事業再構築補助金は2020年第3次補正予算で、中小企業向けの補助金として新しく設立した制度です。これまでも新型コロナウイルスの影響により、売り上げ・利益が減少した中小企業に対しては給付金や助成金がありましたが、事業再構築補助金はそれらと比べると総予算1兆円超えと規模が大きく、コロナ禍を機に事業そのものを転換し飛躍したい中小企業を応援するための補助金です。
そのため、申請書類の枚数が多く、事業計画書や費用項目も細かく記載しなければなりません。今回は、美容院が事業再構築補助金に申請する場合、どのようなことに気をつけて申請を行えば良いのかポイントを解説します。
事業再構築補助金とは
新型コロナウイルス感染症の影響が長期化し、当面の需要や売り上げの回復が期待しづらい中、事業再構築補助金はポストコロナ・ウィズコロナ時代の経済社会の変化に対応するために中小企業等の事業再構築を支援することを目的としています。そのため、新分野展開、事業転換、業種転換、業態転換または事業再編という思い切った事業再構築が申請要件となります。
対象者
申請ができる企業の要件は4つです。
企業の要件
- 申請者は中小企業もしくは中堅企業
- 新型コロナウイルスの影響で売り上げが減少している
- 事業計画を「認定経営革新等支援機関」と策定する
- 事業再構築の定義に該当する事業
1. 申請者は中小企業もしくは中堅企業
1つ目は、申請者は中小企業もしくは中堅企業であることです。美容院はサービス業とみなされていますので、中小企業とみなされるためには、資本金が5,000万円以下、または常勤の従業員が100名以下である必要があります(※どちらかを満たせば中小企業とみなされます)。
2. 新型コロナウイルスの影響で売り上げが減少している
2つ目は、新型コロナウイルスの影響で売り上げが減少していることです。2020年10月以降(コロナ以降)の連続する6ヶ月間のうち、任意の3ヶ月の合計売上高を、コロナ以前(2019年または 2020年1月~3月)の同3ヶ月の合計売上高と比較して10%以上減少していることを示すことができれば該当します。
3. 事業計画を認定経営革新等支援機関と策定する
3つ目は、事業計画を「認定経営革新等支援機関」と策定することです。「認定支援機関」は、商工会議所などへ問い合わせれば紹介を受けることができます。すでに相談しているコンサルティング会社が取得している可能性もありますので、一度確認してみましょう。
補助金額が 3,000 万円を超える案件は、認定経営革新等支援機関と併せて金融機関とも策定していることが要件となります。ただし、ほとんどの金融機関は認定経営革新等支援機関として登録を受けているため、わからなければ金融機関に確認してみましょう。
4. 事業再構築の定義に該当する事業
4つ目は、事業再構築指針に示す「事業再構築」の定義に該当する事業であることです。詳しくは後続の「事業再構築のパターン5つ」で説明します。
補助金額
中小企業が通常枠で申請する場合、 補助額100万円~6,000万円で補助率2/3となります。例えば、3,000万円の事業を行う場合は、2,000万円の補助金が下りるということになります。
ただし、補助金は事業が終わった後に見積書・請求書等を提出することで、きちんとその事業が行われたのかを確認してからの支払となります。つまり、事業を行う際はまずは全額を自己資金で行うこととなり、手元に資金がない場合は、銀行から等の借り入れを行わなければならない点に注意しなければなりません。
なお、中堅企業(通常枠)の場合の補助額は、100万円~8000万円で補助率1/2となります。
事業再構築補助金の概要:
事業再構築に当てはまるケース
実際にどのような事業が事業再構築として申請されているのか、具体例を照会してみましょう。まずは事業再構築とは何なのかについて簡潔に解説し、美容院が事業再構築として採択された例を取り上げます。
事業再構築のパターン5つ
事業再構築には申請する要件として、次の5つのうちいずれかに該当しなければなりません。
- 新分野展開
- 事業転換
- 業種転換
- 業態転換
- 事業再編
それぞれ微妙に定義が異なりますので、1つずつ解説します。
新分野展開
「新分野展開とは、主たる業種又は主たる事業を変更することなく、新たな製品等を製造等し、新たな市場に進出することを指します。」と要項に記載されています。業種・事業を変更しなくても、まったく異なる製品やサービスを、まったく異なるお客さんに売ることができて、その売上が全体の10%を占めればOKということです。
事業転換・業種転換
「事業転換」「業種転換」の2つはよく似ており、
- 事業転換:事業のマイナーチェンジ
- 業種転換:事業の抜本的なチェンジ
