サービスで稼ぐ中小企業を後押しするため、公益財団法人東京都中小企業振興公社が募集している「革新的サービスの事業化支援事業」。革新的なサービスの事業化に要する経費の一部の助成を受けたり、事業化に向け専門家を派遣してもらえたりするといった事業です。
当記事では、革新的サービスの事業化支援事業への応募を検討している中小企業者に向けて公募要領の解説から審査のポイントまでわかりやすく解説します。
※「革新的なサービスの事業化支援事業」の2020年度の募集は終了しています。他の革新的サービス等に関連する補助金をお探しの方は、目次から「革新的サービスの事業化支援事業以外に利用したい補助金」をご覧ください。
革新的サービスの事業化支援事業の概要
革新的サービスの事業化支援事業とは、先進技術等を活用した革新的サービスの事業化に取り組む都内中小企業者等で、ビジネスモデルが優れていると認められる者に対し、助成金による支援及びアドバイザーによる支援を行うことで、サービスで稼ぐ中小企業を創出し、東京の産業の活性化を図ることを目的とした事業です。
採択率は低めですが、マーケティング調査からサービスの開発費、その後の販路開拓費まで幅広い経費が対象である点やサービス開発アドバイザーと呼ばれる専門家による各事業化段階に応じたアドバイスを受けられる点が特徴的です。
画像引用元:東京都中小企業振興公社
支援内容の詳細
革新的サービスの事業化支援事業に採択されると「経費の一部助成」及び「サービス開発アドバイザーによる助言」を受けることができます。
経費の助成
助成の対象となる経費は、サービスの開発に直接かかった費用や設備導入費等で対象経費の2分の1以内の助成を受けることができます。限度額は2か年で最大2,000万円となっています。
項目 | 概要 |
---|---|
助成期間 | 【第1回】令和2年9月1日から令和4年8月31日まで(2年間) 【第2回】令和3年1月1日から令和4年12月31日まで(2年間) |
助成限度額 | 2か年で2,000万円 |
助成率 | 助成対象経費の2分の1位内 |
助成対象経費 | マーケティング調査委託費
開発費(原材料副資材費、外注・委託費、直接人件費) 設備導入費 規格認証費 産業財産権出願日 販路開拓費(展示会等参加費、イベント開催費、広報ツール制作費、広告掲載費) |
サービス開発アドバイザーによる助言
サービスの事業化にあたっては、技術の導入やサービスマーケティングの実行、資金調達や企業法務などさまざまな課題に直面することが想定されます。革新的サービスの事業化支援事業では、事業の進捗状況に応じて各分野の専門家の助言を受けることができます(1社1年度8回まで)。
明確な記載はありませんが、東京都中小企業振興公社に専門家として登録されている中小企業診断士、行政書士、公認会計士や税理士等の各分野のエキスパートの派遣が想定されます。
支援対象事業
支援対象事業は、次の2つに該当する事業とされています。
- 先進技術等を活用した革新的サービスの事業化に取り組む事業
- 助成対象期間にサービス事業モデルを実現するためのサービスの開発・改良を行う計画が含まれている事業
先進技術等とは、「新たな価値を創造し、私たちの暮らしやビジネスの環境をより良いものへと導くことが期待される技術」とされ、例として5G、IoT、AI、ICT、ブロックチェーン、ドローン、ロボット、新材料等が挙げられています。
また、革新的サービスとしては、「最新のテクノロジーと既存のサービスを融合させたもの」として例が紹介されています。
- ドローンを活用した家屋点検サービス
- ICTを活用した効果的な人材マッチングサービス
革新的サービスのイメージ(東京都中小企業振興公社)
過去の採択事例
東京都中小企業振興公社の公式ホームページに、革新的サービスの事業化支援事業の事例集が掲載されています。例えば、株式会社EYS-STYLEの展開するシニア向けの楽器の自宅練習用のアプリはICTと教育サービスを組み合わせた事例となっています。
事例集では、上記のような先進技術等と従来サービスの組み合わせの具体例がわかりますので、申請を検討する上での参考としてみてください。
申請資格
資格の要件としては5つが定められています。中小企業者であることや都内で事業を行っていることなど一般的な要件がありますが、ハードルが高い要件が1つあります。それは次のものです。
「申請資格となる事業と要件」の事業において、「助成対象事業のビジネスモデルが優れていると認められ、表彰・助成・支援を受けている」こと
申請資格となる事業の要件としては、世界発信コンペティションや東京ビジネスデザインアワード、経営革新計画等の21事業のいずれかとされています。これらの事業において、今回助成対象のビジネスモデルが優れていると認められ、表彰・助成・支援を受けており、平成29年(2017年)4月1日以降から申請日時点までに必要となる要件を満たしている必要があります。
