後継者不足などによって廃業を検討している事業者も、新商品や新サービスの開発や提供によって業績が回復する可能性があります。その際に莫大な費用がかかることが不安に感じられますが、事業継承補助金を使えば経費の一部を補助金でまかなうことができます。
この記事では、事業継承補助金の内容や対象事業者、補助額や補助率などを解説していきます。事業継承に悩んでいる経営者の方の助けとなる補助金ですので、この記事を読んでぜひ活用を検討していただければと思います。
※以下は2021年2月11日時点の情報です。
事業継承補助金とは
事業継承補助金は、事業再編、事業統合を含む事業継承を行った中小企業・小規模事業者等に対して、経営革新など新しい取り組みを行った場合、その経費の一部を補助する補助金です。
事業継承補助金には、経営者が交代した後に新しい取り組みを行った事業者を補助する後継者継承支援型(Ⅰ型)と、事業再編・事業統合の後に新しい取り組みを行った事業者を補助する事業再編・事業統合支援型(Ⅱ型)の2つがあります。それぞれ補助金の補助額・補助率も異なります。
補助対象の事業者
- 事業継承補助金の対象となるのは以下の7つの条件を満たし、かつ下表の規模の中小企業者等に当てはまることです。
- 日本国内に拠点もしくは居住地を置き、日本国内で事業を営む者である
- 地域経済に貢献している中小企業者等である
- 補助対象者又はその法人の役員が、暴力団等の反社会的勢力でない
- 法令順守上の問題を抱えている中小企業者等でない
- 経済産業省から補助金指定停止措置または指名停止措置が講じられていない中小企業者等である
- 補助対象事業に係る全ての情報について、事務局から国に報告された後、統計的な処理等をされて匿名性を確
- 保しつつ公表される場合があることについて同意する
- 事務局が求める補助事業に係る調査やアンケート等に協力できる
業務分類 | 資本金の額又は出資の総額 | 常勤従業員数 |
製造業その他(※1) | 3億円以下 | 300人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
小売業 | 5千万円以下 | 50人以下 |
サービス業(※2) | 5千万円以下 | 100人以下 |
(※1)ゴム製品製造業(一部を除く)は資本金3億円以下又は従業員900人以下
(※2)旅館業は資本金5千万円以下又は従業員200人以下、ソフトウエア業・情報処理サービス業は資本金3億円以下又は従業員300人以下
以上が事業継承補助金の対象となる中小企業等の条件です。反社と関わりが無く適切に経営できており、上表の規模の中小企業等であれば、補助対象者となるのは難しくないでしょう。
補助対象の事業の形態
事業を誰に継承するのか(個人事業主なのか法人なのか等)、どのような形態で継承するのかによって、補助金が使える場合と使えない場合があります。使える場合も、Ⅰ型とⅡ型のどちらが適しているかは継承の形態によって異なります。
自社で事業継承補助金を使えるか、使えるとしたらⅠ型とⅡ型のどちらが良いのかを判断するため、事務局のホームページのフローチャートを使って確認しましょう。
フローチャートでどの申請類型を使えば良いか判断すると同時に、申請時に必要な番号(1~11)が表示されます。番号を控えておき、電子申請を行う際に入力できるようにしておきましょう。
補助対象の経費
事業継承補助金の対象となる経費は、補助事業を実施するために必要となる経費で、事務局が必要かつ適切と認めたものです。例えば、事業継承後の新しい取り組みのために新たな設備を導入した場合の設備費、既存の事業を廃止する際に在庫の処分が必要になった場合の在庫処分費などが対象になり得ます。
また、補助事業に直接従事する従業員に対する賃金や法定福利費といった人件費も補助の対象です。
具体的な費目は以下のとおりです。
事業費
人件費、店舗等借入費、設備費、原材料費、知的財産権等関連経費、謝金、旅費、マーケティング調査費、広報費、会場借料費、外注費、委託費
廃業費
廃業登記費、在庫処分費、解体・処分費、原状回復費、移転・移設費用(II型のみ)
