「補助金」と「助成金」は、どちらも事業者を支援するためのお金なので、ほとんど同じものと扱われることが多いです。実際、地方自治体の補助金や助成金だと用語が混同して使われており、違いが意味をなさないケースもあります。
しかし、実は補助金と助成金にはしっかりとした違いがあるのです。違いについて知っておくと、補助金や助成金の申請や代行の依頼がスムーズになるはずです。
この記事では、補助金と助成金の違いや、それぞれのメリット・デメリットを解説していきます。この記事を読めば違いがわかるので、ご自身の事業内容に合わせて柔軟に補助金と助成金を選ぶことができるようになるでしょう。
補助金とは
補助金は、国や地方自治体の政策にマッチする中小企業や小規模事業者のチャレンジを応援するために設けられた支援金です。補助金の管轄は、経済産業省や地方自治体です。
募集期限内に申し込みをして採択されたらもらえるお金で、返済義務はありません。
助成金とは
助成金は、雇用の増加や人材育成など、従業員の労働環境の向上のための支援金です。助成金の管轄は、ほとんどが厚生労働省です。数は少ないですが、地方自治体の助成金も存在します。
助成金は一定の要件を満たせばもらえるお金で、返済義務はありません。返済しなくて良い点は、補助金と同じです。
補助金と助成金の違い
補助金も助成金も返済義務がない共通点があることは、おわかりいただけたと思います。どちらも似たような支援金なので、ますます違いがわからなくなってしまったかもしれません。
そこで、補助金と助成金の違いを5つの項目に分けて解説していきます。各ポイントを比較することで、両者の違いが浮き上がってくるでしょう。
項目 | 補助金 | 助成金 |
制度の目的 | 中小企業の支援 | 労働環境改善 |
取り扱う行政機関 | 経済産業省
(一部地方自治体) |
厚生労働省 |
財源 | 法人税 | 雇用保険料 |
募集期間 | 年に数回 | 随時 |
審査の結果 | 不採択の可能性あり | 要件を満たせば受給できる |
制度の目的
定義の説明で触れたように、補助金と助成金は目的が少々異なります。
補助金は、国や地方自治体が政策を推し進める中小企業の取り組みを支援するための制度です。政策にマッチした事業にお金を出して支援することで、政策を推し進めることができるからです。
例えば、「IT導入補助金」は中小企業がテレワークのためのツールなどを導入するときに使える補助金です。2020年は新型コロナウイルス感染拡大に歯止めをかけるため、政府や自治体もテレワーク導入を後押ししており、IT導入補助金は前倒しで公募が行われました。このように、国や自治体が政策を進めるために使われるのが補助金です。
一方の助成金は、雇用環境や労働環境、労務問題などを改善させることを目的とした支援金です。経営難で従業員の労働環境にお金をかけることができない中小企業も多いですが、助成金をもらえれば労働環境の改善も進めやすくなります。
「人材確保等支援助成金」は労働環境を改善するための助成金の一例です。この助成金の「雇用管理制度助成コース」では、研修制度や健康づくり制度、メンター制度などの導入による離職率を下げる取組で離職率を低下させた場合に助成を受けることができます。
以上のように、補助金と助成金は目的にも違いがあります。
- 補助金:政策を推進するため
- 助成金:労働環境改善のため
と覚えておきましょう。
取り扱う行政機関
定義で触れたように、補助金と助成金は管轄の行政機関も異なります。
補助金は経済産業省や地方自治体の管轄のものが多いです。助成金は労働環境を改善することが目的のため厚生労働省の管轄です。その他地方自治体が独自で定めているものもあります。
財源
補助金と助成金は、そのお金がどこから来ているのか、すなわち財源にも違いがあります。
補助金の財源は「税金」です。大企業に比べて資金が潤沢にないことが多い中小企業がさまざまな「チャレンジ」をしやすいように支援するという中小企業の支援が大きな目的です。
その一方で助成金の財源は、会社が支払う雇用保険の保険料です。したがって、助成金を利用できるのは基本的に雇用保険の適用事業者のみです。
つまり、雇用している従業員がいない会社は対象外です。雇用保険未加入の場合は助成金の支給を受けられませんが、加入手続きを行って過去2年間の保険料を遡って支払えば、助成金の申請ができるケースもあります。
なお、2020年は新型コロナウイルスの影響で中小企業などが深刻なダメージを受けたため、雇用保険未加入でももらえる「緊急雇用安定助成金」が設けられました。緊急の場合にはこのような例外の助成金も登場するのですが、一般的には雇用保険の適用事業者のみが助成金を受けられます。
