事業を営んでいると、景気の悪化や産業構造の変化などによって事業活動の縮小を余儀なくされることがあります。休業する場合、従業員を解雇する場合もありますが、再起に向けて雇用を続けたいと考える経営者の方も多いです。
雇用を続ける場合は休業手当の支払いが必要になる場合がありますが、事業活動を縮小している状態で休業手当を捻出することは困難です。
そこで役立てたいのが「雇用調整助成金」です。雇用調整助成金で休業手当などの一部をまかなえるため、事業主の負担が軽くなります。この記事では、雇用調整助成金の制度や通常枠と特例措置の違い、助成額や助成率について解説していきます。
雇用調整助成金とは
雇用調整助成金は、休業手当等に要した費用の一部を補助してくれる助成金です。事業主の「雇用は維持したいけれど、休業手当を支払う余裕がない」という悩みの助け舟になります。
社会にとっても、労働者の失業の予防や雇用の安定は重要な課題です。危機においても雇用を続ける事業者は、国から助成金という形で支援を受けることができます。
また、2020年からは新型コロナウイルスの影響で休業を余儀なくされた事業者などを救済するため、特例措置が設けられています。通常枠よりも助成金の上限が引き上げられ、支給要件も緩和されて申請しやすくなっているため、お困りの方はぜひ雇用調整助成金を活用しましょう。
休業手当とは
雇用調整助成金で補助の対象となるのは主に従業員への休業手当ですが、そもそも休業手当を支払う義務なんてあるのかといった疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか?
休業手当とは、労働基準法26条で定められている会社の責任で従業員を休ませた場合に支払う義務のある賃金です。
しかし、休業手当を支払う余裕がない事業者も大勢いらっしゃいます。特にコロナ禍においては使用者に責任のない休業もあり、休業手当の支払いが非常に難しく感じる事業者も多いでしょう。
そのような事業者を救済するのが「雇用調整助成金」なので、従業員を休業させている事業者や、休業を検討している事業者の方は、雇用調整助成金の申請を検討しましょう。
雇用調整助成金の特例措置の詳細
雇用調整助成金には、通常枠と新型コロナウイルス対策のための特例措置の2つがあります。先に特例措置について、助成額や対象の事業者など制度の詳細を解説していきます。
特別措置は、通常枠よりも支給要件が緩和されており、助成の上限額も高額です。そのため、通常枠と特別措置のどちらの要件にも当てはまる方には、特別措置の方で申請するのがおすすめです。
ただし、特別措置は2021年5月以降、段階的に縮減されていく見込みです。3月以降は助成の上限額が低くなっていく可能性が高いため、今すでに条件に該当している方は早くに申請を行うことをおすすめします。
縮減が見込まれている理由としては、経済が回復しつつあることが挙げられます。ただし、2021年1月から1都3県で緊急事態宣言が出されるほどの感染状況になっていることなどから、柔軟に対応されると考えられます。とはいえ、5月以降は縮減の可能性が高いことを踏まえ、要件に当てはまる方は早期に申請するのが得策でしょう。
助成額・助成率
雇用調整助成金の特別措置では、1人1日あたりの助成額は以下の計算式で決定されます。
- 1人1日あたりの助成額=平均賃金額×休業手当等の支払率×助成率
ただし、助成額の上限は1人1日1万5,000円となります。上記の式で計算した助成額が1万5,000円を上回る場合、1万5,000円の助成となります。
助成率は次の表のとおりです。
区分 | 大企業 | 中小企業 |
新型コロナウイルス感染症の影響を受ける事業主 | 2/3 | 4/5 |
上乗せの要件を満たす事業主 | 3/4 | 10/10 |
助成率が引き上げられる「上乗せの要件」は、従業員の解雇等を行わず、雇用を維持することです。