事業継承補助金の補助率引き上げ要件
事業継承補助金にはI型とII型がありますが、それぞれに「ベンチャー型事業継承枠」「生産性向上枠」があります。これらの枠に当てはまる申請の場合、補助率が2分の1から3分の2に引き上げられます。
なお、補助率は審査によって確定します。また、計画内容に対して補助率引き上げ要件が未達の場合、補助率が2分の1に引き下げられて補助金が交付される場合があります。
2つの補助率引き上げ要件について、詳しく解説していきましょう。
ベンチャー型事業継承枠
以下の3つの要件をすべて満たす場合、ベンチャー型事業継承枠が適用されて3分の2以内の補助率となります。
- 新商品の開発または生産、新役務の開発または提供、もしくは事業転換による新分野への進出を行う計画である
- 事務局が定める期間において従業員数を一定以上増加させる計画である
- 補助事業実施期間内において補助事業に直接従事する従業員を1名以上雇い入れた事実が確認できる(有期雇用は対象外)
以上のとおり、新商品や新サービスの提供、新分野への進出と、従業員数の増加がポイントとなります。これらを計画している継承者の方は、ベンチャー型事業継承枠が適用される可能性があります。
生産性向上枠
生産性向上枠は、以下の条件を満たすことで適用され、補助率が3分の2以内となります。
- 継承者が2017年4月1日以降から交付申請日までの間に本補助事業において申請を行う事業と同一の内容で、「先端設備等導入計画」または「経営革新計画」いずれかの認定を受けていること
事業継承補助金の申請を行う前に、「先端設備等導入計画」または「経営革新計画」が認定されていれば、補助率が引き上げられる可能性があります。計画の策定や書類作成などで不安がある方は、中小企業診断士などの専門家に相談しましょう。
後継者継承支援型(I型)
ここからは、I型とII型について対象となる補助事業と補助額・補助率、採択率について解説していきます。まずはⅠ型についてです。
後継者継承支援型(I型)は経営者交代タイプの事業継承が対象となります。具体的には、事業再生を伴うものを含めて事業継承を行う個人および中小企業等で、以下の3つの要件をすべて満たす場合が対象です。
- 経営者の交代を契機として、経営革新等に取り組む、または事業転換に挑戦する者である
- 特定創業支援等事業を受ける者など一定の実績や知識などを有している者である
- 地域の雇用をはじめ、地域経済全般を牽引する事業を行う者である
なお、継承者が法人の場合、事業譲渡や株式譲渡等による継承は対象となりません。同一法人で代表が交代する形のみ、I型の対象となります。
また、申請時には継承者が申請資格を有していることを示すため、以下の添付資料が必要となります。
- 経営経験を有している者(役員・経営者3年以上の要件を満たす者)
- 該当する会社の履歴事項全部証明書または閉鎖事項全部証明書(交付申請日以前3ヶ月以内に発行されたもの)
- 同業種での実務経験などを有している者
- 経歴書、在籍証明書等
- 創業・継承に資する下記の研修等を受講した者
- 産業競争力強化法に規定される認定特定創業支援等事業を受けた証明書
- 地域創業促進支援事業(平成29年度以降は潜在的創業者掘り起こし事業)を受けた証明書
- 中小企業大学校の実施する経営者・後継者向けの研修等を履修した証明書
詳しくは公募要領で確認しましょう。
補助額・補助率
後継者継承支援型(I型)の補助率と補助上限額は下表のとおりです。
後継者継承支援型(I型) | 補助率 | 補助上限額 | 上乗せ額 |
原則枠 | 2分の1以内 | 225万円 | +225万円以内 |
ベンチャー型事業継承枠 生産性向上枠 |
3分の2以内 | 300万円 | +300万円以内 |
廃業を伴う経費が存在する場合、補助上限が上乗せされます。
採択率
2020年度の後継者継承支援型(I型)の採択率は77.7%でした。応募が455件、採択されたのが350件です。
8割近くが採択されていますが、予算が決まっている補助金のため、応募が多ければ倍率が高くなることが予想されます。競争のある補助金なので、中小企業診断士など専門家にアドバイスをもらいながら申請を進めていきましょう。
