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コロナ禍を経て、オンラインでの取り組みが日常化しました。経理や総務などバックオフィス業務からデジタルマーケティングまで、今やあらゆる業務はシステムと切り離せなくなっています。
さらに、2023年10月から始まるインボイス制度への対応もあり、中小企業の電子取引促進は国の重要な課題となっています。そのため、今まで以上にDXを促進する補助金が目白押しです。
今回は、中小企業が使えるシステム導入・開発の補助金を紹介します。
システム開発に使える補助金
中小企業がシステム導入・開発に使える補助金には次のようなものがあります。補助金によって金額はもちろん、目的も異なります。自社の導入目的に合った補助金を選ぶようにしましょう。
補助金名 | 目的 | 補助金 | 導入対象システム | 直近の採択率 |
IT導入補助金 | ITツール導入による生産性改善/企業間電子取引推進 | 30万円~450万円 | 登録されたITツールのみ(パッケージソフト) | 非公表 |
ものづくり補助金 デジタル枠 | DXに資する革新的な製品・サービス開発 | 100万円~1,250万円 | 目的に合致していれば特段指定なし。独自のシステム構築も可
|
6割程度(通常枠) |
小規模事業者持続化補助金 | 販路開拓 | 上限200万円 | 6割程度 | |
事業再構築補助金(通常枠) | ウィズコロナ・ポストコロナのための事業再構築 | 100万円~8,000万円 | 4割程度 |
これより、中小企業が使えるシステム導入の補助金を紹介していきます。
システム開発に使える補助金①:IT導入補助金
システム導入で使える補助金の代表的なものが、IT導入補助金です。任意に導入するシステムを決められるわけではなく、IT導入補助金対象として事前に登録されたパッケージソフトやクラウドサービス等のツールの中から選びます。
申請はITベンダー等のIT導入支援事業者と二人三脚で行うので、初めて補助金を申請する企業にとっても取り組みやすいでしょう。
対象者
中小企業、小規模事業者だけでなく、個人事業主や社会福祉法人、医療法人、学校法人なども申請できます。
<対象者>
業種 | 資本金 | 常勤従業員数 |
製造業、建設業、運輸業、ソフトウェア業又は情報処理サービス業 | 3億円以下 | 300人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
サービス業(ソフトウェア業、情報処理サービス業、旅館業を除く) | 5,000万円以下 | 100人以下 |
小売業 | 5,000万円以下 | 50人以下 |
旅館業 | 5,000万円以下 | 200人以下 |
その他の業種 | 3億円以下 | 300人以下 |
医療法人、社会福祉法人、学校法人 | 300人以下 |
対象となる取り組み
対象となるのは、業務効率化やDXのために導入するITツール等の費用で、導入するITツールはITベンダーなどのIT導入支援事業者が事前に登録したツールの中から選びます。ソフトウェアやクラウドサービス利用料だけでなく、導入に必要なコンサルティング費用や教育費用、保守費用等も対象になります。
また、2022年度にはインボイス対応を見据えた「デジタル化基盤導入枠」が創設されました。デジタル化基盤導入枠では、従来対象とならなかったPCなどハードの費用も一部対象になります。
応募枠および補助金額
応募枠は、従来からあった通常枠(A・B類型)に加えて、インボイス対応を見据え、企業間取引のデジタル化推進を目的とするデジタル化基盤導入類型が新設されました。デジタル化基盤導入類型では、補助率が高いだけでなくPC、タブレットなどのハード購入費も対象になります。また、クラウド利用料も最大2年分対象になるなど手厚くなっています。
A類型 | B類型 | デジタル化基盤導入類型 | ||
補助対象経費区分 | ソフトウェア購入費・クラウド利用料(最大1年分補助)・導入関連費等 | ソフトウェア購入費・クラウド利用料(最大2年分補助)・導入関連費等 | ||
補助率 | 1/2以内 | 3/4以内 | 2/3以内 | |
上限額・下限額 | 30万円~150万円未満 | 150万円~450万円以下 | 5万円~50万円以下 | 50万円超~350万円 |
<デジタル化基盤導入類型のみ>
ハードウェア購入費 | PC・タブレット・プリンター・スキャナー及びそれらの複合機器:補助率1/2以内、補助上限額10万円 |
レジ・券売機等:補助率1/2以内、補助上限額20万 |
応募要件
次のとおり、類型ごとに応募要件が設定されています。