募集期間
補助金と助成金は、募集期間も異なります。
一般的に、助成金の募集は随時行われています。そのためいつでも申請できるのですが、予算に限りがあるため注意が必要です。自分が応募したときには予算を使い切っており、もらえなかった……となってしまうかもしれません。いつ予算が尽きるかは分からないため、申請したい助成金がある場合はできるだけ早く申請しましょう。
一方、補助金は募集期間が助成金より厳し目です。公募の回数や期間は補助金によって異なりますが、短い期間の補助金の場合、短期間で書類を作って申請しなければならないので、経営者の方にとっては負担が重いかもしれません。
審査・採択率
補助金も助成金も、申し込みをしてから審査を経て、採択(交付)されればもらえるお金です。審査や採択される可能性の高さ(採択率)についても比較してみましょう。
助成金は、給付の条件を満たしていればもらえる制度です。予算がある限り、条件を満たす応募者なら必ず助成金をもらうことができます。したがって、条件を満たす応募者の採択率は100%と言えます。
補助金は、助成金よりは採択率が低くなってしまいます。補助金はあらかじめ採択する件数や金額の上限が決まっていることが多く、厳しく審査されるからです。申請した事業主が要件を満たしている場合でも、件数や金額の上限を超える申し込みがあったら、あふれて不採択になってしまうことがあるのです。
以上のように、条件を満たしていればほぼ確実にもらえるのが助成金で、条件を満たした上でさらに競争があるのが補助金です。基本的には、助成金の方が受給しやすいことになります。
助成金のメリット
ここまでお伝えしてきたように、補助金と助成金は同じようなものと感じられるものの、実は明確な違いがあるのです。目的や採択率などに違いがあるのだから、補助金と助成金のメリットとデメリットも当然異なります。
そこで、ここでは補助金と助成金のメリットとデメリットを整理していきます。メリットとデメリットがわかれば、自分の会社にマッチした補助金や助成金が選べるようになります。
まず、助成金のメリットを3つ解説していきます。
- 受給しやすい
- いつでも申請できる
- 労働環境が整備される
受給しやすい
助成金の圧倒的なメリットとして、審査に落ちにくい、つまり受給しやすいことが挙げられます。競争がある補助金と異なり、業種や社員数などの条件を満たしている事業者が、各助成金が求める制度を導入するといったことで助成金を受け取ることができるからです。
したがって、補助金と助成金のどちらを使おうか迷っているなら、助成金の方がもらえる確実性が高いと言えます。金額や他の条件にもよりますが、わざわざ落ちる可能性のある補助金に応募するより、もらえる可能性が高い助成金を確実に押さえた方が良いという考え方もできます。
いつでも申請できる
助成金の多くは、いつでも申請できるメリットがあります。補助金よりも応募期間が厳しくないため、助成金の制度に気づくのが遅れた人にもチャンスがあります。
ただし、助成金の応募が殺到し国や地方自治体の予算を使い切ってしまうと、その後に応募しても助成金を受け取れない可能性があります。また、助成金は毎年度ごとに変わることも多く、年度内に支給するために11月ごろには受付終了するものもあります。早く応募するに越したことはないため、使えそうな助成金がある方は、迅速に書類づくりに取り掛かりましょう。
労働環境が整備される
助成金を受給することによって、企業は国や自治体の補助を受けながら労働環境の整備や向上に取り組むことができます。
中小企業や小規模事業者の場合、本業を優先するあまり従業員の労働環境の整備が追い付いていない、ということも多いでしょう。また、研修や賃上げなどに割ける予算が無くて困っている企業も多いと思います。
助成金を受給できれば、労働環境の整備の経費の一部を助成金でまかなうことができるので、そのような悩みは軽くなります。
助成金のデメリット
助成金のメリットをお伝えしたので、次はデメリットについて解説していきます。メリットとデメリットを天秤にかけ、メリットの方が大きいと判断した方は、助成金の申請に挑戦してみましょう。
助成金のデメリットとして、以下の3つを解説していきます。
- 導入した制度を簡単には廃止できない
- 受給までに時間がかかる場合がある
- 長期的には出費の方が増えるケースもある
導入した制度を簡単には廃止できない
助成金の種類によっては、新しい制度を導入したことを理由に助成金を受け取れるものがあります。しかし、「助成金を受け取るために制度を作っただけなので、助成金を受け取った後すぐに制度を廃止する」といったことは簡単にはできません。
