択されるためには、以下3つの要件を満たす必要があります。
- 製造方法等の新規性要件
- 製品の新規性要件または商品等の新規性要件または設備撤去等要件
- 売上高10%要件
業態転換ではメインの業種や事業を変更する必要はありませんが、これまでとは違った製造方法やサービスの提供方法を実施する必要があります。売上高については、新たな業態が3〜5年後に総売上高の10%を超えていることが要件となります。
【採択例】
- 需要はあるが設備の不備により事業化ができなかった訪問サービスを新しく導入し、いままで交通手段がなくて通えなかった顧客や、距離が遠くて通えなかった顧客に対して、こちらから顧客の自宅へ向かう訪問施術サービスを実施する。また訪問サービスの生産効率を上げるため、新しくインストロメント技術を習得する。
- 現在、管理栄養士として、栄養関連の研修、講習の講師業、カウンセラー業を営んでいるが、コロナ禍の影響で売上に影響が出ている。そこで医療機関向けにサプリメントのECサイトでの販売に業態転換する。
- 大阪で往診専門の鍼灸マッサージ業を営んでいるが、コロナ禍で施設等が面会制限を行っていて施術も営業活動も出来ない。大阪を離れ、地方に予約優先制の高付加価値型の治療院を構えることにより業態転換を行う。
事業再編
事業再編とは、会社法上の組織再編行為を行った上で、新たな事業形態のもとに、これまで解説してきた4つの事業再構築(新分野展開、事業転換、業種転換、業態転換)を行うことを指します。事業再編として採択されるためには、次の2つの要件を満たす必要があります。
- 組織再編行為
- 4つの事業再構築のいずれかへの取り組み
事業再編において最大のポイントは、会社組織を再編する点です。組織再編行為は次の行為を指します。
- 合併
- 会社分割
- 株式交換
- 株式移転
- 事業譲渡
事業再編を行う場合、法律や税務上の問題だけではなく、従業員の処遇など多くの検討事項があるため、容易に選択できる取り組みではありません。これまでの採択結果を見ても、第1回公募、第2回公募を通して、採択されたのはたった1件に留まっています。
事業再編を検討する際は、事業再構築補助金の受給だけの話ではなく、さまざまな要素を加味した慎重な判断が必要です。
【採択例】
- 札幌市の介護施設のクラスターの頻発により事業継続困難になったリハビリデイサービスを全部事業譲渡し、コロナに適応したフィットネスクラブのフランチャイズに加盟してフィットネスクラブへの事業再編を行う
新分野展開で採択を目指す
事業再構築の取り組みについて5つのパターンを紹介しましたが、「どの取り組みが最善の方法なのか判断ができない」とお悩みかもしれません。その場合、まずは新分野展開への取り組みを検討してみましょう。
最多の採択数からもわかるとおり、新分野展開は「保育園事業からデイサービス事業」といった新たな事業への進出であったり、最新設備の導入による新サービスへの進出であったりと、比較的イメージしやすい取り組みだと思います。
新分野展開の採択結果は、先ほど紹介した事例以外にもたくさんありますので、採択結果を確認し、「自社ならどのように新分野展開ができるだろうか」「既存事業の売上を減らさず、新分野展開が可能か」といった観点で事業計画を練り始めてはいかがでしょうか?
まとめ
「医療法人は事業再構築補助金の対象となるのか」「医療分野においては、どのような取り組みが採択されるのか」といったポイントを、公募要領や採択結果をベースに解説しました。
事業再構築補助金は傾いた経営を立て直せるチャンスではありますが、補助金事業は一般的に申請が後になればなるほど、審査が厳しくなる傾向にあります。事業再構築補助金の公募も3回目となっているため、採択を得るためには事業計画をより一層充実したものにする必要があります。
「私のクリニックは対象になるのだろうか」「事業計画書の作成の仕方がわからない」とお悩みであれば、補助金申請のプロが多数在籍している当社「補助金バンク」が申請をお手伝い致します。ぜひお気軽にお問い合わせください。