通常枠(A・B類型)
通常枠では、システム化される「プロセス数」や賃上げ目標の有無で、A類型かB類型かが決まります。
プロセス数とは、次の業務プロセスのうちのいくつを担うソフトウェアであるかをみます。A類型であれば1~6のいずれか一つの業務プロセスに対応したソフトウェアであれば良く、B類型になれば、4つ以上のプロセスへの対応が必要になります。
業務プロセス | 汎用プロセス |
①顧客対応・販売支援
②決済・債権債務・資金回収管理 ③調達・供給・在庫・物流 ④会計・財務・経営 ⑤ 総務・人事・給与・労務・教育訓練・法務・情報システム ⑥業種固有プロセス |
①自動化
②分析ツール ③汎用ツール ※業務が限定されないが生産性向上に役立つツール |
とはいえ、自社の課題解決にふさわしいツールがどれなのか、どの業務プロセスが含まれるのかわかりにくい部分もあります。IT導入支援事業者と相談しながら申請する類型を決めていくと良いでしょう。
次に、賃上げ目標です。これは3か年計画を作成し、以下の事項を従業員に表明することが必要です。
- 3年間、給与支給総額を年率平均1.5%以上増加させること
- 3年間、事業場内最低賃金(事業場内で最も低い賃金)を地域別最低賃金+30円以上の水準とすること
B類型では賃上げ目標の設定が必須となっており、もし目標を達成できなければ補助金の返還を求められる場合があるため注意が必要です。
デジタル化基盤導入類型
デジタル化基盤導入類型の応募要件は、会計・受発注・決済・ECのうちいずれかの機能を持つシステムを導入することです。中小企業間の電子取引を後押しするための施策なので、通常枠のような賃上げ目標は求められません。
申請方法
申請方法の流れは次のとおりです。
IT導入支援事業者の選定
補助事業を実施するうえでのパートナーとなる「IT導入支援事業者」を選びます。IT導入支援事業者がITツールの提案・導入や事業計画の策定支援など、申請手続きをサポートしてくれます。IT導入支援事業者は要件を満たした業者があらかじめ登録されていますので、その中から選ぶことになります。
ITツールの選択
IT導入支援事業者と相談しながら、自社の課題に合ったITツールを選びましょう。
事業計画の作成
IT導入支援事業者と共同で補助事業の計画を作成します。通常枠の場合、「労働生産性」の1年後伸び率が3%以上、3年後伸び率が9%以上とすることが必須要件です。労働生産性とは以下の通り従業員一人当たり1時間当たりの粗利を計算して算出します。
- 労働生産性=粗利益(売上-原価)/(従業員数×1人当たり勤務時間(年平均))
なお、デジタル化基盤導入類型では上記の生産性算出は求められません。
申請
申請は、「Jグランツ」という補助金申請システムにて電子申請で行います。申請には gBizIDプライムアカウントが必要ですが、取得に2~3週間かかります。まだアカウントをお持ちでない方は、早めに取得するようにしてください。gBizIDプライムアカウントの詳細については、こちらを参照してください。
ITツールの発注・契約・支払い(補助事業の実施)
交付が決まったら、ITツールの発注です。交付決定前に発注した場合は、補助金の交付を受けることができません。くれぐれも発注は交付決定の連絡通知が届いてからにしましょう。
また、補助金の交付は補助事業が完了してからになります。後から補填されるとはいえ、当面は全額自己資金で対応しなければならないため、必要資金の確保と資金繰りに留意しましょう。
事業実績報告
補助事業が完了したら領収書等の証憑を添付して事業実績報告を提出します。
補助金の交付
補助金が交付されます。
事業実施効果報告
補助事業終了後3年度目までの間、生産性向上目標に関わる数値(売上、従業員数等)や給与支払総額等を報告します。
スケジュール
2022年度の公募はすでに始まっており、今後の予定は以下の通りです。締め切り日はほぼ毎月設定されていますので、IT導入支援業者と十分な打ち合わせと準備をし、無理のないタイミングでの応募を検討すると良いでしょう。
応募枠 | 公募回 | 締め切り日 | 交付決定日 |
通常枠 | 第3次 | 2022年7月11日 | 2022年8月12日 |
第4次 | 2022年8月8日 | 2022年9月8日 | |
デジタル化基盤導入類型 | 第6次 | 2022年7月11日 | 2022年8月12日 |
第7次 | 2022年7月25日 | 2022年8月25日 | |
第8次 | 2022年8月8日 | 2022年9月8日 |
システム開発に使える補助金②:ものづくり補助金
続いて紹介するシステム開発に使える補助金は、ものづくり補助金です。