労働環境を良くするために導入された制度の廃止は、労働者にとって不利益となる場合が多いからです。不利益の程度にもよりますが、基本的には一度作った制度を簡単に廃止することは「助成金目当て」の導入とみなされてしまうため、できないと考えておきましょう。
また、制度を導入するために「就業規則」が必要となることも多く、その場合はまず就業規則を作らないとすぐには申請できないということになります。就業規則の作成をプロに依頼すると当然費用がかかるため、初めて助成金を使う時は、思っていたよりもらえないということがよくあります。
そもそも、助成金は労働環境を向上させるためのもので、経営者の懐を温めるためのものではありませんし、もちろん本業の赤字を補うためのものでもありません。「経営が苦しいから、とりあえず助成金でしのごう」といった考えは持たないようにしましょう。「労働者の環境整備を行うための負担の補助」と捉えるべきかもしれません。
受給までに時間がかかる場合がある
近年、助成金の申請から受給までに時間がかかる場合があり、すぐには受け取れない可能性がある点がデメリットとして挙げられます。助成金によっては支給申請から支給まで1年ほどかかることもあります。
審査に時間がかかる理由は、一つ前の項目で解説したように、助成金の不正受給が相次いでいるからです。申請の段階で不正な申請を却下するため、審査項目や審査に必要な書類が増えたことで時間がかかっているのです。
いつまでに助成金が欲しいと明確な目標がある方は、審査に時間がかかる可能性を踏まえ、早めに申請を行った方が良いでしょう。
長期的には出費の方が増えるケースもある
助成金を受給するときに新たな制度を設けた場合、助成金を受給できたからといって、簡単に制度を廃止することはできません。制度を継続するため、長期的には出費が増えるというケースもあります。
例えば、賃上げやパート社員の健康診断の実施を新たに行うことでもらえる助成金の場合、「助成金が受給できたのでやめます」というのは、従業員の賛同も得られずできないでしょう。
新たな制度を導入して継続する場合に、賃上げ部分や健康診断の費用がかかることも理解しておく必要があります。しかし、賃上げや健康診断の実施によって労働環境が改善して、従業員の満足度や定着率が上がり、いきいきと働いてもらえる、といった金額に出てこない効果もあるはずです。目先の助成金の受給のために申請するのではなく、「従業員のためになることをしてお金がもらえる」と考えるべきでしょう。
補助金のメリット
次は、補助金のメリットとデメリットをお伝えしていきます。まずは以下の3つのメリットを解説していくので、助成金との違いを意識しながら読み進めてみてください。
- 種類が豊富
- 助成金より金額が大きい
- 適用範囲が広い
種類が豊富
補助金は、助成金に比べて種類が豊富というメリットがあります。助成金が労働環境の向上を目的としているのに対し、補助金は中小企業を支援する政策の推進という目的であり、その政策の種類の豊富さに応じて、補助金も種類が豊富になっています。
テレワークツールの導入などに使える「IT導入補助金」や、生産プロセス改善のために使える「ものづくり補助金」など、事業の効率化に使える補助金も多いです。これから会社を起ち上げる方や、創業してまだまもなく人数が少ない企業は、ウェブサイトの作成といった販売促進に使える「小規模事業者持続化補助金」なども良いかもしれません。
このように、助成金に比べて種類が豊富なのが補助金の特徴であり、メリットです。助成金が労働環境向上を目的としているのに対し、補助金は企業の本業を間接的に支援するような目的であることも嬉しいポイントです。
助成金より金額が大きい
補助金は、助成金よりも支給される金額が大きい傾向にあります。補助金によって金額は異なりますが、種類が豊富だからこそ、高額がもらえる補助金もあります。
例えば、「ものづくり補助金」では最大1,000万円の補助金を受給することができます。製造業やサービス業など幅広い業種の中小企業などが対象となります。また、2021年から設立が予定されている「事業再構築補助金」では、通常枠でも最大6,000万円の補助金を受給できる可能性があります。
このように、まとまった金額になる補助金も存在します。一般的には数百万円の規模ですが、複数の補助金を獲得できればかなりの金額になりますし、うまく活用できれば事業の大きな後押しになるでしょう。
