厚生労働省関連の助成金は社内の環境整備などに使うことができるので、労働環境を整えたい中小企業にはぜひ活用していただきたい制度です。助成金を活用して働きやすい環境を作り、従業員のモチベーションアップや生産性の向上につなげることで、会社を成長させましょう。
この記事では、厚生労働省関連の助成金を前提に、中小企業が受給する際のメリット・デメリット、どのような助成金が使えるかなどを解説していきます。
※以下は2021年3月8日時点の情報に基づいています。
中小企業が助成金を受給するメリット
助成金を受給するとどのようなメリットがあるのかを解説していきます。社内の環境の整備にあまりお金をかけられない中小企業にこそ必要な制度なので、メリットを理解して助成金の申請を検討していただければ幸いです。
- 労働環境を整備できる
- 要件を満たせば受給できる
- 返済する義務がない
労働環境を整備できる
厚生労働省関連の助成金は、人材育成や能力開発、働き方改革、仕事と家庭の両立支援といった目的に使うことができます。助成金の支援を受けてこのような制度を導入することで、従業員が働きやすい環境を整えることができるのです。
さらに、助成金の申請や受給を通じ、従業員の労働環境を整備したり向上したりすることができます。その理由は、厚生労働省関連の助成金を受給するには、主に賃金台帳や出勤簿などの提出が求められることが多いからです。
労働法を遵守していなければ受給できないため、助成金の受給を通して経営者や従業員が労働法への理解を深めることができます。結果的に、労働法を遵守し正しい労務管理を行える企業に成長することができます。
要件を満たせば受給できる
厚生労働省関連の助成金は、要件に当てはまる申請者は受給することができます。
経済産業省の補助金など他の制度だと、申請後に審査が行われ、審査に落ちて支援金を受給できない場合があります。しかし、厚労省関連の助成金は申請要件を満たしていればもらえるので、受給するための競争がありません。
書類づくりなど申請に手間がかかる場合もありますが、助成金は労力が報われるのが大きなメリットです。
返済する義務がない
厚生労働省関連の助成金は、基本的には返済する義務がありません。融資と違って返済する必要が無いので、安心して利用することができます。
ただし、当然ですが不正受給に該当した場合は助成金を返済する必要があります。その他にも事業者名の公表などペナルティがあるので、書類をごまかして助成金をするといった行為は絶対にやめましょう。
中小企業が助成金を受給するデメリット
次に、中小企業が助成金を申請・受給する際のデメリットについて解説していきます。全額が補助されるとは限らないことや、後払いで支払われることなどを理解した上で、申請を進めていきましょう。
- 一部のみ補助の場合がある
- 基本的には後払い
- 書類づくりに労力がかかる
一部のみ補助の場合がある
助成金の金額は上限が決まっているため、経費の全額が助成されるとは限らず、一部のみの助成となる場合があります。
例えば雇用調整助成金を受給すると、従業員に支払う休業手当の助成を受けることができます。通常の助成率は、中小企業が3分の2、大企業が2分の1となっており、実際の費用の一部を助成金で補填できる形となります。
さらに、上限の金額も決まっています。同じく雇用調整助成金は上限が日額8370円であり、この金額を超える助成金の受給はできません。
以上のように、助成金の種類によっては、経費の一部の助成となることを理解しておきましょう。
基本的には後払い
助成金は基本的には後払いで、制度を導入して報告を行った後に支払われます。制度の導入などにかかるコストは一旦自社にて負担する必要があることを理解しておきましょう。
例えば、人材開発支援助成金は従業員に職務に必要な知識を身につけさせるための能力開発に対する助成金です。研修などの実施が助成対象となるのですが、研修にかかる費用は一旦自社にて負担し、実施内容や成果を報告した後、助成金が支払われます。
以上のように、助成金は後払いであり、一旦は自社にて費用を負担する必要があることを理解しておきましょう。
書類づくりに労力がかかる
助成金の申請には、書類を作成する必要があります。必要な書類は助成金によって異なりますが、申請に必要な書類に加え、賃金台帳や勤怠管理記録など多岐にわたります。
厚労省関連の助成金は、申請書への記入に加え、必要な添付書類の数が多くて申請するのが大変です。申請要件は満たしているのに、書類に不備があって一回では受領してもらえない、というケースもあるのです。
慣れていない方が独力で助成金の申請を行うのは大変なので、助成金について詳しい社会労務士に相談し、書類づくりをサポートしてもらいながら申請を進めましょう。
中小企業が受給できる主な助成金
中小企業が受給できる厚労省関連の助成金は数多く存在します。ここでは主な助成金として、以下の助成金について紹介していきます。
- 雇用調整助成金
- キャリアアップ助成金
- 人材開発支援助成金
