事務所費や備品購入費、販促費等々、創業にはとかくお金がかかります。国際的に見て創業数が少ない日本は、なんとか創業を促そうと国も地方自治体も創業を支援するさまざまな施策を用意しています。
低金利の融資等もありますが、どうせなら「返済不要の資金調達」が一番ですよね。今回は、創業時に使える補助金・助成金を紹介します。
補助金・助成金とは
国や地方公共団体が交付するお金にはさまざまな名称がありますが、厳密にいえば補助金と助成金は異なります。具体的には次のような特徴があります。
補助金とは
補助金は、経済産業省などが販路開拓や新規事業開発などのため実施しています。代表的なものには「小規模事業者持続化補助金」「ものづくり補助金(ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金)」「IT導入補助金」などがあります。
いずれも採択審査があり、採択率は3割~5割程度と申請してももらえるとは限りません。
助成金とは
助成金は、主に厚生労働省が雇用や人材教育等のために実施しています。代表的なものには「雇用調整助成金」「キャリアアップ助成金」「人材開発支援助成金」などがあります。補助金と異なり、助成金は要件を満たせばほぼもらえます。
ただ、「要件」とは、雇用調整助成金なら休業手当を社員に支払ったこと、キャリアアップ助成金なら社員の処遇改善をしたことなど、すでに雇用や人材教育等で何らかの経費をかけていることです。支払った費用に対する補填という意味合いが強く、単純にお金がもらえる給付金とは異なります。
また、厚生労働省以外にも、地方自治体や外郭団体なども「助成金」を交付しています。こちらは採択審査があっても「助成金」を呼称していることもあり、「助成金」と「補助金」の使い分けはあまり明確にはされていないようです。
補助金を申請するメリット
続いて補助金、助成金を申請するメリットです。
返済不要の資金調達
やはり一番は「もらえる」ということに尽きます。もちろんそのためには煩雑な申請書類や実績報告書の作成などがありますが、数百万円単位のお金をもらえるのであれば、手間を上回るメリットがあると言えるでしょう。
外部から信用が得られる
補助金の場合は、事業計画を中心とする申請書類が審査されます。もし採択されたのなら、公的機関がお金を出してもよいと認めた事業計画といえます。創業時はとかく信用力が不足しますが、補助金を獲得することで公的機関のお墨付きを得られたとアピールすることができます。
また助成金を獲得しようとしたら、就業規則の整備や賃金台帳などさまざまな規定整備が必要になります。逆に言えば、助成金を獲得できた企業は、雇用環境をきちんと整えているという証にもなります。
創業時に活用できる補助金・助成金
補助金では、通常設立からの年数は条件にしていません。したがって、設立さえしていれば、形式上はどの補助金でも応募できます。
ただ、実際はこれまでの実績が問われるため、創業時での採択はハードルが高い補助金がほとんどです。そんな中で、比較的創業時にチャレンジしやすい補助金・助成金を紹介していきましょう。
小規模事業者持続化補助金
小規模事業者持続化補助金は、その名の通り小規模零細事業者を対象としており、創業間もない時期でも比較的採択されやすい補助金です。ただし、創業時での申請は開業届の提出が必要なので、創業予定では申請できません。
概要は次のようになっています。
対象者
従業員数20名以下の小規模な事業者が対象で、個人事業主でも構いません。また医師や社会福祉法人等は対象になりません。
業種 | 常時使用する従業員数 |
商業・サービス業(宿泊業・娯楽業除く) | 5名以下 |
宿泊業・娯楽業 | 20名以下 |
製造業その他 | 20名以下 |
なお、従業員数は常勤の社員を指すので、役員や勤務時間の短いパートやアルバイトの人数は含みません。
対象となる取り組み
補助金の対象となる事業は、「地道な販路開拓等の取り組み」および、販路開拓の取り組みと併せて進める「業務効率化(生産性向上)の取り組み」が対象です。例えば、お店を開いたときの販促チラシの印刷費や広告費、ネット販売システムの構築費等が対象になります。
ただし、あくまで「販路開拓」の取り組みなので、単なる企業ホームページの作成では対象となりません。
補助金額
