この記事では、各種の補助金を申請する際に必要となる事業計画書の作成に際して留意する必要のあるポイント、作成のコツを解説していきます。
補助金の申請が採択されるか不採択となるかは、事業展開に大きな影響を及ぼします。新たな補助事業に乗り出そうとする事業者の方が、より良い事業計画書を作成するために必要な情報をお伝えしていきます。
補助金とは
会社で働いたり事業を営んだりしていると、「補助金」ということばを耳にすることがあることでしょう。「今度のプロジェクトには補助金が使えそうだ」などという具合です。
一般的に、補助金は国や地方公共団体等が、特定の事務や事業を実行する個人や団体に対して、その事務や事業を奨励、促進するために交付する給付金のことです。国などの目指す姿である政策目標に合わせて事業者の取り組みをサポートするために、資金の一部を給付するのです。
補助金には、金額の大きいものから小さなものまで多くの異なった目的のものがあり、事業の経費全額を補助するものや一部を補助するものがあります。
補助金申請に事業計画書が必要である理由
補助金は、金融機関等による融資と異なり返済する必要はありませんが、財源である予算の範囲内で支給されるものです。そのため、誰もがもらえるわけではなく、補助金の性質に応じて決められた基準に合致する事業者に支給されるための審査が行われます。
事前の審査を通過することを「採択」といいます。採択と不採択を決める審査のためには、実施しようとしている事業の内容がわからなければならず、これを書類にしたものが事業計画書です。
事業内容が補助金の目的に沿っており、採択を得るためにはその適切さを事業計画書によって明らかにする必要があるのです。
採択に近づく事業計画書を作成するポイント
補助金申請のための事業計画書には、単にどんな事業を行うのかを記載すれば良いわけではありません。
各種補助金には、「公募要領」等の名称がついた、補助金に申し込むためのルールが定められた書類があります。その中で事業計画書をどのように作成するべきか指定されており、採択されるためには、事業者はこれに従って事業計画書を作成しなければなりません。
補助金の種類によって違いはありますが、採択される事業計画書を作成するポイントを確認していきましょう。
- 審査項目や加点項目を網羅する
- 自社や環境を分析する
- 補助事業の市場や競合を分析する
- 自社の差別化要素や優位性を分析する
- 実現可能性のあるマーケティング(販売)戦略を考える
- スケジュールと推進体制を整える
- 収益計画を立てる
審査項目や加点項目を網羅する
審査が行われるということは、当然ながら採点基準があるということです。事業計画書を読んだ審査官が感覚的に決めているわけではありません。
そして、その採点基準は「審査項目」として、公募要領の一部にしっかりと明示されています。また、特別の場合に点数が上乗せされる「加点項目」も記載されています。まずはこれらを把握しなくてはなりません。
とはいえ、審査項目や加点項目を一読しただけで、趣旨や意味を理解するのは不可能に近いことでしょう。しかし、細かく分解してみると、補助事業に対して何が求められているのかが徐々に明らかになってきます。
そうなれば、審査項目が要求していることをリスト化して、採点表のようなものを作れることでしょう。そして、事業計画書の構成で、それらの項目を必ず記載する箇所を設けます。事業計画書の作成後も、全ての審査項目にしっかりと応えているか、網羅できているかを確認しましょう。
加点項目も単なるおまけとは捉えず、自社が該当するかよく確認し、該当する場合には積極的に事業計画書に取り入れてポイントアップを目指しましょう。
自社や環境を分析する
補助金の多くは、何らかの新たな取り組みや事業に対して支給されるものです。そこで、事業計画書には、なぜその新事業に取り組むのかを示す必要があり、その説明に役立つのが自社や環境の分析です。
事業の分析やアイディア・コンセプトの検討には、「3C分析」や「PEST分析」といった手法もありますが、ここでは「SWOT分析」と「クロスSWOT分析」の概要を紹介します。事業を成功させるためには、自社(自分)の強みを知り、それを最大限活かすことが不可欠だからです。その第一歩として、現在のビジネス環境の中で自社がどんな強みや弱みを持っているかを分析する手法として有効に活用できます。
SWOT分析では、まず「強み(Strength)」「弱み(Weakness)」「機会(Opportunity)」「脅威(Threat)」の4要素に分けて現状を考察します。このうち「強み」と「弱み」は自社独自の内部要因、「機会」と「脅威」は市場など自社を取り巻く環境要因です。
この中でも特に重要なのは「強み」です。なぜなら、「強み」を軸として新事業での行動や競合他社との差別化の方向性が定まるからです。そして、次に重要視するべきは「機会」です。「弱み」と「脅威」については、きちんと理解できているレベルでも十分です。
では、どのように「強み」と「機会」を明らかにするか、少し詳細にお伝えしましょう。どちらも多くの角度から自問自答することで具体化しやすくなります。
「強み」については、顧客ニーズに対応できる技術全般、自社の方針や体制または機能、固有のノウハウなどの観点から探ることができます。「機会」は市場における「チャンス」「可能性」と言い換えても良いかもしれません。
たとえば、高付加価値ニーズに対応してどんな商材にチャンスがあるか、SNSやウェブをどう上手に活用すればチャンスになるか、現在の商圏をどう拡大すればチャンスとなるかなど、市場に溢れているビジネスの可能性を探し当てるのです。
クロスSWOT分析とは、SWOT分析で検討した4つの要素を組み合わせて戦略を考える手法です。内部要因2要素と外部要因2要素の掛け合わせなので、4種類の戦略を考えることになりますが、最も重要なのは「強み」と「機会」を組み合わせて生まれる「積極戦略」です。これは、自社の強みを活かしさらに伸ばしていく対策、または積極的に投資や人材配置して他者との競合で優位に立つ戦略です。これが事業計画の核となります。