事業再編・事業統合支援型(II型)
事業再編・事業統合支援型(II型)はM&Aタイプの事業継承が対象となります。具体的にすると、事業再編や事業統合等を行う中小企業等であり、以下の全ての要件を満たす場合が対象です。
- 事業再編・事業統合等を契機として、経営革新等に取り組む、または事業転換に挑戦する者である
- 一定の実績や知識などを有している者である
- 地域の雇用をはじめ、地域経済全般を牽引する事業を行う者である
なお、後継者不足のため事業再編や事業統合などを行わなければ、事業継続が困難になると見込まれる事業者に限ります。後継者不足以外を理由とする場合、事業継承補助金の対象にはなりません。
補助額・補助率
事業再編・事業統合支援型(II型)の補助率と補助上限額は下表のとおりです。
事業再編・事業統合支援型(II型) | 補助率 | 補助上限額 | 上乗せ額 |
原則枠 | 2分の1以内 | 450万円 | +450万円以内 |
ベンチャー型事業継承枠 生産性向上枠 |
3分の2以内 | 600万円 | +600万円以内 |
廃業を伴う経費が存在する場合、補助上限が上乗せされます。
採択率
2020年度の事業再編・事業統合支援型(II型)の採択率は60.8%でした。応募が194件、採択されたのが118件です。約4割が不採択になってしまっています。
予算が決まっている補助金のため、応募が多ければ倍率が高くなることが予想されます。採択される可能性を高めるためにも、中小企業診断士など専門家にアドバイスをもらいながら申請を進めていきましょう。
事業継承補助金の採択事例
後継者不足などにより廃業を検討していた会社でも、事業継承時の経営革新によって事業を拡大できるようになる場合があります。事業継承補助金の採択事例には、そのような復活を果たした企業の事例が数多く掲載されています。廃業や後継者不足といった課題を抱えている方にとって、大きなヒントになるはずです。
ここでは2つの採択事例をご紹介していきます。他の事例を知りたい方は、事業継承補助金事例集をご覧ください。
金沢建具工房株式会社
創業60年を迎えた金沢建具工房株式会社は下請工事の受注が売上の大部分を占めており、利益率が低い状態となっている課題がありました。
そこで、事業継承と同時に個人客からの直接受注などを増やして利益率を高めることで経営革新を行う事業計画を立てました。具体的には、新商品の開発やショールームの新設によって個人客からの受注を増やす取組を行いました。
事業継承補助金は後継者継承支援型(I型)で申請し、ショールームの新設などに伴う設備費の補助を得ています。認定機関からは申請書の作成や事業計画の実施、実施報告書の作成においてアドバイスを受けました。
この事例のように、事業継承するだけでなく経営革新を行う企業が事業継承補助金の対象となります。
株式会社上尾タクシー
株式会社上尾タクシーは、タクシー会社2社が合併して生まれた会社です。被継承者が後継者不足やドライバー不足による稼働率の低下のため廃業を検討していたところ、以前から交流があった継承者がその状況を聞いて吸収合併する形で事業拡大を目指すことになりました。合併によって車両の数を増やすことができるため、事業拡大につながるとの判断です。
事業継承をきっかけに、無線配車システムの共有や料金メーターのデジタル化を導入して両社のシステムの統一を行いました。これに伴う経費が事業再編・事業統合支援型(II型)の補助の対象となっています。
この事例のように、廃業を検討していた会社が合併により事業を拡大できるケースもあります。事業再編や事業統合を視野に入れ、事業継承の道が無いか検討していきましょう。
事業継承補助金の申請・支給の流れ
最後に、事業継承補助金の申請から支給までの流れを解説していきます。認定支援機関に相談しながら事業計画を練り、申請をしていきましょう。
- I型・II型を選択する
- 認定経営革新等支援機関へ相談する
- gBizIDプライムを取得する
- 交付を申請する
- 審査・交付決定の通知を受ける
- 補助事業を実施する
- 実施報告する