IT導入補助金では既製品のパッケージソフト等が対象となるため、独自でシステムを構築する場合は申請できません。既存のパッケージソフトでは、自社課題に対応できないーそんなときは、上限1250万円までシステム構築費も対象となるものづくり補助金がおすすめです。
2022年度からは、補助率が優遇されたデジタル枠が創設され、システム開発での申請に使いやすくなりました。
対象者
- 中小企業事業者、小規模事業者、特定非営利活動法人
※社会福祉法人や医療法人等は対象になりませんが、個人開業医であれば対象になります。
対象となる取り組みおよび補助額
デジタル枠では、「デジタル技術を活用した生産プロセス・サービス提供方法の改善による生産性向上に必要な設備・システム投資等」が対象となります。補助金額は下の表のとおり、従業員人数によって上限額が異なります。
応募枠 | 従業員人数 | 補助金上限額 | 補助率 |
デジタル枠 | 5人以下 | 750万円 | 2/3 |
6人~20人 | 1,000万円 | ||
21人以上 | 1,250万円 |
申請方法
申請書(A4・10枚程度)を作成し、Jグランツで電子申請します。IT導入補助金と異なり、特にIT導入支援事業者のような補助事業パートナーを選定する必要はありません。
とはいえ、事業計画を中心とする申請書作成にはかなりの労力がかかるため、専門家など外部の力を借りることも一つです。
スケジュール
2022年6月現在は第11次公募中で、締め切りは2022年8月18日(木)です。それ以降も4半期ごとに2回の公募が予定されています。
公募回 | 締め切り日 | 採択発表 |
第11次 | 2022年8月18日 | 2022年10月中旬 |
システム開発に使える補助金③:小規模事業者持続化補助金
続いて紹介するシステム開発に使える補助金は、小規模事業者持続化補助金です。小規模事業者持続化補助金は、小規模事業者や個人事業主の販路開拓を目的とした補助金です。
従来、システム開発にも使いやすい補助金でしたが、2022年度になってから「システム開発含むウェブサイト関連費は全体の1/4まで」という制限が加わり非常に使いにくくなりました。国のDX推進施策に逆行するような改定の是非はともかく、注意点をしっかり押さえて申請するようにしましょう。
対象者
従業員数が20名以下の小規模事業者または個人事業主が対象です。
業種 | 常時使用する従業員数 |
商業・サービス業(宿泊業・娯楽業除く) | 5名以下 |
宿泊業・娯楽業 | 20名以下 |
製造業その他 | 20名以下 |
対象となる取り組みおよび補助額
販路開拓や生産性向上のための取り組みが対象です。応募枠によって上限額が異なりますが、厄介なのが、いずれもウェブサイト関連費は交付申請額の1/4までが上限となることです。
たとえば、交付申請額が50万円であればウェブサイト関連費は12.5万円までしか申請できません。さらに、ウェブサイト関連費のみの申請も不可です。ウェブサイト関連費はシステム構築費だけでなく、ホームページに掲載する画像やデータ作成費、ウェブ広告費等も対象になるため、システム主体の申請では事実上不可です。
通常枠 | 特別枠 | |||||
賃金引上げ枠 | 卒業枠 | 後継者支援枠 | 創業枠 | インボイス枠 | ||
補助率 | 2/3 | 2/3 | 2/3 | 2/3 | 2/3 | 2/3 |
上限額 | 50万円 | 200万円 | 200万円 | 200万円 | 200万円 | 100万円 |
申請方法
申請書(A4・8枚程度)を作成し、管轄の商工会議所または商工会の確認を受けます(商工会議所会員でなくても構いません)。郵送でも提出可能ですが、電子申請であれば審査で加点されるので、できれば電子申請をしましょう。
スケジュール
2022年6月現在において、第9回の公募受付中で締め切りは9月20日です。それ以降も2022年度中に2回の公募が予定されています。
公募回 | 締め切り日 |
第9回 | 2022年9月20日 |
第10回 | 2022年12月上旬 |
第11回 | 2023年2月下旬 |
システム開発に使える補助金④:事業再構築補助金
続いて紹介するシステム開発に使える補助金は、事業再構築補助金です。
事業再構築補助金は、新型コロナウイルス対策のため、2021年度から新設された補助金です。補助金上限額が最高8,000万円と非常に金額の大きな補助金で、人気を集めています。
ポストコロナに向けての事業の再構築を行い、新事業等に必要なシステム構築・導入費が対象になります。
対象者
以下の通り、コロナ禍で売上が減った中小企業、中堅企業が対象です。