「一般型」とコロナ対策の「低感染リスク型ビジネス枠」2枠があります。補助金上限額は、一般型が50万円(補助率3分の2)、低感染リスク型ビジネス枠が100万円(補助率3/4)です。
低感染リスク型ビジネス枠は、ポストコロナに対応した対人接触を減らすビジネスモデルへの転換に役立つ事業を対象とします。オンライン販売などECサイト等の活用を考えている場合は、「低感染リスク型ビジネス枠」での申請を検討してみましょう。
一般型 | 低感染リスク型ビジネス枠 | ||
上限額 | 補助率 | 上限額 | 補助率 |
50万円 | 2/3 | 100万円 | 3/4 |
申請方法
(1) 経営計画書等申請書類の作成
経営計画書や補助事業計画書等の申請書類を作成します。作成する分量は、
- 一般型:A4サイズ8枚以内
- 低感染リスク型ビジネス枠:5枚以内
にまとめます。
(2) 事業支援計画書等の作成を依頼
一般型は、事業所管轄の商工会議所または商工会へ経営計画等を持参し、助言および及び申請要件を満たしているかの確認を受け、「事業支援計画書」に印鑑をもらいます。商工会議所等の会員でなくても構いません。
低感染リスク型ビジネス枠は商工会議所または商工会の確認は不要です。とはいえ商工会議所等に行ったら必要書類が揃っているかの確認をしてくれますし、申請書に対する助言をもらえることもあります。スケジュールさえ許せば、商工会議所等に出向かれることをお勧めします。
(3) 申請書類の提出
補助金申請システムのJグランツにて電子申請。一般型は郵送でも提出可能ですが、電子申請であれば審査で加点されるので、できれば電子申請をしましょう。「低感染リスク型ビジネス枠」は電子申請のみです。
なお、Jグランツを利用するには「GビズIDプライムアカウント」が必要です。アカウントの取得は3週間以上かかります。まだお持ちでなければ、まずはアカウントを取得しましょう。
GビズIDプライムアカウント詳細はこちらを参照してください。その他小規模事業者持続化補助金については、日本商工会議所ホームページを参照してください。
小規模事業者持続化補助金については、こちらで詳しく解説しています:
自治体による補助金・助成金
各自治体では創業に対するさまざまな支援策を用意しています。ここでは東京と大阪の2つの事例をご紹介します。
創業助成金(東京)
東京都内で創業した事業者への助成金です。インキュベーション施設への入居など、申請に先立って東京都等の創業支援策を利用していることが条件になります。
項目 | 内容 |
助成対象者 | 都内での創業を具体的に計画している個人又は創業後5年未満の中小企業者等のうち、下記のいずれかの要件を満たすこと
|
助成対象経費 | 賃借料、広告費、器具備品購入費、産業財産権出願・導入費、専門家指導費、従業員人件費 |
助成限度額 | 300万円(下限100万円) |
助成率 | 3分の2以内 |
第1回公募は2021年4月に実施され、第2回公募は2021年10月の予定です。その他詳細は公益財団法人東京都中小企業振興公社のサイトを参照してください。
大阪起業家グローイングアップ補助金(大阪)
大阪での創業を対象としたビジネスプランコンテスト優秀賞受賞者への補助金です。したがって、補助金の申請というよりはビジネスプランコンテストへの応募が第一になります。
決してハードルは低くありませんが、優勝すれば補助金だけでなく専門家の伴走支援も得られます。大阪で創業を考えておられる方は、ぜひチャレンジしてみてください。
項目 | 内容 |
対象者 |
|
対象経費 | 創業に関わる経費(登記費用、備品購入費、事務所賃借料、機械装置・工具備品調達費など) |
限度額 | 100万円 |
補助率 | 2分の1以内 |
詳細については大阪府ホームページを参照してください。
他にも、各自治体で創業の支援が行われています。補助金だけでなく専門家の無料相談や創業セミナーなど内容もさまざまですので、ぜひ創業予定の自治体でどんな支援策があるのか調べてください。下記サイトでも各地の補助金を検索することができます。
- J-Net21(独立行政法人中小企業基盤整備機構)
キャリアアップ助成金
キャリアアップ助成金は、厚生労働省の助成金です。
助成金は、社員教育の充実やインターバル制度の導入など、ある程度企業としての仕組みが整った後、さらに雇用環境をどのように整備していくかといった観点のものが中心です。したがって、創業段階では申請しにくいものがほとんどですが、そんな中でも比較的申請しやすいものにキャリアアップ助成金正社員化コースがあります。
