製造業では、競合他社への優位性や従業員の高齢化や労働人口の減少など、常に生産性の向上のための設備投資が求められています。しかし、中小企業様においては売上の減少や原材料・諸経費の値上がり、最低賃金の上昇等により、設備投資に回す資金を自社だけで確保することは困難な経営環境です。
そうした製造業を営む中小企業様にとっての強い味方は、国や地方公共団体が募集している「補助金」です。今回は、製造業を営む中小企業様が補助金を上手く活用し、計画的に設備投資を行う手法について解説します。
「製造業」が補助金を活用するメリット
まず、製造業が補助金を活用することのメリットを解説します。大きく次の4点が挙げられます。
補助金は返済が不要
最大のメリットは、補助金で受給した資金は返済が不要であるという点です。
たとえば、製造業でよく利用されている「ものづくり補助金」は、最も補助金額が少ない申請類型でも最大1,250万円が支給されます。経済産業省の行った調査によると、製造業の売上高営業利益率は全体平均が3.6%となっているため、売上にして3.5億円のキャッシュが返済不要で支給されるということになります。
実際は営業利益とキャッシュはイコールではなく、売上高営業利益率も企業によって差があるため一概にはいえませんが、おおよそそれくらいの売上規模に相当する大金ということはイメージいただけることでしょう。
事業拡大のスピードが加速
自社だけで設備購入に回す資金を準備しようとすると、どうしても資金繰りの面から思い切った投資ができない場合が往々にしてあり、中古で型落ちを購入したり、今回は見送るという結論に至ったりすることもあります。
しかし、投資資金の1/2から2/3を補助金で支給してもらえるとなれば、最新鋭の設備を導入することも可能になります。それにより、一気に生産性が向上したり、新たな取引先を開拓したりするきっかけになるかもしれません。
製造業では、こういったチャンスはどのような設備を保有しているかという点が重要になり、設備を導入できなかったがために、みすみす成長の機会を手放してしまっているかもしれません。補助金を活用することで、そうしたチャンスを捉え、事業展開の速度を飛躍的に高めることができます。
事業の見直すきっかけになる
補助金を申請する場合には、必ず事業計画書を作成する必要があります。事業計画書には、次のような内容を記載します。
- 自社の沿革、商品・サービスの特徴
- 自社の強み・弱み
- 自社を取り巻く経営環境
- 市場の趨勢、消費者の動向
- 競合他社の動向
- 新規参入、代替品
- 課題、解決策と見込まれる効果
- 今後の将来展望
自社の事業に関連する内部環境や外部環境を分析し、過去と未来の状況を整理して、今どのようなことが課題になっているか、今後の発展のために何に取り組むべきかということを紙に出力していきます。
必要に応じて、従業員の声をヒアリングしたり、社外の第三者からの意見を聴取したりすることも必要になります。そうすることで自社のビジネスを見直すことができ、効果的な改善策を検討することが可能になります。
会社の信頼度が増す
ほとんどの中小企業は事業計画を作成することはないため、事業計画を作成し、進むべき方向を明確にしているだけでも、取引先や金融機関などからの対外的な信用が増します。そのためには、計画を絵に描いた餅ではなく、実行レベルにまで落とし込んで、目標に向かって邁進していかなければなりません。
また、補助金の採択後には金融機関からの借入がしやすくなる場合もあります。1,000万円の設備投資のために同額を借り入れる場合でも、後日その1/2や2/3が補助金として給付されることになっていれば、資金繰りに窮する可能性が少ないと考えてくれます。
製造業が活用できる主な補助金
次に、製造業で主に活用できる4つの補助金を紹介していきます。
ものづくり補助金
ものづくり補助金は製造業で利用されることの多い補助金ですが、正式には「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」という名称で、小売業やサービス業など製造業以外の業種でも利用することができます。
製造業の行う試作品開発や生産プロセスの改善への取り組みが支援され、補助上限・補助率は次のとおりです。
- 一般型
