助成金の話を聞いたとき、経営者の方々が注目するのは、その受給のための要件と金額であることが多いです。これは経営者として、もちろん持つべき視点といえるでしょう。しかし、助成金申請には付随して必要となる社内環境の整備などが必要となることが多いため、その内容にも目を配らなければなりません。
今回は、専門家に助成金の申請を依頼した場合のメリットやデメリットを解説しつつ、人気の助成金の概要や、その申請において取り組むべき内容を解説します。助成対を申請する際にご自身で申請すべきか、それとも社会保険労務士などのサポートを受けるべきか、判断の一助になれば幸いです。
助成金申請は自分でできる?サポートを受けるべき?
助成金は厚生労働省が実施しているものが多いのですが、数多くの種類があります。一般的には、その助成される金額が高いものほどその要件は複雑なものが多く、求められるレベルが高くなるといえます。
申請を依頼する場合は社会保険労務士(社労士)へ
厚生労働省が、雇用の増加や人材育成を促進するために実施しているのが助成金です。管轄が厚生労働省となり、助成金の書類作成や申請は、社会保険労務士の独占業務であると法律によって定められています。ですから、助成金のサポートを受けようとする際には、社会保険労務士に依頼することになります。
しかし、自分で申請するという選択肢もあります。この場合、報酬を支払う必要がないため、助成金の支給額がそのまま入ることになります。そのため、できることなら自分で申請をしたいというのが経営者の方の思いでしょう。
申請サポートの一般的な内容
助成金の申請にあたって、必要となる業務です。必要書類の収集とその提出を行いますが、社内の環境の整備や正確な書類の作成が求められます。
必要書類の収集・提出・確認
助成金の申請をする場合、必要な書類をそろえ、都道府県の労働局や公共職業安定所に書類を提出しに行く流れになります。もちろん、社会保険労務士に依頼すれば、必要書類をそろえたり、提出したりすることを任せることができます。
また、必要に応じて、従業員に支払っている賃金やその賃金台帳などのチェックを行ってくれます。そのため、法令遵守や助成金の申請に伴って必要となる書類のチェックを自社で確認する必要がなくなります。この作業だけでも、多くの中小企業にとっては骨の折れる作業ですから、社会保険労務士に依頼する大きなメリットといえるでしょう。
社内環境の整備
助成金を厚生労働省が実施している狙いは、雇用をより増加させることや、人材育成を促進することです。そのため、基本的に雇用保険に加入しており、労働関連の法令遵守や書類の完備がなされていることが前提とされています。
これらがなされていない場合、助成金を申請する前に労働に関する社内の環境を整える必要があります。社会保険労務士は労働関係の法令に精通しているため、社内の環境の中で申請に必要な点を把握しています。
サポートを受けるデメリット
助成金の申請を社会保険労務士に依頼するデメリットは、報酬が発生する点です。助成金の申請に必要な書類に不備があれば、付随して報酬が発生することも考えられます。そのため、社会保険労務士に依頼する場合には、表面的な金額だけを比較するのはなく、付随して発生する業務のどこまで対応してくれるのか事前にヒアリングしておいた方が良いでしょう。
また、これまで自社で作成してきた書類に不備がないケースでも、助成金の申請においては、申請要件として新たな休暇や賃金規定の変更などが求められることもあります。こういったケースでは、就業規則の変更などが必要となる可能性があります。そのため、業務範囲と報酬体系は確認をしておくと良いでしょう。
助成金申請サポートを利用する場合の一般的な費用体系
先述のように、助成金の申請には事前準備が必要です。そのため、顧問先以外の申請は取り扱わない社会保険労務士もいるのです。
顧問契約をしておらず、助成金の申請を社会保険労務士に依頼するとなれば、スポット業務も受ける社会保険労務士を探すことになります。一般的な費用体系は、「着手金」と支給決定時にその助成金の額に応じて「手続報酬」が必要になる場合と、支給決定を受けることができたときに助成金額に応じて「手続報酬」のみ必要なケースに大別されます。
着手金と手続報酬が必要となる場合は、着手金として2万円~10万円が相場とされており、手続報酬は助成金の受給金額の10%~25%ほどとされています。着手金がかからず手続報酬のみの場合は、助成金の受給金額の15%~30%ほどが相場と言われています。
