自然災害や感染症などはいつ発生するかわかりません。そういった不測の事態が発生したときに、企業が損害を最小限に抑え事業を継続するためには、平常時から行うべき行動や緊急時における事業継続の方法・手段等を取り決めておくことが効果的です。
緊急事態に対応できるように、事業継続計画BCP(Business Continuity Plan)を定め、策定したBCPを実践するために必要となる基本的な物品・設備等の導入した場合の助成金があります。それが、今回紹介するBCP実践促進助成金です。
BCP実践促進助成金の概要
BCP実践促進助成金では、中小企業者等がBCPを定め、その策定したBCPを実践するために必要となる基本的な物品・設備等の導入した場合の一部が助成されます。また、BCPを補完する観点から、防災力を強化するための基幹システムのクラウド化の費用の一部も助成されます。
BCP実践促進助成金も多くの助成金と同じように申請や審査がありますが、申請までに以下のBCPを策定しておかなければなりません。
- ①平成29年度以降に公益財団法人東京都中小企業振興公社総合支援課が実施する「BCP策定支援講座(ステージ1)」を受講し、受講内容を踏まえたBCP
- ②中小企業強靱化法に基づく「事業継続力強化計画」の認定を受け、その内容に基づいて作成したBCP
- ③平成28年度以前の東京都又は公社が実施したBCP策定支援事業等の活用により策定したBCP
BCP実践促進助成金の目的
BCP実践促進助成金は、中小企業者等が自然災害、感染症等の不測の事態が生じた場合に備え、事業継続のための危機管理対策を講じることが重要であることに鑑みて実施されています。
中小企業者等が行う事業継続のための取組みを支援することで、東京都内の中小企業の振興に資することを目的としています。つまり、BCPの取組みとして対策用品の備蓄等を企業に促進することがこの助成金の目的です。
BCP実践促進助成金の内容
BCP実践促進助成金では、中小企業者等が策定したBCPを実践するために必要となる基本的な物品・設備等の導入に要する経費の一部が助成されます。
また、災害等により基幹システムが損害を受ければ、業務遂行に著しい障害となります。そこで、BCPの補完として防災力を強化するための基幹システムのクラウド化の費用の一部も助成されることになっています。
- 中小企業者等:助成対象経費の1/2以内
- 小規模企業者:助成対象経費の2/3以内
- 助成上限額:1,500万円(下限額:10万円)(上限1,500万円はクラウド化の助成額含む。クラウド化の助成上限額は450万円)
BCP実践促進助成金の申請要件
BCP実践促進助成金の申請要件は、大きく4つに分けることができます。以下のすべて満たすことが必要です。
- 法人や個人に関する要件
- BCPの認定に関する要件
- 都内での事業継続に関する要件
- その他の要件
法人・個人に関する要件
まず、申請日時点で次の①~④のいずれかに該当していることが必要です。
- ①中小企業者
- ②中小企業団体
- ③個人事業主
- ④小規模企業者(小規模企業者区分で申請の場合)
BCPの認定に関する要件
この要件では、以下の①~③のいずれかのBCPを提出できることが求められます。
- ①平成29年度以降に公益財団法人東京都中小企業振興公社総合支援課が実施する「BCP 策定支援講座(ステージ1)」を受講し、受講内容を踏まえた BCP
- ②中小企業等経営強化法に基づく「事業継続力強化計画」の認定を受け、その内容に基づいて作成した BCP
- ③平成28年度以前の東京都または公社が実施したBCP策定支援事業等の活用により策定したBCP
都内での事業継続に関する要件
申請日の時点で、①と②の両方に該当していることを確認しましょう。
- ①法人の場合:東京都内に登記簿上の本店又は支店を有している。個人の場合:開業届を提出して東京都内で営業している者。
- ②東京都内で実質的に1年以上事業を行っている。※単に登記や建物があることだけではなく、客観的に都内に根付く形で事業活動が実質的に行われていることが必要です。申請書やホームページ、名刺、看板や表札、電話等連絡時の状況、事業実態や従業員の雇用状況から総合的に判断します。
その他の要件