「キャリアアップ助成金」は、非正規雇用労働者の企業内でのキャリアアップを促進するため、正社員化などの取り組みを実施した事業主に対して助成金を支給する制度です。創業時は余裕がなくアルバイトで来てもらっていたスタッフを、事業が軌道に乗ってきたら正社員に転換するといったような場合に申請することができます。
要件 | 正規雇用等へ転換等した際、転換等前の6ヶ月と転換等後の
6ヶ月の賃金を比較して3%以上増額していること |
|
助成金額 | 有期雇用→正規雇用 | 57万円(1人当たり) |
有期雇用 → 無期雇用
または 無期雇用 → 正規雇用 |
28万5,000円(1人当たり) |
上記金額に加えて、派遣社員を直接雇用の正規雇用に転換した場合などは加算されます。
その他キャリアアップ助成金詳細については、厚生労働省ホームページをご参照ください。
キャリアアップ助成金については、こちらで詳しく解説しています:
ものづくり補助金
ものづくり補助金は、中小企業の設備投資を対象とする補助金です。革新的なものづくりがテーマで、これまで蓄積してきた技術や実績等が問われます。したがって、創業時にはハードルはやや高い補助金です。
一方で、創業5年目までの事業者は審査で加点される特典があります。前職等で十分な実績がある場合などはチャレンジしてみても良いでしょう。
対象となる取り組みや補助金額上限等は次のようになっています。
型 | 補助上限額 | 補助率 | 対象 |
一般型 | 100万円~1,000万円 | 中小企業者:1/2
小規模事業者:2/3 |
「革新的な製品・サービス開発」または「生産プロセス・サービス提供方法の改善」に必要な設備・システム投資など |
低感染リスク型ビジネス枠 | 2/3 | 物理的な対人接触を減らすことに役立つ革新的な製品・サービスの開発など |
その他、ものづくり補助金詳細については、ものづくり補助金ポータルサイトを参照してください。
ものづくり補助金については、こちらで詳しく解説しています:
申請する際の注意点
最後に、補助金・助成金を申請する際の注意点をお伝えしておきましょう。
注意点
- 採択審査がある
- 補助金・助成金は原則後払い
- 申請には手間がかかる
採択審査がある
補助金には採択審査があり、申請したからといって必ずもらえるものではありません。しかも、採択率は3~5割程度と決して高くありません。
補助金だけを当てにするのではなく、融資などその他の資金調達も確保しておきましょう。
補助金・助成金は原則後払い
補助金も助成金も、原則として後払いです。補助金の場合は補助事業が完了してから支払われるため、1年近く先になることもあります。
後から補填されるとはいえ、当面は立替払いが必要となるため、資金繰りにはくれぐれも留意しましょう。
申請には手間がかかる
申請にはとかく手間がかかります。事業計画書を中心とする申請書作成に始まり、採択後も実績報告書の作成など煩雑な書類作成があります。
多忙な創業期に書類作成の時間を捻出することは難しいかもしれませんが、それでも補助金獲得のためには仕方ないと覚悟しておいた方が良いでしょう。
まとめ
創業時にもらえる補助金と助成金について紹介しました。
繰り返しになりますが、補助金も助成金も申請には手間がかかります。現実的にはさまざまな業務に追われる創業期の経営者が手がけるのは、少し難しいかもしれません。そんなときは、専門家の力を借りて申請するのも一つの手です。
ただし、厚生労働省の助成金の申請代行ができるのは社会保険労務士だけです。ネット等で無資格のコンサルタントが助成金の申請代行を謳っていることもあるので、資格の有無には注意しましょう。
一方、補助金の申請支援は特定の資格を必要としていません。そのため、補助金の申請支援は経営コンサルタントを始め、中小企業診断士や行政書士などさまざまな士業の有資格者も手がけています。補助金の申請サポートは資格の有無に加え、これまでの支援実績などに着目して依頼すると良いでしょう。
当補助金バンクでも、実績豊富な中小企業診断士や社会保険労務士など、補助金や助成金の専門家が多数登録されています。創業に関する補助金や助成金の申請をお考えの方は、まずはお気軽に当社補助金バンクへお問い合わせください。