これに加えて、助成金受給に必要な就業規則の作成やキャリアアップ計画の作成、36協定の届出などには、別途費用がかかる場合も多いので注意が必要です。その一方で、すべて込みの料金体系が設定されていることもありさまざまです。
また助成金顧問という形を取るケースもあります。定額の顧問料金を払い続ける必要がありますが、継続的な情報提供と受給環境の整備を行ってくれます。そして、助成金の申請報酬は取らない、または低額の報酬で良いという費用体系となっています。
いずれにしても、安心して頂きたいのは、社会保険労務士は事前に報酬の基準を明示する義務があるということです。よって後になって、想定外の報酬額を請求されることはありません。
申請の多い助成金
ここからは、申請の多い助成金の概要について紹介しましょう。そして、助成金の申請に必要な書類や、どのような業務が申請に付随して必用となるのかも解説していきます。
キャリアアップ助成金
キャリアアップ助成金は、次のように多くのコースに分かれています。
- 正社員化コース
- 障害者正社員化コース
- 賃金規定等改定コース
- 賃金規定等共通化コース
- 諸手当制度等共通化コース
- 選択的適用拡大導入時処遇改善コース
- 短時間労働者労働時間延長コース
必要な要件は、全コース共通で雇用保険適用事業所の事業主であること、キャリアアップ管理者を置いている事業主であること、そして助成金の活用に当たって各コース実施日の前日までに「キャリアアップ計画」(労働組合等の意見を聴いて作成)等を作成し、都道府県労働局やハローワークに提出しなければなりません。
対象労働者に対する労働条件、勤務状況および賃金の支払い状況等を明らかにする書類を整備し、賃金の算出方法を明らかにすることも求められます。普段から正確な賃金計算を行い、賃金台帳などを保存してある必要があります。
「正社員化コース」は、雇入れから6ヶ月以上経過した契約社員を正社員へ転換することで、中小企業であれば1人当たり57万円<生産性要件を満たした場合72万円>の助成金を申請することができます。
「賃金規定等共通化コース」では、有期雇用労働者等に正規雇用労働者と共通の職務等に応じた賃金規定等を新たに作成し、適用した場合に助成されます。1事業所当たり57万円<生産性要件を満たした場合72万円>が助成されます。ただ、説明したように、職務等に応じた賃金規定を新たに作成する必要があります。
「短時間労働者労働時間延長コース」では、短時間労働者の週所定労働時間を5時間以上延長し新たに社会保険に適用した場合1人当たり22万5,000円<生産性要件を満たした場28万4,000円>が助成されます。このコースでは、短時間労働者を新たに社会保険に適用するため、社会保険の届出が必要になります。その他、各労働者一人ひとりの労働条件も変更されることになるので、雇用契約書等も新たに準備が必要となったり、出勤簿やタイムカードなども必要となったりします。
キャリアアップ助成金について詳しく知りたい方はこちら:
雇用調整助成金
雇用調整助成金では、景気の変動、産業構造の変化その他の経済上の理由により、事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、一時的な雇用調整を実施することによって、従業員の雇用を維持した場合に助成されます。
休業を実施した場合には、まず休業手当を支払ってください。中小企業の場合、休業手当または教育訓練を実施した場合の賃金相当額の3分の2が助成されます。対象労働者1人あたり8,370円が上限です。
雇用調整助成金の受給するためには、まず雇用調整を実施し従業員の方々を休業させることが必要です。ですから、通常の賃金を把握するため労働保険料に関する書類も求められます。
さらに、休業を計画する段階で「休業協定書」、さらに教育訓練を実施する場合は「教育訓練協定書」が必要な書類となります。
そして、実際に休業をさせたのか、教育訓練を受講したのか、それとも元々休日だったのかが審査で判断がつくように、対象労働者の労働日・休日及び休業・教育訓練の実績が、明確に区分されている「出勤簿」「タイムカード」など証明するための書類が必要となります。
従業員を休ませたけれど休業手当を支払ったということが要件ですから、休業手当、賃金および労働時間の確認のための書類として賃金台帳などの書類の提出を求められます。