ただし、補助金の多くは、かかった費用の1/2や2/3といった「支払った費用の一部」を補助してくれるものです。払ったよりも多くもらえるわけではありません。せっかく補助金を利用して設備などを買っても、それを事業に活用できなければ何も意味はないことに注意しましょう。
適用範囲が広い
補助金は適用できる範囲が広いことも大きなメリットです。「新規事業の支援」や「起業の促進」といった大きな政策を掲げ推し進めることが目的なので、目的に合致する企業は補助金の対象となります。
補助金が政策を進めるためのものという性質上、多くの企業に関心を持ってもらい、政策が目指す方向に誘導する必要があります。そのため、補助金は対象者の範囲が広く、応募しやすいメリットがあります。従業員がいない「社長1人」「役員のみ」といった会社でも申請できることが多いのも、補助金の特徴です。
補助金のデメリット
補助金のメリットを押さえたところで、次はデメリットについて解説していきます。以下の3つのデメリットを解説していくので、メリットと比較して補助金を利用するか考えていきましょう。
- 応募できる期間が短い
- 大企業の子会社などは対象外
- 審査に落ちるリスクもある
応募できる期間が短い
補助金は応募できる期間(公募期間)が助成金よりも短いデメリットがあります。支給要件の発表から応募の締め切りまで数週間から1~2ヶ月程度と短いため、その間に急いで書類を準備しなければならないというデメリットがあります。
補助金の種類によって公募期間は異なりますが、企業によっては繁忙期と公募期間が重なる可能性もあります。本業が忙しい時期に補助金の書類作成も抱え、共倒れするリスクを考えると、申請しないという選択肢を取るのも一案だと言えます。
繁忙期と公募期間が重なる場合、申請書の作成代行を依頼することも考えられます。代金との相談になりますが、専門家への依頼も考えてみましょう。
大企業の子会社などは対象外
補助金は、資金が潤沢でない中小企業のチャレンジを支援する目的のものが多いです。そのため、資本金や従業員数では中小企業扱いであっても、大企業が過半数の株式を持っているような場合は「みなし大企業」とされて対象ではなくなるものが多いです。
助成金の場合は、労働環境の整備や改善が目的のため、大企業の子会社であってもその企業が中小企業であれば対象となります。
その他、助成金では対象となる「一般社団法人」「NPO法人」「学校法人」「宗教法人」「医療法人」などが対象外となる補助金も多いため、しっかり各補助金の要件を確認する必要があります。
審査に落ちるリスクがある
先ほど触れたように、補助金は応募した後に審査が行われ、落ちてしまう可能性があります。助成金と違って、公募条件を満たしているからといって確実にもらえるものではない点がデメリットとなります。補助金の種類や募集時期によって、採択率は5%程度のものから80%を超えるものまでさまざまです。
一生懸命に応募書類を用意しても、審査に落ちて補助金がもらえず、書類作成の努力が水の泡になってしまうリスクがあるのです。場合によっては、「ここまでの手間をかけて、もらえるかどうかわからない補助金に応募するのは時間と労力がもったいない」と考える人もいると思います。
ちなみに、補助金の申請書や事業計画の作成を専門家が代行してくれるサービスもあります。時間を無駄にしないためにも有効ですし、初心者が申請するよりもプロの支援を受けた方が採択される可能性が高いのが実情ですので、サポートしてくれる専門家の活用も検討しましょう。
助成金よりも金額が大きいメリットはありますが、必ずもらえるとは限らないデメリットがあるのです。補助金も活用するかどうかは、経営者の方がメリットとデメリットのどちらを大きく感じるかによるでしょう。
まとめ
補助金と助成金の違いについて解説してきました。どちらも国や地方自治体からもらえる返済不要の資金ですが、細かい違いがあることをご理解いただけたと思います。
今回解説したように、助成金は条件を満たせばもらえる支援金である一方、就業規則が必要だったり、長期的に見ると出費の方が多くなったりするケースもあります。補助金は助成金よりも種類が豊富で金額も大きめなのですが、審査に落ちる可能性があって必ずもらえるお金ではありません。
補助金にも助成金にも、それぞれメリットとデメリットがあります。両者の違いを理解して、補助金と助成金をどのように活用していくのか考えていきましょう。
補助金も助成金も、書類を作るのに時間がかかってしまうことが大きなデメリットと言えます。専門知識のある助成金の申請代行サービスや補助金の申請サポートがあるので、活用していきましょう。
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