- 両立支援等助成金
- 地域雇用開発助成金
いずれも中小企業が活用しやすい助成金です。助成金を活用し、従業員の能力開発を行ったり、働きやすい環境を整えたりするイメージをしながら読み進めていただければと思います。
雇用調整助成金
雇用調整助成金とは、経済上の理由によって事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、一時的に従業員の休業、教育訓練、出向を行った場合、支払った休業手当などの一部を助成する制度です。事業活動の縮小が行われても、従業員の雇用の維持を図るために設けられています。
2020年には通常枠に加え、新型コロナウイルスに伴う特別措置が設けられ、支援の幅が拡大されました。以下で解説するよりも支給要件が緩和されました。
この記事では特別措置ではなく、通常枠を前提に雇用調整助成金の対象者や補助額などを解説していきます。
補助の対象者
中小企業の場合について、雇用調整助成金を受給するための条件の一部を紹介します。
- 雇用保険の適用事業主である
- 売上高または生産量などの事業活動を示す指標について、最近3か月間の月平均値が前年同期に比べて10%以上減少している(生産指標要件)
- 雇用保険被保険者数および受け入れている派遣労働者数による雇用量を示す指標について、その最近3か月間の月平均値が前年同期に比べて、中小企業の場合は10%を超えてかつ4人以上増加していない
他にも満たすべき要件がありますので、申請にあたってはパンフレット等を確認しましょう。
補助額・補助率
雇用調整助成金の補助率は、中小企業が3分の2以内、中小企業以外が2分の1以内です。
上限は対象労働者1人あたり日額8370円です。また、教育訓練を実施した場合は1日1人あたり1200円が加算されます。
補助対象の経費の例
雇用調整助成金の助成対象となる経費は以下の3つです。
- 休業を行った場合の休業手当
- 教育訓練を実施した場合の賃金相当額
- 出向を行った場合の出向元事業主の負担額
以上の3つに該当する経費について、上述した補助上限・補助率で助成金を受給することができます。
キャリアアップ助成金
キャリアアップ助成金は、非正規雇用労働者の企業内でのキャリアアップを促進するため、正社員化などの取り組みを実施した事業主に対して助成金を支給する制度です。令和3年度(2021年度)から制度の内容が変更されるので、この記事では新制度について解説していきます。
キャリアアップ助成金には以下の7つのコースがあり、複数のコースの要件に当てはまる方は併用することができます。
- 正社員化コース
- 賃金規定等改定コース
- 障害者正社員化コース
- 賃金規定等共通化コース
- 諸手当制度等共通化コース
- 選択的適用拡大導入時処遇改善コース
- 短時間労働者労働時間延長コース
ここでは、代表して正社員化コースについて解説していきましょう。正社員化コースは、有期雇用労働者などを正規雇用労働者などに転換したり、直接雇用したりした場合に助成金を受給することができます。
補助の対象者
中小企業も受給できるキャリアアップ助成金の支給要件について解説していきます。
キャリアアップ助成金には、全コース共通で以下のとおり支給対象の事業主が定められています。
- 雇用保険適用事業所の事業主
- 雇用保険適用事業所ごとにキャリアアップ管理者を置いている事業主
- 雇用保険適用事業所ごとに、対象労働者に対してキャリアアップ計画を作成し、管轄労働局長の受給資格の認定を受けた事業主
- 該当するコースの措置にかかる対象労働者に対する労働条件、勤務状況および賃金の支払い状況などを明らかにする書類を整備し、賃金の算出方法を明らかにすることができる事業主
- キャリアアップ計画期間内にキャリアアップに取り組んだ事業主
さらに、コースごとに要件が定められています。正社員化コースの場合は「転換等前の6か月と転換等後の6か月の賃金を比較して3%以上増額していること」という要件があり、該当しなければ助成金を受給することはできません。
上記は主な支給要件を簡略化してお伝えしているため、申請時には必ずパンフレット等で要件を確認しましょう。
補助額・補助率
正社員化コースの場合、中小企業は対象労働者1人あたり以下の助成金を受給することができます。
- 有期 →正規:57万円
- 有期 →無期 または 無期 →正規:28万5,000円
ただし、1年度1事業所当たりの支給申請上限人数は20人までです。
また、各種の加算措置があります。例えば派遣労働者を派遣先で正規雇用労働者として直接雇用した場合、中小企業は対象の労働者1人ごとに28万5,000円の加算を受けることができます。
人材開発支援助成金
人材開発支援助成金は、労働者に職業訓練(研修など)を受けさせ、企業内での人材育成に取り組む事業主に対して助成する制度です。以下の7つのコースがあり、当てはまるコースで助成金の申請を行います。
- 特定訓練コース
- 一般訓練コース
- 教育訓練休暇付与コース