雇用調整助成金について詳しく知りたい方はこちら:
働き方改革推進支援助成金
働き方改革推進支援助成金は、次のように複数のコースに分かれています。
- 勤務間インターバル導入コース
- 労働時間短縮・年休促進支援コース
- 労働時間適正管理推進コース
働き方改革は、働く方の生活時間や睡眠時間を確保し、健康保持や過重労働の防止を図ることが目的です。これらのコースでも、その要件として「労働者災害補償保険の適用事業主であること」とされています。
「労働時間短縮・年休促進支援コース」は、2020年4月1日から中小企業にも時間外労働の上限規制が適用されたことで、相談が増えているコースです。生産性を向上させ、労働時間の縮減や年次有給休暇の促進に向けた環境整備に取り組む中小企業事業主を支援してくれます。
受給するためには、次の「成果目標」のうち1つ以上の達成を目指して取組みを実施してください。
- 成果目標1:全ての対象事業場において、令和3年度又は令和4年度内において有効な36協定について、時間外・休日労働時間数を縮減し、月60時間以下、又は月60時間を超え月80時間以下に上限を設定し、所轄労働基準監督署長に届け出を行うこと
- 成果目標2:全ての対象事業場において、特別休暇(病気休暇、教育訓練休暇、ボランティア休暇、新型コロナウイルス感染症対応のための休暇、不妊治療のための休暇)の規定をいずれか1つ以上を新たに導入すること
- 成果目標3:全ての対象事業場において、時間単位の年次有給休暇の規定を新たに導入すること
成果目標1から3に応じて設定された「上限額」又は「対象経費の合計額×補助率3/4」のうち、低い方の額が補助されます。例えば、成果目標2を達成すれば、上限額50万円と設定されています。
取組みにかかった経費が60万円だった場合、補助率である3/4を乗じて得た額は45万円となります。
50万円と45万円のうち、低い方の額である45万円が助成されます。
働き方改革推進支援助成金について詳しく知りたい方はこちら:
65歳超雇用推進助成金
65歳超雇用推進助成金は、高年齢者が意欲と能力のある限り年齢に関わりなく働くことができる生涯現役社会の実現を目的として創設されました。65歳以上への定年引上げや高年齢者の雇用管理制度の整備等、高年齢の有期契約労働者の無期雇用への転換を行う事業主に対して助成されます。
次の3コースで構成されています。
- 65歳超継続雇用促進コース
- 高年齢者評価制度等雇用管理改善コース
- 高年齢者無期雇用転換コース
「65歳超継続雇用促進コース」では、労働協約又は就業規則により、次の1~4のいずれかに該当する制度を実施するなどの要件を満たすことで助成金を受けられます。その支給額は、定年引上げ等の措置の内容や年齢の引上げ幅等に応じて、1.、2.の場合は25万円〜160万円、3.、4.の場合は5万円~100万円とされています。
- 65歳以上への定年引上げ
- 定年の定めの廃止
- 希望者全員を66歳以上の年齢まで雇用する継続雇用制度の導入
- 他社による継続雇用制度の導入
「高年齢者評価制度等雇用管理改善コース」は、高年齢者向けの雇用管理制度の整備等に係る措置を実施した事業主に対して一部経費の助成を行うコースです。主な要件として、
「雇用管理整備計画書」を作成し、(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長に提出して、計画内容について認定を受けていることなどがあります。
中小企業事業主であれば、高年齢者の職業能力を評価する仕組みと賃金・人事処遇制度の導入または改善、高年齢者が意欲と能力を発揮して働けるために必要な知識を付与するための研修制度の導入又は改善などの取組みにかかる経費の60%〜75%が助成されます。
「高年齢者無期雇用転換コース」は、50歳以上かつ定年年齢未満の有期契約労働者を無期雇用に転換させた事業主に対して助成を行うコースです。このコースでも、主な要件として「無期雇用転換計画書」を(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長に提出し、計画の認定 を受けていることなどがあります。
中小企業事業主であれば、対象労働者一人につき48万円(生産性要件を満たす場合60万円)が助成されます。