その他の要件として、以下の①~⑬のすべてに該当していることが必要です。
- ①以前に、BCP 実践促進助成金の交付を受けていない。
- ②東京都に法人事業税・法人都民税等を納税していること。また、その他租税の未申告、滞納がないこと。
- ③東京都及び公社に対する賃料・使用料の債務の支払いが滞っていないこと。
- ④営業に関して必要な許認可を全て取得していること。
- ⑤過去に公社から助成金の交付を受けている者は、「状況報告書」等を所定の期日までに提出していること。
- ⑥過去に公社、国、都道府県、区市町村等から助成事業の交付決定の取消等、又は法令違反等の不正の事故を起していないこと。
- ⑦民事再生法、会社更生法、破産法に基づく申立手続中(再生計画等認可後は除く)、または私
- 的整理手続中など、事業の継続性について不確実な状況が存在していないこと。
- ⑧休眠会社として解散したものとみなされていないこと。
- ⑨助成金申請者、設備購入先等の関係者が「東京都暴力団排除条例」で規定されている暴力団
- 関係者でないこと。
- ⑩金融業・保険業(保険業の保険媒介代理業を除く)、農林水産業を営んでいないこと。
- ⑪遊興娯楽業のうち風俗関連業、ギャンブル業、賭博等、を営んでいないこと。
- ⑫東京都及び公社が公的資金の助成先として社会通念上適性を欠かないと判断されるものであ
- ること。
- ⑬中小企業支援の制度趣旨からみて助成が妥当なものと認められること。
BCP実践促進助成金の助成対象となる取り組み
続いて、BCP実践促進助成金の助成対象となる地域と事業、対象経費について解説しましょう。
助成対象地域
助成の対象となる地域は東京都、茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、神奈川県及び山梨県とされています。東京都内の事業所(本社含む)への設置が原則ですが、東京都内に本店を有する場合は茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、神奈川県及び山梨県の都外設置が可能です。
助成対象事業
助成対象事業は、地震や風水害、感染症拡大など、発生が予見できないリスクに対し、防災・減災といったリスク軽減、回避を目的とした基本的なもの(設備・器具物品)の購入や設置に係る下記①~⑨の事業が対象です。
- ①緊急時用の自家発電装置、蓄電池
- (太陽光パネル・蓄電池については、可搬式で非常時に設置して使用するもので、平常時の売電・節電に使用することができるものでないこと。太陽光発電システムおよびその構成機器は対象外です)
- ②従業員等の安否確認を行うためのシステムの導入又はサブスクリプション契約によるサービスの利用
- ③データのバックアップ専用のサーバ(NAS)、クラウドサービスによるデータのバックアップ
- ④地震対策としての制震・免震ラックへの買い替え、飛散防止フィルム、転倒防止装置の設置等
- ⑤緊急時用の従業員用非常食(水・食料等)、簡易トイレ、毛布、簡易浄水器等の備蓄品
- ⑥災害対策用物品設備(土嚢、止水板等)の購入(ハザードマップの提出が必要)
- ⑦感染症を想定したもの(マスク、消毒液、体温計等)※医療行為・検査薬・検査サービス等は助成対象外
- ⑧BCP の補完として実施する基幹システム(ERP、CRM、SFA 等の内、企業の業務遂行の基幹となるシステム)の防災力強化のためのクラウドサービスの導入(クラウド化)
- ⑨耐震診断
助成対象経費
下記について、必要最小限の費用が助成対象経費になります。また、助成対象は20品目が上限となります。
- 助成対象事業に合致する物品(備蓄品等)の購入に係るもの
- 助成対象事業に合致する設備の購入に係るもの
- 工事費等
このうち、工事費は上記設備の設置に直接必要な経費(材料・消耗品・雑材料費、直接仮設費、労務費、設備運搬費など)が対象になります。
ただし、労務費は東京都が定める「公共工事設計労務単価」の上限を超えた部分については対象外です。また、機器の設置経費が助成対象となる場合、助成対象額は機器本体の25%が上限となり、それを超える部分については対象外ですので注意が必要です。