- 通常枠:750万円〜1,250万円、1/2(※小規模事業者:2/3)
- 回復型賃上げ・雇用拡大枠:750万円〜1,250万円、⅔
- デジタル枠:750万円〜1,250万円、⅔
- グリーン枠:1,000万円〜2,000万円、2/3
- グローバル展開型 :3,000万円 、1/2※小規模事業者2/3
「一般型」については、従業員規模に応じて補助上限の金額が変わります。なお、申請する場合は、3〜5年の事業期間内において次の3つの要件をクリアする事業計画を作成する必要があります。
- 事業者全体の付加価値額を年率平均3%以上増加
- 給与支給総額を年率平均1.5%以上増加
- 事業場内最低賃金(事業場内で最も低い賃金)を地域別最低賃金の+30円以上の水準にする
これらの要件を事業期間の収支計画内で示す必要があり、収支計画もなんとなくの数値ではなく、マーケットの推移など根拠を持って示す必要があります。加工技術やその精度、従来品・競合との比較など素人の審査員にも分かるように記載しなくてはならないため、申請のハードルは高めです。
そのため、支給される補助金額は1,000万円単位とかなり高額になっており、製造業者が取り組む価値のある補助金といえます。
事業再構築補助金
事業再構築補助金は、新型コロナウイルスの感染拡大を経て既存の事業を見直し、「アフターコロナ」に向けて新たに事業を再構築しようと計画する企業を支援するために令和2年度(2020年度)補正予算にて創設された比較的新しい補助金です。
対象者は業種を問わず、中小企業から中堅企業までと幅広く申請が可能で、補助上限金額も1社最大1億円と現在募集されている中でも特に注目度の高い補助金です。
採択結果が公表されると、応募や採択についての詳細なデータも提供され、毎回、製造業が採択者全体の20%以上を占めていることがわかります。令和4年度(2022年度)も、4回程度の募集が予定されています。
事業再構築補助金を申請するには、次の3つの要件があります。
- 売上高10%以上減少
- 「新分野展開」「業態転換」「事業・業種転換」「事業再編」のいずれかに取り組む
- 「認定経営革新等支援機関」と事業計画を策定する
「コロナ以前と比較し10%以上の売上高が減少している」ことが必要であり、利用できない企業もありました。しかし、令和4年度(2022年度)から要件が緩和されました。
また、新たに「回復・再生応援枠」「グリーン成長枠」といった申請類型が創設されたり、「通常枠」の補助上限が見直されたりといった大きな改正がありました。
小規模事業者持続化補助金
その名のとおり、小規模事業者持続化補助金は小規模事業者を対象としており、販売促進等に取り組む経費の一部を給付する補助金です。小規模事業者の要件は、従業員の数で次のとおり定められています。
- 宿泊業・娯楽業を除く商業・サービス業においては5名以下
- 製造業その他の業種で20名以下
主に販路拡大のための看板設置やチラシの配布、ECサイトの構築などの取り組みに対して補助金が給付されますが、生産性向上につながるような設備投資も、「地道な販路開拓等と併せて行う業務効率化(生産性向上)の取り組み」の場合に認められています。
例年募集されている内容は補助率2/3、補助上限金額50万円となっていますが、過去には平成30年7月豪雨災害や新型コロナ感染拡大を受けて、補助率・補助上限金額が引き上げられた申請類型も募集されていました。
令和3年度(2021年度)補正予算でも、長引くコロナ禍や令和5年(2023年)10月から導入が予定されている「インボイス制度」に対応する事業者への支援のため、補助率・補助上限金額が引き上げられた複数の申請類型で募集されています。
申請に必要な事業計画書の様式はA4サイズで5〜8枚程度となっており、中小企業にとって取り組みやすい補助金だといえます。なお、商工会・商工会議所が補助金の相談先となっています。
IT導入補助金
IT導入補助金は、中小企業のITツールの導入による生産性の向上や管理事務の簡素化を支援する補助金です。
事前に補助金の実施主体に登録された「IT導入支援事業者」が登録したITツールの導入が対象となります。中小企業と「IT導入支援事業者」がパートナーとなって、ともに事業を実施していくという点が他の補助金と比較して最も異なるところです。