具体的な事業名と必要となる要件については令和2年度革新的サービスの事業化支援事業の「申請資格となる支援事業」を確認してみてください。
スケジュール
スケジュールは下表のとおりです。申請書類の提出は令和2年9月25日までとなっていますが、申請書の提出にあたっては事前予約制となっているため注意が必要です。東京都中小企業振興公社の公式ホームページからWeb予約が可能となっています。
また、補助金全般に言えることですが、採択されるとすぐにお金がもらえるわけではなく、後払いとなるので、資金繰りの計画も重要となります。
日程 | 項目 |
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令和2年7月28日~令和2年9月16日 | Web予約 |
令和2年9月17日~令和2年9月25日 | 申請書の提出 |
令和2年10月上旬~令和2年11月上旬 | 一次審査(書類) |
令和2年12月上旬 | 二次審査(面接) |
令和2年12月下旬 | 総合審査会 |
令和3年1月上旬 | 助成対象者決定 |
令和3年1月上旬 | 事務手続き説明 |
令和4年1月上旬 | 実績報告(第1期) |
令和4年1月上旬~ | 完了検査(第1期) |
完了検査の約1か月後 | 助成金交付(第1期) |
令和5年1月上旬 | 実績報告(第2期) |
令和5年1月上旬~ | 完了検査(第2期) |
完了検査の約1か月後 | 助成金交付(第2期) |
革新的サービスの事業化支援事業の採択率
直近3年間の採択率は下表のとおりです。年々採択率は上がっていますが、それでも100社中20社しか採択されない狭き門です。
ライバルに勝つためには、ビジネスモデルが優れている点はもちろんですが、審査内容をよく読み込み、本助成事業の目的に沿った計画を作り込み、審査員からの高い評価を獲得していく必要があります。
年度 | 申請件数 | 交付決定件数 | 採択率 |
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令和元年度 | 100 | 22 | 22.00% |
平成30年度 | 108 | 21 | 19.40% |
平成29年度 | 126 | 18 | 14.30% |
審査内容とポイント
審査方法としては、申請した書類に基づき審査される「一次審査」と一次審査通過者に対して行われる面接審査「二次審査」があります。それぞれ高評価を獲得するために、ポイントをしっかりと押さえておくことが重要です。
一次審査(書類)
申請書類に基づき行われます。必要に応じて審査員が実際に企業を訪問し、申請した内容や事業活動、経営状況等を確認する場合があります。審査項目としては、大きく資格審査、経理審査、事業審査の3つがあります。
- 資格審査:申請資格の要件を満たしているかをチェックされます。募集要領の要件を満たしていれば問題ありません。
- 経理審査:申請した事業を計画どおり行える十分な資金もしくは稼ぐ力があるか?を財務状況から審査されます。財務状況が良好な企業ほど、事業を問題なく行える可能性が高いため、評価が高くなります。
- 事業審査:申請する事業そのものの評価です。詳細な審査項目は次の5つとなっています。
- 革新性
- 市場性
- 実現可能性
- 成長性
- 産業への貢献・波及度
それぞれの詳細は下表のとおりです。中でも「革新性」がポイントになります。革新性では、検討しているサービスがまだ世に出ていないことや、すでに既存のサービスがあっても先進技術や自社の強みを活用することで他社と差別化できるか、という点が重要となります。申請書を書く上では本助成事業の目的及び審査項目と適合することを意識して作成しましょう。
項目 | 概要 |
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革新性 |
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市場性 |
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実現可能性 |
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成長性 |
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産業への貢献・波及度 |
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二次審査(面接)