というようなイメージです。具体的には、事業転換は「総務省が定める日本標準産業分類に基づく中分類、小分類又は細分類」を変更しなければならないのに対し、業種転換は「総務省が定める日本標準産業分類に基づく大分類」が変わっていなければ業種転換とみなされません。
例えば、お寿司屋さんを経営している会社が焼肉屋を開始するのはマイナーチェンジの事業転換、抜本的にシェアオフィス事業を開始する場合は業種転換とみなされます。
業態転換
業態転換は、事業・業種は変わらないけれど、販売している商品もしくはサービスを作り出す過程を変更する場合を指します。例えば、美容院の場合は店舗を縮小し、外出の機会を減らしたいと考える利用客や、移動が難しい高齢者向けに、訪問美容サービスを新たに開始する場合などが該当します。
事業再編
事業再編は、上の4つのいずれかを実施しながら、「合併」「会社分割」「株式交換」「株式移転」「事業譲渡」等を行う場合を指します。
美容院が申請するときの例
第1次事業再構築補助金申請で、美容院・ヘアサロンが申請し採択された事例を見てみましょう。
- コロナ禍でも減少が少ない男性客に向けた、美容院内での脱毛ビジネスの展開
- 専門的な毛髪カウンセリングと訪問美容を備えた美容院事業
- オーガニックコスメ手作り体験教室を軸とした新事業展開
- 美容分野での技術と資格を活用したワンストップのトータルビューティサロン化戦略
- 24時間営業の非接触型エステ&脱毛サロ ンの開設
- エステ・カフェの併設による美と健康のテーマパークの運営
いずれも独自性が強く、狙っているターゲットと売りたいサービスが明確な印象です。採択される事業計画を作るには、なんとなく今の事業が厳しいから新しい事業をやって売上を拡大したいというだけでは難しく、自社のどういったところに強みがあり、どのようなニーズがあるかということを研究しなければ、上記のような事業を計画するのは難しいといえます。
そのためには、自社の強み・弱みを把握し、お客様へのヒアリング等の調査も必要となります。コンサルタントに依頼するだけで採択される事業計画書を作ってもらえるわけではなく、協力して事業を組み立てていく必要があるということを心得ておきましょう。
具体的な対象経費
経費はなんでも申請できるわけではありません。特に注意が必要なのは、「もっぱら」その事業に使うという費用であると証明する必要があるということです。
対象経費の項目
対象経費の項目は以下の通りです。
- 建物費(建物の建築・改修、建物の撤去、賃貸物件等の原状回復)
- 機械装置・システム構築費(設備、専用ソフトの購入やリース等)、クラウドサービス利用費、運搬費
- 技術導入費(知的財産権導入に要する経費)、知的財産権等関連経費
- 外注費(製品開発に要する加工、設計等)、専門家経費 ※応募申請時の事業計画の作成に要する経費は補助対象外。
- 広告宣伝費・販売促進費(広告作成、媒体掲載、展示会出展等)
- 研修費(教育訓練費、講座受講等)
- 逆に、申請できない経費の例としてあげられる項目は以下の通りです。
- 補助対象企業の従業員の人件費、従業員の旅費
- 不動産、株式、公道を走る車両、汎用品(パソコン、スマートフォン、家具等)の購入費
- フランチャイズ加盟料、販売する商品の原材料費、消耗品費、光熱水費、通信費
つまり、汎用性の高い資産(何にでも使うことができる物)の購入のための経費はでないということです。言い換えれば、補助事業を行うために絶対必要で、なおかつ、それ以外には使えないような「専用性」の高いものであることが条件となります。
美容院が申請できる経費
美容院が申請する場合、店舗内の改装費や新しいサービスを提供するための機械購入費、ホームページ開設費用、ウェブ広告等の広告宣伝費(リスティング広告費用等)、チラシ印刷代や看板作成費、その他新しいサービスを導入するための研修費等があたると考えられます。
おそらくほとんどの経費は補助事業を実施するために必要なことを証明さえできれば対象となるはずですが、新しい店舗を構えるための賃借料や通信費等は対象外となります。また、いかに専門性が高いといっても、スタイリストやアシスタントや受付の人件費も対象外となります。
美容院が事業再構築補助金に採択されるための申請書の書き方
第1次の事業再構築補助金の採択率は、通常枠で下記の通りとなりました。採択率30%は非常に低いとネット上でも話題になっています。
応募数 | 採択数 | 採択率 |
16,968 | 5,104 | 30.08% |
第2次も同様の傾向となることが予想され、採択されるためにも説得力と実現性の高い事業計画書を書かなければなりません。
申請書の構成
申請書は、大きく分けて以下の4項目について書いていきます。ページ数は15枚以内と指定されており、膨大な情報をコンパクトにわかりやすくまとめていく必要があります。