これまでの活用事例としては、得意先の需要予測や仕入単価推移の見える化を行う受発注管理システムの導入、「ワークライフバランス」や「働き方改革」を目指したタイムカードと給与管理システムを連動させた勤怠管理ツールの導入など日常業務の自動化などが挙げられます。
令和3年度(2021年度)補正予算では、過去にも募集されてきた「A類型」「B類型」の「通常枠」に加えて、「インボイス制度」等の企業間取引のデジタル化推進に向けて、新たに補助率を引き上げた「デジタル化基盤導入型」と「複数社連携IT導入類型」を含む「デジタル化基盤導入枠」が設けられています。
「デジタル化基盤導入枠」では、これまで対象外であったパソコン・タブレット、レジ・券売機などのハード機器も少額ながら補助対象となっています。
補助金の採択率を上げる制度
続いて、補助金の審査において加点となる制度を紹介します。毎年、補助金に申請しているような企業は、補助金の募集が開始される前からこれらを取得しておき、万全の体制で準備をしています。効力は数年間有効ですので、今すぐ申請する予定がなくても取得しておいて損はないでしょう。
経営革新計画の承認
「経営革新計画」は、中小事業者の「業績を上げたい」「現状の課題を解決したい」「新しい事業に挑戦したい」といった経営目標に対し、「道しるべ」となる計画です。次の5つの「新事業活動」に当てはまる取り組みを行うことにより、「経営の相当程度の向上」を目指す計画を作成し、各都道府県の担当部局へ申請します。
- 新商品の開発または生産
- 新役務の開発または提供
- 商品の新たな生産または販売の方式の導入
- 役務の新たな提供の方式の導入
- 技術に関する研究開発およびその成果の利用その他の新たな事業活動
なお、「新事業活動」とは個々の事業者にとって新たな事業活動であれば、既に他社で採用されている技術・方式でも、業種・地域における導入状況を鑑み、承認の対象になります。審査で加点となる補助金は「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」です。
事業継続力強化計画の認定
「事業継続力強化計画」は、中小事業者が策定する防災・減災の事前対策に関する計画です。所謂、BCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)の簡易版であるといわれており、事業者にとって最も発生リスクの高い自然災害リスクを想定し、従業員や顧客の安全確保と事業復旧を目指す計画を作成し、経済産業大臣が認定します。
BCPが発生の可能性のあるあらゆる事象に備えるのに対して、発生する確率と発生した場合の自社への被害の大きさのバランスで最も影響のある自然災害リスクに備え、発生時の初動対応手順に重点を置き、スピード感を持って復旧を目指す計画である点が特徴です。
それゆえ、BCPと比較して内容はシンプルになり、計画書自体もA4用紙で4~5枚程度と簡易です。「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」の加点になります。
EBPMの取り組みに対する協力
「EBPM」とは、「エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキング(Evidence-based policy making)」の略称であり、経済産業省など政府の企画を、経験や勘ではなく合理的証拠(エビデンス)に基づくものとする取り組みのことです。
ただし、現状では事業効果を高める要因等の検証に必要なデータ(エビデンス)が蓄積されておらず、今後は情報収集と蓄積が課題になります。その一環として、「事業再構築補助金」の加点項目に加えられています。
これは、事業再構築補助金の電子申請時にチェックボックスにチェックを入れるだけと他の制度と比較して大変簡易になっており、それにより申請者の多くは協力をしているものと考えられます。協力を表明したことで具体的にどのような協力を求められるのかは定かではありませんが、原則的としてチェックを入れるべきだといえます。
パートナーシップ構築宣言
「パートナーシップ構築宣言」は「サプライチェーンの取引先や価値創造を図る事業者の皆様との連携・共存共栄を進めることで、新たなパートナーシップを構築することを「発注者」側の立場から企業の代表者の名前で宣言するもの」として、2020年7月10日にポータルサイトが立ち上げられました。2022年6月22日には、登録を公表した企業数が1万社を超えました。