また、研修などで教育訓練を行った事業者は従業員1人1日あたり最大2400円の助成金が加算されます。対象となるのは、インターネットを用いて自宅で行う研修や、接遇・マナー講習、パワハラ・セクハラ研修、メンタルヘルス研修といった、業種に関係なく職業人として必要になる内容などです。
対象の事業者
雇用調整助成金の特例措置では、次の条件を満たす全ての業種の事業主が対象となります。
- 新型コロナウイルス感染症の影響により経営環境が悪化し、事業活動が縮小している
- 最近1ヶ月間の売上高または生産量などが前年同月比5%以上減少している
- 労使間の協定に基づき休業などを実施し、休業手当を支払っている
対象の労働者
「雇用調整助成金」の助成対象となるのは、事業主に雇用された雇用保険の被保険者です。パートやアルバイトなど雇用保険の被保険者でない方は、「緊急雇用安定助成金」の助成対象となります。雇用調整助成金と同時に申請することができます。
通常だと、雇用調整助成金の対象となるのは雇用保険の被保険者のみです。特例措置では被保険者でない従業員の雇用も守るために設けられた「緊急雇用安定助成金」も申請することができます。雇用保険の被保険者でない人も助成金の対象になる点が通常と異なる大きなメリットです。
申請から支給までの流れ
雇用調整助成金の特例措置では、手続きの簡便化や迅速な助成金支給などのため、通常枠では必要となる「計画届」の提出を不要としています。そのため、通常枠の申請よりは簡単なのですが、受給までは次のとおりなかなか面倒な手続きを踏む必要があります。
- 休業について具体的な内容を検討し、労使で協定を結ぶ
- 休業を実施する
- 休業等の実績に基づき、雇用調整助成金の支給を申請する
- 申請内容について労働局で審査が行われる
- 審査後、支給決定額が振り込まれる
申請時のポイントとしては、新型コロナウイルスの影響で売上が減少していることを示す必要があります。新型コロナウイルスに関係ない理由での営業縮小や従業員の休業の場合、特例措置では助成金を受給できない可能性があります。
雇用調整助成金は毎月の判定基礎期間を設定し、支給対象期間として申請します。申請期限は支給対象期間の最終日の翌日から起算して2ヶ月以内なので、支給対象期間が終わったら速やかに申請しましょう。
通常時の雇用調整助成金の詳細
続いては、通常枠の雇用調整助成金について解説していきます。通常枠は特例措置よりも助成金額の上限が低いなどの特徴はありますが、新型コロナウイルスに関係なく使える一般的な制度です。新型コロナウイルスとは無関係の休業については、通所枠の雇用調整助成金を利用しましょう。
助成額・助成率
雇用調整助成金で助成されるのは、次の3つの賃金等です。
- 休業を実施した場合の休業手当
- 教育訓練を実施した場合の賃金相当額
- 出向を行った場合の出向元事業主の負担額
対象となる労働者1人1日あたり8,330円が上限となります。教育訓練を実施した場合、1人1日あたり1,200円が加算されます。特例措置と同様に、インターネットを利用した自宅での研修や、接遇・マナー講習、パワハラ・セクハラ研修、メンタルヘルス研修といった、業種に関係なく職業人として必要な内容の研修などが対象となります。
また、助成率は企業の規模によって異なり、中小企業は3分の2、中小企業以外は2分の1となります。
対象の事業者
通常枠の雇用調整助成金の対象となる事業者の主な条件は次の通りです。
- 雇用保険の適用事業主である
- 売上高または生産量などの事業活動を示す指標について、その最近3ヶ月間の月平均値が前年同期に比べて10%以上減少している
- 実施する休業等および出向が労使協定に基づくものである
なお、他にも細かな条件が決まっているので、詳細は「雇用調整助成金ガイドブック」でご確認ください。
対象の労働者
雇用調整助成金の対象となる労働者は、雇用保険の被保険者です。被保険者である労働者の休業・教育訓練(研修など)・出向が対象となります。
特例措置と異なり、アルバイトやパートなど雇用保険の被保険者でない労働者の休業は対象になりません。
申請から支給までの流れ