次に「助成対象事業」②③にあったサブスクリプション契約・クラウドサービスについても注意点があります。これらは、初期費用および利用料を一括で支払う費用が対象で、利用料の範囲は最低契約期間分または12ヶ月分のいずれか低い額が上限です。契約時において「1年未満での中途解約ができない」「中途解約した場合でも返金しない」という旨の条項があることが必要です。
BCP実践促進助成金の助成事業の流れ
BCP実践促進助成金の助成事業の全体の流れは、次の①~⑥となっています。申請方法やスケジュールは細かく決められていますので、後ほど詳しく説明します。
- ①BCP策定支援講座(ステージ1)の受講、又は中小企業強靱化法に基づく「事業継続力強化計画」の認定を受ける
- ②BCP策定
- ③助成金申請:申請書を元に審査が行われ、交付決定されます。
- ④事業実施
- ⑤完了報告:完了検査が行われ、助成金が確定します。
- ⑥助成金請求:助成金が支払われます。
申請方法
BCP実践促進助成金の申請方法ですが、申請方法が対面受付となっており珍しいケースです。郵送での受付はしていませんので注意しましょう。
対面受付には事前予約が必要で、それまでに申請書類一式を準備の上、予約受付期間内に電話にて予約してください。予約受付時間も決められており、平日9:00~12:00、13:00~17:00です。
予約が完了したら対面での受付に進みますが(公財)東京都中小企業振興公社の本社が申請受付場所とされているので、秋葉原(東京都千代田区神田佐久間町1-9)まで出向く必要があります。
申請の手順
申請の予約に進むには講座の受講等が必要です。申請予約までの手順として、次の①~⑤もしっかりと把握しておきましょう。
- ①講座の受講等:申請の際の前提条件として、BCP策定支援講座(ステージ1)(出張版策定講座を含む)の受講、あるいは中小企業強靱化法に基づく「事業継続力強化計画」の認定を受けていることが必要です。ただし、平成28年度以前の東京都又は公社が実施したBCP策定支援事業等を利用した事業者は必要がありません。
- ②申請書等のダウンロード
- ③申請書の作成、添付書類の準備
- ④申請予約
- ⑤申請(申請書類の提出)
申請スケジュール
交付決定日や助成対象期間等は、申請時期によって下の表のとおりです。申請には予約が必要ですので、予約受付期間に申請の予約をしてください。予約時に申請書類が揃っているか確認されますので、それまでに書類一式の準備が求められます。
期 | 予約受付 | 申請受付期間(予定) | 交付決定日 | 助成対象期間 | 完了報告書提出期限 |
7月募集 | 令和3年7月5日(月) ~8日(木) | 令和3年7月12日(月) ~15日(木) | 令和3年9月1日(水) | 交付決定日 ~令和3年12月31日 (金) | 令和4年1月14日(金) |
9月募集 | 令和3年9月6日(月) ~9日(木 | 令和3年9月13日(月) ~16日(木) | 令和3年 11月1日(月) | 交付決定日 ~令和4年2月28日 (月) | 令和4年3月14日(月) |
11月募集 | 令和3年11月8日(月) ~11日(木) | 令和3年11月15日(月) ~18日(木) | 令和4年1月7日(金) | 交付決定日 ~令和4年4月30日 (土) | 令和4年5月13日(金) |
1月募集 | 令和4年1月11日(火) ~14日(金) | 令和4年1月18日(火) ~21日(金) | 令和4年3月1日(火) | 交付決定日 ~令和4年6月30日 (木) | 令和4年7月14日(木) |
申請書類
BCP実践促進助成金の申請では、次の①~⑯の申請書類が必要となります。
- ①申請前確認書
- ②助成金申請書
- ③履歴事項全部証明書
- ④積算根拠書類(見積書):同じ仕様による2社以上からの見積書(相見積)の提出が必要です。ただし1基10万円(税抜)未満の機器や物品の購入(工事費等は除く)は、1社のみの提出でも可能。
- ⑤助成対象の仕様がわかる書類
- ⑥保管・設置場所関連書類
- ⑦直近3期分の確定申告書(写し)
- ⑧納税証明書
- ⑨会社案内
- ⑩発注先の会社案内:クラウドサービスを申請する場合に必要。
- ⑪営業に必要な許認可証(写し)
- ⑫BCP(写し)
- ⑬BCPの認定要件の証明に係る書類:策定支援講座受講報告書や事業継続力強化計画の認定通知書及び計画申請書(写し)を提出。平成28年度以前のBCP策定支援事業を受講した場合は、提出は不要。