- 補助事業の具体的取組内容
- 将来の展望(事業化に向けて想定している市場及び期待される効果)
- 本事業で取得する主な資産
- 収益計画
1. 補助事業の具体的取組内容
事業の概要、自社の強み・弱み(SWOT分析)事業の市場動向等について書きます。そこから自社の経営課題を記載し事業再構築の必要性について記載します。また、事業再構築の具体的内容についてもビジネスモデル図等を用いて記載します。
2. 将来の展望(事業化に向けて想定している市場及び期待される効果)
市場での顧客ニーズと市場動向(今後の見通し)を記載し、マーケティング(販売促進)プランを記載します。併せて競合他社のまとめや ポジショニングマップがあると分かりやすくなります。また補助事業を進めていく上での課題とリスクを記載します。それらを踏まえた上で、目標となる時期・売上規模についてまとめます。
3. 本事業で取得する主な資産
取得する資産について記載します。可能な限り具体的な品番や商品名が分かると計画に信憑性が増しますので、業者等に見積りを早めに依頼しましょう。
4. 収益計画
3~5年の収益計画とその算出根拠を記載します。付加価値が毎年3%以上増加する計画にしなければなりません。
書くときの重要なポイント
令和3年度行政事業レビュー公開プロセス(令和3年5月31日実施)の中で、中小企業庁の担当部長が今回の申請について「顧客規模の想定の積算根拠が甘い。厳しく見ると8割が落第しそうな勢い」といった内容の発言をしています。
どうやら半分以上の申請書においてロジックが弱く、感覚的な文章であったと考えられます。事業再構築補助金は、自社がいかに危機的状況かを感情的に訴えたり、同情を誘ったりするような内容では通りません。なお、第2次公募以降は、1,500万円以内の補助額の場合は10ページ以内と枚数が変更になりました。
こんな申請書はNG
審査は中小企業診断士3人以上でクロスチェックをするようです。公開レビューの中で、審査のポイントについて、下記の3点が挙げられていました。
- 指針に合っているか
- 事業としての実現可能性
- マーケティングの根拠性
指針に合っているか
指針に合っているかは、「要項をよく読み、指示されていることは漏らさず書いてください」ということです。そのため、補助事業に関係のないことにページを使うことは控えましょう。
また、定性的、感情的、感覚的な表現もやめましょう。例えば、「当社は優秀なベテラン社員が多く」という書き方よりは、「当社は〇〇の資格保有者が△名おり」といった方が通りやすいということです。
事業としての実現可能性
事業としての実現可能性については、「ドリームプランを書くだけでは通しません」ということです。書いているプランの根拠、特にやったことのない事業をやるというストーリーなわけですから、差別化・競合分析はきちんと書く必要があります。
例えば、今後コロナの影響などで増えると考えられるニーズに、既存の競合他社が対応できていないということを根拠とともに書くと良いでしょう。また、国の政策と連動して増えるニーズ(デジタル・低炭素・雇用創出・地域活性化等)に関係のある事業であれば、そのことも書きましょう。
マーケティングの根拠性
最後のマーケティングの根拠性ですが、公開レビューの中で、応募書類全体についてマーケティングの甘さが指摘されていました。さらに、同レビューにおいて「経営指導者がいてもできていない。日本にマーケティング力が無い。」と発言があり、マーケティング力の弱さは日本全体の課題であるようです。
マーケティングは「誰に」「何を」「どうやって」売るのかの、「どうやって」の部分です。3年の売上計画を立てたけけれど、その売り上げの算出根拠と、その算出根拠が「製品単価」と「購買回数」の掛け算であるなら(売り上げ=(製品単価)×(購買回数))、それぞれの数値の根拠を示さなければなりません。
「前年比〇%増でなんとなく増えていく予定」のようなドリームプランでは審査員に一蹴されてしまいます。逆に、マーケティング計画をしっかり説明さえできれば、説得力のある事業計画になるでしょう。
まとめ
美容室が事業再構築補助金を申請する際のポイントについて、当該補助金の概要や第1次の採択結果に触れながら解説しました。
色々と厳しいことが言われていますが、国の狙いは「成長する企業に投資し、いずれは税金として回収する」ことだと考えられます。つまり、成長できるということが証明できれば良いのです。ビジネスプランをお持ちの事業者は新しいビジネスを始めるチャンスですので、専門家と一緒にビジネスプランを練り直し実行に移しましょう。
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