書類審査を通過すると面接審査があります。申請内容(スライド20枚程度を別途作成)をプレゼンテーション形式で説明、審査員との質疑応答を通し、総合的な観点から審査されます。書類審査である程度まで採択企業は絞られていると想定されますが、気を抜かずに対策するようにしましょう。
面接対策の一番のポイントは、「事前の準備」です。まず、説明資料(スライド)については、何も見なくても説明できるくらいに頭に叩き込みましょう。特に数値については、ただ単に暗記するだけではなく、「なぜその数値になるのか?」を質問されても答えられるようにしておくことが重要です。
次に、想定問答集を用意しましょう。面接官は士業や大学教授など各分野の専門家のため、色々な角度から質問が飛んでくると思っておいたほうが無難です。また自社で想定問答集を作るだけでなく、できれば自社の業界以外の知識人にも質問を考えてもらったほうが望ましいです。
最後に、模擬面接です。素人が聞いてもわかりやすいように説明することはもちろんですが、今回の助成対象事業がいかに有望で実行可能性が高いかを印象付けるために、話の強弱も付けるように意識しましょう。また用意した想定問答集を実際に質問してもらい、スムーズに答えられるか、練習するようにしてください。
上記の事前準備を面倒くさがらずに行い、本番に望むようにしましょう。
革新的サービスの事業化支援事業以外に利用したい補助金
2020年度の革新的サービスの事業化支援事業は募集を終了しており、2021年度については現在未定となっています。そこで「他に使えそうな補助金はないのか?」という中小企業者の方のために、2021年2月現在募集中(もしくは近日中に募集予定)の補助金から、中小企業が比較的利用しやすい補助金を紹介します。革新的サービスの事業化支援事業と同等かそれ以上の補助額が期待できる補助金は「事業再構築補助金」や「ものづくり補助金」が挙げられます。
事業再構築補助金
ポストコロナ・ウィズコロナ時代の経済社会の変化に対応するための企業の思い切った事業再構築を支援する補助事業で、令和2年度より新たに開始される事業です。コロナの影響で厳しい状況にある中小企業、中堅企業、個人事業主、企業組合等が対象となり、補助額も最大1億円と2021年度の目玉となる補助金です。
事業再構築補助金の概要
項目 | 概要 |
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目的 | ポストコロナ・ウィズコロナの時代の経済社会の変化に対応するため、中小企業等の思い切った事業再構築を支援 |
主要申請要件 |
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補助額・補助率 | 【中小企業】
【中堅企業】
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補助対象経費 |
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スケジュール | 2021年3月公募開始予定 |
公式ホームページ | https://www.meti.go.jp/covid-19/jigyo_saikoutiku/index.html |
ものづくり補助金
正式名称は「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」です。設備投資及び設備投資を伴う開発が支援され、ものづくりをしている製造業だけでなく小売業やサービス業も対象となります。一般型とグローバル型の2類型があり、コロナを機に一般型に低感染リスク型ビジネス特別枠が設けられました。
ものづくり補助金の概要
項目 | 概要 |
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目的 | 中小企業・小規模事業者等が取り組む革新的サービス開発・試作品開発・生産プロセスの改善を行うための設備投資等を支援 |
主要申請要件 | 以下を満たす3~5年の事業計画の策定及び実行
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補助額・補助率 | 補助上限:
補 助 率:
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補助対象経費 |
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スケジュール | 6次締切
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公式ホームページ | https://portal.monodukuri-hojo.jp/about.html |