- 特別育成訓練コース
- 建設労働者認定訓練コース
- 建設労働者技能実習コース
- 障害者職業能力開発コース
さらにコースの中にも「どのような労働者を対象とした、どのような内容の訓練なのか」によって要件が異なります。例えば特定訓練コースの場合、以下の訓練があります。
- 労働生産性向上訓練
- 若年人材育成訓練
- 熟練技能育成・承継訓練
- グローバル人材育成訓練
- 特定分野認定実習併用職業訓練
- 認定実習併用職業訓練
- 中高年齢者雇用型訓練
詳しい内容はパンフレット等でご確認いただきたいのですが、訓練が細かく細分化されており、どの訓練を実施して助成金を申請すれば良いのか迷うこともあるでしょう。困ったら助成金に強い社労士などに相談し、サポートしてもらいましょう。
補助の対象者
人材開発支援助成金の対象となる事業主の要件は、雇用保険適用事業所の事業主であることに加え、細かく規定されています。離職者に関する規定があるので、自社が要件を満たすかどうか、必ずパンフレットで確認しましょう。
その他、コースごとに要件が定められているので、申請したいコースを決める際に要件をご確認ください。
補助額・補助率
人材開発支援助成金の助成額・助成率についても、コースごとに定められています。特定訓練コースの場合、中小企業の助成率・助成額は以下のとおりです。なお、()内は生産性要件を満たす場合の助成額・助成率です。
経費助成 | 賃金助成 (1人1時間あたり) |
OJT実施助成 (1人1時間当たり) |
|
OFF-JT | 45%(60%) | 760円(960円) | ― |
OJT | ― | ― | 665円(840円) |
なお、特定訓練コースにおける中小企業の助成限度額は以下のとおりです。
経費助成 | 賃金助成(1人1訓練当たり) | OJT実施助成(1人1訓練当たり) |
20時間以上100時間未満:15万円
100時間以上200時間未満:30万円 200時間以上:50万円 |
1200時間(ただし認定職業訓練、専門実践教育訓練は1600時間) | 特定分野認定実習併用職業訓練、認定実習併用職業訓練は680時間、中高年齢者雇用型訓練は382.5時間 |
なお、助成対象となる訓練等受講回数は1労働者につき特定訓練コース・一般訓練コース合わせて3回までです。1事業所または1事業主団体等が1年度に受給できる助成額は、特定訓練コースを含む場合は1000万円が、一般訓練コースのみの場合は500万円が上限となります。
補助対象の経費の例
補助対象となる経費は、訓練の種類によって異なります。
事業主がOFF-JT訓練を実施した場合、以下の経費が補助の対象となります。
【事業内訓練(事業主が企画し主催するもの)】
- 部外の講師への謝金・手当
- 部外の講師の旅費
- 施設・設備の借上費
- 学科や実技の訓練に必要な教科書等の購入・作成費
【事業外訓練(事業主以外の者が企画し主催するもの)】
- 受講に際して必要となる入学料・受講料・教科書代等、あらかじめ受講案内等で定めているもの
また、対象期間中の賃金についても助成対象となります。
両立支援等助成金
両立支援等助成金は、仕事と家庭の両立を支援するための制度です。男性の育休取得の促進や介護離職の防止などの目的で使うことができます。
両立支援等助成金は、以下の5つのコースに分かれています。
- 出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)
- 介護離職防止支援コース
- 育児休業等支援コース
- 再雇用者評価処遇コース(カムバック支援助成金)
- 女性活躍加速化コース
この記事では代表して、育児休業や育児目的休暇を取得した男性労働者が生じた事業主が受給できる「出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)」について解説していきます。
補助の対象者
他の厚生労働省関連の助成金と同様、雇用保険適用事業所の事業主であることなどが共通の支給要件となります。
また、両立支援等助成金はコースごとに異なる支給要件が設けられています。出生時両立支援コースの場合、以下のような要件があります。
育児休業制度および育児のための短時間勤務制度について労働協約または就業規則に規定している
一般事業主行動計画を策定し、その旨を都道府県労働局長に届け出ていおり、申請時に有効である。また、労働者に周知している
対象となる男性労働者を雇用保険被保険者として継続して雇用している
さらに、育児休業であるか育児目的休暇であるかによっても支給要件が異なります。詳しくは両立支援等助成金のパンフレット等でご確認いただきたいのですが、不明点があれば社労士など助成金の専門家に相談してみましょう。
補助額・補助率
中小企業の場合、以下の助成金を受給することができます。なお、()内は生産性要件を満たした場合の支給額です。
1人目の育休取得 | 57万円(72万円) | |
個別支援加算 | 10万円(12万円) | |