- 補助金交付手続きを行う
- 事業化状況を報告する
I型・II型を選択する
まず事業継承補助金についての理解を深めた上で、Ⅰ型・Ⅱ型を選択しましょう。
公募要領や交付規程は、事業継承補助金の申請・手続き方法から閲覧できます。
継承者・被継承者、事業継承の形態によって、Ⅰ型とⅡ型のどちらで申請するべきかが異なります。再掲になりますが、フローチャートを使って、自社がどちらの類型に当てはまるかを確認し、番号を控えておきましょう。
認定経営革新等支援機関へ相談する
認定経営革新等支援機関に相談し、事業計画の内容について考えていきましょう。中小企業庁の認定経営革新等支援機関はこちらのから確認することができます。
なお、申請時には「認定経営革新等支援機関による確認書」を取得する必要があります。確認書は事務局が指定した様式で、認定経営革新等支援機関の印鑑が必要です。
gBizIDプライムを取得する
事業継承補助金を申請するために必要な「gBizIDプライム」を取得しましょう。「GビズID」には3種類のアカウントがありますが、本補助金に必要なのは「gBizIDプライム」です。
まだ取得していない方は、gBizIDの「gBizIDプライム作成」をクリックし、申請書の作成とダウンロードを行います。
作成した書類は印鑑証明とともに「GビズID運用センター」に送付します。審査の後、承認されるとメールで通知されるので、URLをクリックしてパスワードを設定すれば「gBizIDプライム」の手続きは完了です。「gBizIDプライム」の申請・発行には2~3週間かかるので、早めに申請を行いましょう。
交付を申請する
必要な書類を揃え、オンラインで交付の申請を行います。法人か個人事業主かなどによって必要な書類が異なるので、公募要領の自社が該当する項目をよく確認して書類を準備しましょう。
なお、補助率が3分の2以内に引き上げられる「生産性向上枠」を申請する場合、「先端設備等導入計画の認定書の写し」または「経営革新計画の認定書の写し」を添付する必要があります。
また、加点事由に経営力向上計画の認定又は経営革新計画の承認や域経済への貢献などが挙げられます。加点事由を満たすことを証明する書類の添付が必要になりますので、必ず公募要領で「加点事由について」と必要な添付書類についても確認しましょう。
審査・交付決定の通知を受ける
交付申請が完了したら、事業継承補助金の事務局で審査が行われます。審査に通り交付が決定すると、事業者に交付決定の通知が届きます。
補助事業を実施する
交付決定通知を受け取ったら、速やかに補助事業を開始します。
なお、必ず交付決定の通知を受け取った後に補助事業を開始してください。交付が決定する前に契約や導入が行われて発生した経費については、補助対象になりません。
実績報告する
補助事業が完了したら、事業完了日から30日以内に実績報告を行います。速やかに実績報告書を提出しましょう。
事業継承補助金の事務局が報告書の検査を行って補助額を確定し、事業者に通知します。
補助金交付手続きを行う
補助額の通知を受け取ったら、事業者から事務局に補助金の請求を行い、補助金が交付されます。
補助金の交付には、実績報告書の提出から2~3ヶ月程度の期間を要します。補助金交付前につなぎ融資が必要な場合、早めに金融機関に相談しましょう。
事業化状況を報告する
補助事業が完了した後、5年間は当該事業についての事業化状況を事業継承補助金の事務局に報告する必要があります。認定機関のサポートを受けながら、適切に報告を行って行きましょう。
まとめ
事業継承補助金の概要は補助率などについて解説してきました。
後継者不足による廃業などの悩みを抱えている事業者の方も、経営革新によって業績が回復する可能性があるので、諦めないでいただければと思います。事業継承補助金で一部の経費をまかなうことができるので、ぜひ活用していきましょう。
申請方法が難しくて分からない、どのような事業計画を立てれば良いのか分からない、といった方は、中小企業診断士などの専門家に相談するのがおすすめです。補助金バンクには補助金の専門家が多数登録しているので、身近な専門家を探してみましょう。