通常枠の雇用調整助成金は、以下の流れで申請から支給までを行います。特例措置と異なり、計画書の提出が必要となります。
- 雇用調整の計画
- 計画届の提出
- 雇用調整の実施
- 支給の申請
- 労働局における審査・支給決定
- 支給額の振込
「雇用調整」とは、休業・教育訓練・出向のことです。従業員に対する休業・教育訓練・出向の具体的な内容を決めて計画書を作成してから、実際の休業などを実施する必要があります。
特例措置と通常時の主な違い
通常枠と特例措置の2種類の雇用調整助成金について解説してきました。どちらで申請するのが良いのかを判断するため、2つの違いについて詳しく解説していきます。
基本的には、特例措置の方が簡便な手続きで高額の助成金を得られるため、新型コロナウイルスの影響で休業等が発生している事業者は特例措置を使うことをおすすめします。ただし、特例措置は2021年4月30日までの期間だけ設けられた仕組みであり、2021年5月以降は縮減される見込みなので、該当する方は早めに申請するようにしてください。
雇用保険被保険者以外も対象
通常枠の対象者は雇用保険の被保険者のみであるのに対し、特例措置では雇用保険の被保険者のみならず、被保険者でない人も対象となります。正確には、被保険者でない人は「緊急雇用安定助成金」の対象となり、助成金を得ることができます。
特例措置は、アルバイトやパートのような雇用保険の被保険者でない人も対象になることが特徴です。
計画届の提出が不要
通常の雇用調整助成金の申請では、事前に計画届の提出が必要になります。一方、特例措置では計画届の提出は不要です。
通常の雇用調整助成金を申請する場合、計画届として以下の書類が必要になります。
- 休業等実施計画(変更)届
- 雇用調整実施事業所の事業活動の状況に関する申出書
- 雇用調整実施事業所の雇用指標の状況に関する申出書
- 休業・教育訓練計画一覧表
- 休業協定書・教育訓練協定書
- 事業所の状況に関する書類
- 教育訓練の内容に関する書類
以上の書類を労働局に提出する必要があります。事業が縮小して営業活動が苦しくなっている中、以上の書類を作成するのは大変と言えるでしょう。特例措置では手続きが簡便化され、計画届の提出は不要となっています。
助成額・助成率が大きい
通常の雇用調整助成金は1日1人あたり8,330円が上限であるのに対し、特例措置では1日1人あたり1万5,000円が上限となっています。より高額の補助を受けられるという意味で、特例措置の方が事業者にとって優しい制度であると言えます。
生産指標要件が緩和
支給要件となる生産指標要件も、特例措置では緩和されています。売上高や生産高について、通常枠では「3ヶ月で10%以上の減少」が支給要件となっています。
一方の特例措置では、「1ヶ月で5%以上の減少」が要件となっており、期間と減少幅の両方において通常枠よりも条件が緩和されています。
したがって、「通常枠は要件を満たさないけど、特例措置なら要件を満たす」という事業者の方もいらっしゃるはずです。特例措置は2021年4月30日までの予定なので、該当する方は期限内に申請を済ませましょう。
まとめ
雇用調整助成金の通常枠と特例措置について、支給要件や助成額などについて解説してきました。新型コロナウイルス対策の特例措置は2021年4月30日までの予定で、5月以降は縮減される見込みですが、通常枠よりも簡便な手続きで高額の助成を受けられるメリットがあります。
通常枠だと特例措置に比べて申請が大変になりますが、今後も継続して公募が続く予定なので、新型コロナウイルス以外の要因で休業しなければならなくなった企業も使うことができます。
助成金は要件を満たしていれば受給できるものがほとんどですが、書類の不備によって不支給となり、受給できなかったというケースが多発しています。
不備の無い書類で審査してもらうためにも、助成金は社会保険労務士に代行してもらうのがおすすめです。社労士が多数登録している「補助金バンク」を使って、雇用調整助成金に詳しい身近な社労士を探しましょう。