- ⑭工程表・設計図書類(写し):2日以上かかる設置作業または工事が発生する場合に必要。
- ⑮建物所有者の承諾書:自社所有でない建物(賃借契約)で工事を行う場合に必要。
- ⑯小規模事業者に該当することの確認書類及び関係書類:小規模企業者の区分で申請する場合に必要。
その他、物資、種類が多く、申請書の購入品明細の欄に書き切れない場合に導入設備・製品リストや、公社が指定する書類を求められることがあります。
BCP実践促進助成金の審査
BCP実践促進助成金の審査は、次の4点から総合的に判断されます。
- ①申請資格
- ②経営面
- ③BCPの内容の妥当性
- ④設備導入の必要性・妥当性
そして、策定されたBCPは経営者が自ら参画してであることが求められます。審査の方法や、審査の視点については後述しますが、具体的にBCPの策定をするのは難しいと感じることでしょう。
中小企業庁には「中小企業BCP策定運用指針」を用意されており、中小企業の特性や実状に基づいたBCPの策定及び継続的な運用の具体的方法が説明されています。感染症に関しては、「中小企業向け新型インフルエンザ対策に関する情報提供資料のご紹介について」「中小企業 BCP 策定運用指針を用いた新型インフルエンザ対策のための中小企業BCP策定指針」が用意されています。これらを参考にして、BCPを策定していきましょう。
審査の方法
BCP実践促進助成金の公募要領によれば、決算書等による会社の経営面の審査および総合審査を行うと明記されています。そして、提出書類に基づき外部委員らにより審査を行い、助成対象事業者を決定すること、必要に応じて公社職員が現地調査を行う場合があることが記載されています。
つまり、これらが審査の対象ということです。
- ①申請資格として、BCP実践促進助成金の資格要件に合致しているかどうか
- ②経営面として、財務内容、企業概要等から助成対象先として妥当性があるかどうか
審査の視点
先の①申請資格、②経営面に加えて、BCPの策定と深く関わる以下の審査項目も踏まえて総合的に判断されます。
- ③ BCPの内容の妥当性
- 想定リスクの分析が具体的かつ適切で、妥当性があるかどうか
- BCPの実行をする上で必要な項目が記載されているかどうか
- ④ 設備導入の必要性・妥当性
- 導入する設備、物品がBCPに明記してあり、かつ最低限必要なものであるかどうか
- 数量やスペック等が過剰でないかどうか
- 導入する設備、物品が公的資金を財源とする助成金の交付対象として適切かどうか
- 導入する設備、物品がBCPの実践に効果が認められるかどうか
- 設置場所がリスク低減を図る上で適切な場所であるかどうか
③BCPの内容の妥当性、④設備導入の必要性・妥当性は、BCPの策定と深く関わる部分です。ここでは,
以下の項目について記載しましょう。
- 基本方針
- 想定されるリスク
- 緊急時の対応 安否確認 避難場所 取引先等の連絡
- 役割分担 対策本部の設置と役割 設置の基準 地域との連携
- 事業継続計画 (優先すべき重要業務の特定と目標復旧時間の設定)
- 事業のリスク分析 復旧計画(業務復旧再開対応体制と再開プロセス)
- BCP 発動等の条件
- 発動条件 解除条件
- 訓練 (継続的改善プロセスの明確化と訓練計画策定)
- BCP の実践に必要な物資
- 必要な物資に関しては、個数・必要理由の記載
- 緊急対応のフローチャート
- 基幹システムのクラウド化を行う場合の記載事項
- 基幹となるシステムの名称・機能及び基幹システムをクラウド化する理由
まとめ
新型コロナウイルス感染症拡大は収束の目途が立っていませんが、それ以外に日本は自然災害も多い国です。BCPの策定や実践は、できるだけ早めに実行に移すべきでしょう。
BCP実践促進助成金は、BCPの実践にかかる費用の一部を助成してくれますので、活用を検討してみてはいかがでしょうか?
当社「補助金バンク」では、助成金申請の経験が豊富なプロが各種助成金の申請をサポートさせて頂いています。BCP実践促進助成金に興味をお持ちの方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。