小規模事業者持続化補助金
小規模事業者持続化補助金は、小規模事業者等が、地域の商工会議所または商工会の助言等を受けて経営計画を作成し、その計画に沿って販路開拓に取り組む場合に、費用の補助を受けられる補助金です。公募開始後通年で受付が行われており、約4か月ごとに受付を締め切って、受付回ごとに審査が行われます。費用は少額ですが、小規模事業者が比較的利用しやすい補助金です。
小規模事業者持続化補助金の概要
項目 | 概要 |
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目的 | 小規模事業者等が、地域の商工会議所または商工会の助言等を受けて経営計画を作成し、その計画に沿って地道な販路開拓等に取り組む費用の補助 |
主要申請要件 |
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補助額・補助率 | 補助上限額:50万円、補助率:2/3 |
補助対象経費 | 機械装置、広報費、展示会等出展費他 |
IT導入補助金
IT導入補助金は、ITツールの導入を検討している中小企業・小規模事業者等を対象としている補助金です。通常枠に加え、新型コロナウィルスに対応した低感染リスク型ビジネス枠があります。低感染ビジネス枠ではPC・タブレット等ハードウェアのレンタル費用も補助対象となります。
IT導入補助金の概要
項目 | 概要 |
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目的 | 中小企業・小規模事業者等が自社の課題やニーズに合ったITツールを導入する経費の一部を補助 |
主要申請要件 | 中小企業及び小規模事業者 |
補助額・補助率 | 通常枠
低感染リスクビジネス枠 C類型(低感染リスク型ビジネス類型)
D類型(テレワーク対応類型)
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補助対象経費 | 通常枠ソフトウェア費及び導入関連費低感染リスクビジネス枠PC・タブレット等のレンタル費用も対象 |
スケジュール | 公募開始:2021年2月26日申請受付開始: 2021年4月上旬頃 |
公式ホームページ | https://www.it-hojo.jp/ |
補助金を申請する際の注意点
最後に補助金を申請する際の一般的な注意点について説明します。
公募要領を読み込む
公募要領を読み込むことは、何より重要な作業です。補助事業の目的に合っていなかったり、審査項目を見落としていたりすると、せっかく労力をかけて作った申請書も無駄に終わってしまいます。
また、申請しようと思っている事業が対象になるのか、検討している経費が補助対象になるか等、疑問に思う場合は公募要領の問い合わせ先に遠慮なく問い合わせてみましょう。
審査員を理解する
補助金の審査は機械ではなく、審査員という人間によって審査されます。
もちろん、審査をするにあたっては採点基準表のようなもの(例えばABCDのランク分けなど)があり、客観性は保たれていると想定されます。しかし、採点基準表のどこに落とし込むかについては、やはり最後は人間の判断となります。
申請する事業の内容が優れているのはもちろんですが、審査員の心象が良くなるような申請書を作成することも重要になります。例えば、会社や従業員の写真を入れて感情に訴える、業界の専門用語には注釈を入れる、図表を入れ読み手の負担を軽くする、などです。
自社で難しい場合は専門家に相談してみる
補助金の申請は想像以上に労力がかかる作業になります。使えそうな補助金事業を探し出し、公募要領を読み込み、自社の事業が採択されそうかチェックし、事業内容を言語化し、市場調査をし、数値計画を策定し、見た目がキレイな申請書も作成しなければなりません。
普段の業務に加え、補助金申請業務まで行うとかなりハードです。そんなときは申請書作成の代行や申請支援を専門に行っている企業を利用することも一つの選択肢です。
まとめ
最後に、革新的サービスの事業化支援事業のポイントをまとめておきます。
- 革新的サービスの事業化支援事業は、サービスの事業化に関する費用の助成と専門家によるアドバイスが受けられる。
- ポイントは「革新性」。先進技術と既存サービス等との組み合わせで新規性が高く、他社と差別化できるものが求められる。
- 革新的サービスの事業化支援事業と同等以上の補助額が期待できる補助金は、「事業再構築補助金」と「ものづくり補助金」。
- 申請要件に合いそうであれば検討してみると良い。補助金の申請にあたっては注意点があるため、難しそうであれば専門家に相談してみるのもあり。
当社補助金バンクには、補助金に関する専門家が多数在籍しています。お困りの場合は、まずは気軽にお問い合わせください。