2人目以降の育休取得 | 育休5日以上:14.25万円(18万円) 育休14日以上:23.75万円(30万円) 育休1か月以上:33.25万円(42万円) |
|
個別支援加算 | 5万円(6万円) | |
育児目的休暇の導入・利用 | 28.5万円(36万円) |
「個別支援加算」は、男性労働者の育児休業取得前に個別面談を行うなど、育児休業の取得を後押しする取組を実施した場合に支給されます。
地域雇用開発助成金
地域雇用開発助成金(地域雇用開発コース)は、雇用機会が特に不足している地域の事業主が、事業所の設置や整備を行って地域の求職者などを雇い入れることを支援する制度です。該当する地域は以下の3つです。
- 同意雇用開発促進地域(求職者数に比べて雇用機会が著しく不足している地域)
- 過疎等雇用改善地域(若年層・壮年層の流出が著しい地域)
- 特定有人国境離島等地域
地域雇用開発助成金は、事業所の設置や整備が完了した日から、1年ごとに最大3回受給することができます。
補助の対象者
地域雇用開発助成金を受給するための要件は、1回目の受給と2・3回目の受給とで異なります。1回目の受給における主な要件は以下のとおりです。
- 同意雇用開発促進地域等の事業所における施設・設備の設置・整備および、地域に居住する求職者等の雇い入れに関する計画書を労働局長に提出する
- 事業の用に供する施設や設備を計画期間内に設置・整備する
- 地域に居住する求職者等を計画期間内に常時雇用する雇用保険の一般被保険者または高年齢被保険者としてハローワーク等の紹介により3人(創業の場合は2人)以上雇い入れる
- 事業所における労働者(被保険者)数の増加
2回目・3回目の受給における主な要件は以下のとおりです。
- 被保険者数の維持
- 対象労働者の維持
- 対象労働者の職場定着
地域の労働者を維持できていることが、2回目・3回目の受給におけるポイントとなります。
他にも細かく要件が定められているので、地域雇用開発助成金のパンフレット等で必ず確認しましょう。
補助額・補助率
地域雇用開発助成金は定額の助成金で、下表の額を1年ごとに最大3回受給することができます。設置・整備費用や対象労働者の増加人数によって、受給できる助成金の金額が異なります。なお、()内は創業と認められる場合のみ適用されます。
また、中小企業の場合は1回目の支給において支給額の2分の1相当額の上乗せを受けることができます。さらに、創業と認められる場合は1回目の支給において()内の倍額が支給されます。
対象労働者の増加人数 | ||||
設置・整備費用 | 3(2)~4人 | 5~9人 | 10~19人 | 20人以上 |
300万円以上1000万円未満 | 48万円/60万円 (50万円) |
76万円/96万円 (80万円) |
143万円/180万円 (150万円) |
285万円/360万円 (300万円) |
1000万円以上3000万円未満 | 57万円/72万円 (60万円) |
95万円/120万円 (100万円) |
190万円/240万円 (200万円) |
380万円/480万円 (400万円) |
3000万円以上5000万円未満 | 86万円/108万円 (90万円) |
143万円/180万円 (150万円) |
285万円/360万円 (300万円) |
570万円/720万円 (600万円) |
5000万円以上 | 114万円/144万円 (120万円) |
190万円/240万円 (200万円) |
380万円/480万円 (400万円) |
760万円/960万円 (800万円) |
上表における「/」は、右側の生産性要件を満たす「優遇」の場合、左脚の生産性要件を満たさない「基本」の場合としました。
助成金の探し方
記事でご紹介した以外にも、中小企業が受給できる助成金は数多くあります。厚生労働省関連の助成金なら、厚生労働省のホームページから探すことができます。
とはいえ、すべてのページに目を通して自社で使える助成金を探すのは、かなりの労力がかかってしまいます。助成金に強い社労士など専門家に相談することで、活用したい助成金を効率よく探していきましょう。
まとめ
中小企業が使える助成金には、さまざまな種類があります。上述したように、助成金によってはまとまった金額の支援を受けることができます。
書類づくりが面倒といったデメリットはありますが、労働環境を整えるために返済不要な支援金を得られることなど、助成金を受給するメリットは非常に大きいものです。働きやすい環境を整備できれば、従業員のモチベーションの向上や生産性の向上といった良い効果を期待することもできます。
どのような助成金を申請すれば良いのか、また書類づくりをどうやって進めたら良いのかなど、困ったら社労士などの専門家に相談してサポートしてもらいましょう。補助金バンクには社労士など助成金に強い専門家が多数登録しているので、補助金バンクを使ってお近くのプロフェッショナルを探してみましょう。