いずれのコースでも、助成金の申請にともなった業務として、労働協約または就業規則を整備が必要となります。
子育てパパ支援助成金
両立支援等助成金には「介護離職防止支援コース」や「育児休業等支援コース」などのコースがありますが、「出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)」も相談の多いコースです。男性労働者が育児休業や育児目的休暇を取得しやすい職場風土作りに取り組み、育児休業や育児目的の休暇を取得した男性労働者が生じた事業主に助成金が支給されます。
男性労働者が育児休業を取得しやすい職場風土作りのため、全労働者に対して男性労働者の育児休業取得に関する管理職や労働者向けの研修を実施すること、資料配布等を行うといった取組を行うこと、そして実際に、男性労働者が子の出生後8週間以内に開始する連続14日 (中小企業は連続5日)以上の育児休業を取得することが要件です。
中小企業事業主であれば、対象労働者一人につき57万円(生産性要件を満たす場合72万円)が助成されます。
育児目的休暇の導入・取得に向けて、育児目的休暇制度を新たに導入した場合も助成金が支給されます。就業規則等への規定、労働者への周知を行うなどを行い、実際に男性労働者が、子の出生前6週間から出生後8週間の期間中に、合計して8日(中小企業は5日)以上所定労働日に対して取得すると、28.5万円(生産性要件を満たす場合36万円)が助成されます。要件にもあるように、就業規則等への規定、労働者への周知を行うなどの実施が求められます。
助成金の申請サポートは補助金バンクにお任せ!
助成金の申請は、申請書類を作成して終了というものではなく、労使協定の締結や就業規則の変更、計画書の作成などを伴う場合が多いです。そして、助成金の申請に不慣れな方が作った書類は、審査に通りにくい傾向があります。助成金申請の書類に必要な箇所の記入漏れや、記入の間違い、添付書類の不備などが原因です。
一方で、社会保険労務士に代行を依頼すれば、初歩的なミスは防ぐことができます。また、助成金申請にかける時間を、本業にかけることができるメリットもあり、経営者が把握していない助成金についても教えてもらえる可能性もあります。相談自体は無料で行っている事務所が多いため、相談だけでも行ってみることをおすすめします。
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使える助成金・補助金を厳選
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多数在籍している専門家とのマッチングが可能
厚生労働省管轄の助成金に関しては、社会保険労務士の独占業務であるとお伝えしました。しかし、社会保険労務士であればすべてが助成金に強いというわけではありません。
例えば、就業規則の作成に強い社会保険労務士もいれば、年金分野が得意な社会保険労務士もいます。不動産業界に強い社会保険労務士もいれば、飲食店に強い社会保険労務士もいます。
そこで、数多くいる社会保険労務士の得意分野と、自社の業種や要望に応じてうまくマッチングできることが望ましいといえます。この要望を実現するために用意したのが、当社補助金バンクです。
補助金バンクは、補助金や助成金を申請したい人と専門家のマッチングプラットフォームですので、自社の要望に沿って専門家とマッチングすることができます。
まとめ
助成金の申請は、単に申請書類を作成すればおしまいではありません。常日頃から労働基準法を守り、労働関係の法令を遵守した届出や保険料の納付、書類の備え付けを行っている必要があります。
これらの労働関係の法令をすべて把握してこれまでの経営を完璧に行っている中小企業は少ない上に、これから準備しようとすれば非常に多くの手間がかかります。
また、助成金の進展に伴い、新しく社内の制度を設ける場合や変更が求められることも多く、このような場合には、就業規則の変更等が付随して必要となります。そのため、専門家に依頼することが一般的であり、本業に割ける時間の確保や受給できる可能性を高めるためにも合理的だといえます。
助成金の申請サポートをご検討の際には、当社補助金バンクにお任せください。補助金バンクには助成金に強い専門家が多数在籍しており、ニーズに合った専門家とマッチングすることができます。まずはお気軽にお問い合わせください。