登録はA4用紙で1~2枚程度のひな形を参考に自社が宣言する内容を記載し、ポータルサイトの登録フォームから企業概要を記入して申請するというものです。この宣言で「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」と「事業再構築補助金」の一部申請類型が加点となります。
補助金と併せて使いたい制度
続いて、補助金のように資金支援をしてもらえるわけではありませんが、認定されると税法上の特別償却が使えたり、固定資産税の減免となったりする製造業の設備投資と相性の良い制度を紹介します。
経営力向上計画の認定
「経営力向上計画」は、「人材育成、コスト管理等のマネジメントの向上や設備投資など、自社の経営力を向上するために実施する計画」です。注意点は、申請を事業分野ごとの主務大臣に対して行わなければならない点です。
認定を受けた企業には、「小規模事業者持続化補助金」などの審査の加点になることに加え、税制・金融・法的の3つの支援措置が活用できます。申請様式はA4用紙3枚程度と手軽で、比較的取り組みやすい制度です。
なお、税制措置の対象となる「経営力向上設備等」は原則、計画の認定後に設備投資する必要がありますが、例外的に設備投資後60日以内に計画が受理されれば対象とすることができます。
先端設備導入計画の認定
「労働生産性を一定程度向上させるため、先端設備等を導入する計画を策定し、新たに導入する設備が所在する市区町村における『導入促進基本計画』等の同意を受けている場合」に固定資産税の減免措置を受けることができる制度です。
自治体ごとにゼロから1/2の間で減免率が条例で定められていることが特徴です。令和2年度末(2020年度末)までの時限的適用でしたが、令和3年度(2021年度)の税制改正において、令和4年度末(令和5年3月31日)まで2年間延長されています。
製造業が補助金を活用する際の注意点
最後に、製造業者が補助金を利用する際の注意点を4つお伝えします。
補助金は後払い
原則として、補助金は後払いです。つまり、一度事業に必要な資金を自己資金または借入金などで準備し、全額を払い込む必要があります。
そのため、経理やメインバンクにその資金を補助事業期間内に用意できるかということを相談しておかなければなりません。補助期間内に支払いができなければ、補助金は取り下げとなります。
申請や報告の手間がある
事業計画の作成や採択された後の実績報告書の作成など、一定の書類作成には手間がかかります。不備がある場合は、事務局とメール等でやり取りをしながら修正作業も行う必要もあります。
最近ではコロナ禍の影響もあり、手続きをすべてインターネット上で行うようになってきており、スピード感はある反面、不得手な方は操作方法から覚える必要もあります。
必ず採択されるとは限らない
補助金では、申請書を審査員が審査し、事業計画の実効性や社会性、添付書類に不備の有無などを確認し点数が付けられ、高得点のものから順に採択されます。当然、不採択となる申請者もおり、たとえばものづくり補助金では採択率は30〜40%ほどです。
どうしても採択されたい場合は、費用はかかりますが、補助金申請をサポートしている業者等に協力を依頼するのも一つの手段です。
入金まで時間を要する
支払いから入金までのサイクルも1年近く要する場合もありますので、「黒字倒産」とならないように気をつけましょう。申請時には借入の必要がなくても、メインバンクの担当者に相談しておき、いざというときに資金ショートしないよう備えをしておくべきです。
まとめ
製造業における、補助金を活用した設備投資について解説しました。補助金以外にも審査の加点となったり、併せて利用することでお得になったりする制度もありますので、今回お伝えした内容を参考に、今日から取り組んでいくことをおすすめします。
当社補助金バンクでは、補助金の採択から給付までトータルに支援する体制が整っているだけではなく、「経営革新計画」や「経営力向上計画」などクライアント様のビジネスが有利になるような施策利用にも力を入れています。補助金の活用を検討している方は、当社までお気軽にご相談ください。