- 申請前の直近6ヶ月間のうち、任意の3ヶ月の合計売上高が、コロナ以前の同3ヶ月の合計売上高と比較して10%以上減少している中小企業等
- 自社の強みや経営資源(ヒト/モノ等)を活かしつつ、経産省が示す「事業再構築指針」に沿った事業計画を認定支援機関等(※)と策定した中小企業等
※認定経営革新等支援機関とは、中小企業を支援できる機関として、経済産業大臣が認定した機関で、全国で3万以上の金融機関、支援団体、税理士、中小企業診断士等が認定を受けています。当社補助金バンクにも、認定経営革新等支援機関が登録されています。
対象となる取り組みおよび補助額
事業を再構築するための新たな取り組みが対象です。したがって、何らかの新規事業に取り組む必要があり、単なる設備更新や既存事業の延長では対象となりません。補助金上限額は、ものづくり補助金と同様、従業員人数によって異なります。
企業の種類 | 応募枠 | 従業員数 | 上限額 | 補助率 |
中小企業または中堅企業 | 通常枠 | 20人以下 | 100万円~2,000万円 | 2/3 |
21~50人 | 100万円~4,000万円 | |||
51人以上~100人 | 100万円~6,000万円 | |||
101人以上 | 100万円~8,000万円 |
スケジュール
2022年6月30日(木)に第6回公募の締め切りが予定されています。それ以降も2022年度中に2回の公募が予定されています。
システム開発で補助金を申請する際の手順・流れ
続いて、システム開発で補助金を申請する際の流れを確認しましょう。
補助金を探す
まずは、数ある補助金の中から自社の目的に一番合った補助金を探しましょう。「IT導入補助金」のように毎月公募があるものもあれば、「事業再構築補助金」や「ものづくり補助金」のように3ヶ月ごとに公募するものなど、公募タイミングはさまざまです。
申請書の作成
補助金が決まったら、必要書類を揃え申請書類を作成します。申請書類の様式や分量は補助金によって異なりますが、いずれもそれなりの手間と準備期間を必要とします。
審査・採択決定
申請書に基づく採択審査が行われ、採択が決定されます。
補助事業開始、補助金の交付
採択されたら、いよいよシステム会社と要件打ち合わせをし、システム開発を開始します。なお、補助金が交付されるのはシステムを開発し、事業が完了し、実績報告書を提出してからであることには注意が必要です。したがって、後から補填されるとはいえ、当面の支払いは立替払が必要となるので資金繰りにはくれぐれも注意しましょう。
システム開発で補助金を申請する際のポイント・注意
最後に、システム開発で補助金申請する際のポイントと注意点を解説します。
システムで解決したい自社課題を明確にする
「補助金があって、申請した方がお得だからITツールを導入しよう」と考えるのではなく、「自社課題の解決に必要だからITツールを導入する」という姿勢が大切です。
IT業者の話を鵜呑みにするのではなく、ITツールの導入でどの程度生産性が向上するのか、どのようなメリット・デメリットがあるのかを慎重に見極めてから導入するようにしましょう。
また、IT導入補助金は既製品のパッケージソフトが対象で、自社仕様にカスタマイズする開発費用は対象になりません。基幹システムとの調整が不要など、パッケージソフトでも問題なく対応できるかどうかも考慮する必要があります。
導入検討にあたっては必ず現場の声を聞く
導入したのに使い勝手が悪くあまり活用されていないーこんな羽目に陥らないよう、実際に使用する現場の社員の意見を十分に聞いてから検討しましょう。
信頼できる業者を選ぶ
ITツールは導入して終わりではなく、アフターフォローも含めて業者とは長い付き合いになります。価格だけで決めるのでなく、実績が十分にありサービスにも問題ない信頼できる業者を選ぶようにしましょう。
入念に申請準備を行う
いずれの補助金も、申請書類に基づく採択審査が行われます。採択率は3割~6割と幅広く、公募回によっても大きく異なりますが、ハードルは決して低くありません。採択されるためには公募要領をしっかり読み込み、入念に時間をかけて事業計画書を中心とする申請書類を準備する必要があります。
まとめ
システム開発で使える補助金を紹介しました。
採択の鍵となるのが事業計画書を中心とする申請書類の作成ですが、採択されるための難易度は上がっているうえ、準備には非常に時間がかかります。そのため、忙しい事業者の方は専門家の力を借りることも一つの手です。
当社補助金バンクでは、補助金申請に精通した中小企業診断士等の専門家が多数登録されています。当社補助金バンクを活用して、専門家の助けも得たうえで、上手に補助金を獲得して自社の発展に役立ててください。