補助事業の市場や競合を分析する
可能性を求めて新しく事業参入するときは、市場の現状を必ず調査する必要があります。市場の現状とは、市場規模などによって推測できる需要、ニーズの有無や大きさと、競合他社の有無や立ち位置、サービス内容などを指します。
顕在的なニーズをつかむ有効な方法の一つは、公表されている統計データや調査報告を調べることです。調査を行って発表している情報源としては、業界を管轄している官公庁や地方公共団体、民間の研究機関(シンクタンク)、大学等の教育機関が挙げられます。情報の質を慎重に吟味する必要はありますが、現代ではインターネット上に無数のデータが存在しており簡単に検索できますので、積極的に活用しましょう。
他方、競合他社については、自社が新事業で展開する製品やサービスの特性をもとにしてウェブを利用するなどして調査していきます。特性の捉え方によって競合他社は非常に多く見つかるものの、事業計画書にまとめる際は、商圏が近い、顧客のニーズに対する提供価値やスタンスが類似しているものなどの2、3社に絞るようにします。
自社の差別化要素や優位性を分析する
差別化と優位性は、表裏一体のものです。たとえば、同じ製品やサービスを単純に格安で提供することは明確な区別をつけられる点では差別化といえますが、売上高や利益の低下は避けられず、競合に敗退することにつながりかねません。事業展開上の差別化は戦略的で、競争上の優位性を得るものでなければなりません。
では、自社が新しい市場で事業展開する際に、他者への優位性を確保するための差別化戦略とはどのようなものでしょうか?ここで活用できるのが、クロスSWOT分析によって導き出した積極戦略です。
自社にしかない強みを新市場に適応することにより、ターゲット顧客に対して独自の提案が可能となります。それは、自社が培った技術力に基づくものかもしれません。あるいは、ブランディング、丁寧なアフターフォロー、優れた接遇、スピード感、コネクションなどといった「強み」を総動員したものかもしれません。
いずれにせよ、自社の強みを新たな機会に活かす戦略こそが競合他社と比較した場合の独自の優位性となるのです。これを事業計画書に記載することにより、審査官に対して補助事業の「事業性」(採算の見込みがあること)を強調できるでしょう。
実現可能性のあるマーケティング(販売)戦略を考える
市場や製品・サービスにどれほど恵まれても、売り方を誤れば事業は失敗してしまいます。有効なマーケティング戦略、販売戦略が必要なのです。
このとき、「誰に向けて提供する製品、サービスであるのか」を正確に捉えることが重要です。この点でブレずに対象や範囲を選択し、ターゲットに応じた提供方法を考案します。
その方法は、ダイレクトメールや個別訪問からECサイトの活用までさまざまでしょう。顧客の視点に立って具体的にイメージすることが大切です。お客様は、どのようにご自身の製品やサービスと出会ったら、興味を惹かれたり、関心を持ったり、購買意欲を持ったりするでしょうか?
事業計画の段階では、「絶対にこうすれば売れる」というレベルでは表現しにくいものです。しかし、ここまでの考察で、どんな市場なのか、どんな競合が存在するのか、自社にはどんな独自の優位性があるのかを検討して、一定の理解を得たはずです。これをマーケティング戦略の仮説にも活用しましょう。
同時に売上高の予測を立てる必要も生じますが、具体的なイメージにより策定したマーケティング戦略に即した実現可能性、根拠のある積算を心掛けましょう。勢い余って著しく現実味を欠く売上高を計上したりしてはなりません。審査官の納得感を損ねてしまうことでしょう。
スケジュールと推進体制を整える
実際に補助事業を実行するには、多くの実施事項、工程が生じます。
これを整然と進めるため、実施事項ごとに実行する時期と担当者を定め、事業計画書内にスケジュール表としてまとめましょう。なお、補助金により補助事業の期間が定まっているため、その範囲内に完結できる工程表とするよう注意が必要です。
また、社としての推進体制と取引先や仕入先など社外との関係も明らかにする必要があります。これら社内、社外の推進体制は、組織図のように表現すると視覚的に理解しやすくなります。
審査官が読んだ際に、この推進体制であれば、補助事業の各実施事項を実行可能だと納得してもらえることが重要です。そのため、極端に少人数で体制を組むといった事態は避けるべきです。場合によっては、新規雇用も含めて人員計画の見直しを積極的に検討する必要もあるでしょう。
収益計画を立てる
多くの補助金では、営業利益、人件費および減価償却費を合計した「付加価値額」という指標が設けられ、補助事業終了から3年間または5年間、平均年率3%プラスとなる収益計画を策定する必要がありますこれを達成するには、むやみに予測上の売上高を増加させるだけでは済みません。
人件費を予測実績に応じて増加させつつも、人件費および減価償却費以外に発生する「販管費」(旅費交通費、広告宣伝費、地代など)を適切に抑制する前提での予測が必須となります。この際、自社の財務状況を刷新するつもりで決算実績と向き合い、順調で健全な成長を描く計画を策定してみてはいかがでしょうか?
採択されにくい事業計画書の例
ここまで、補助金を申請する際の事業計画書のポイントについて解説しました。
では、反対に採択されにくい事業計画書にはどういった共通点があるでしょうか?これからお伝えする内容は避けるようにしてください。
- 審査項目を無視している
- 記述の根拠に欠ける
- 専門用語が説明なしに多く使われる
- 全体としてストーリーがない
審査項目を無視している
前述のとおり、事業計画書の審査には明確な審査項目があります。これを踏まえない事業計画書は、マークシートの解答用紙に文章を書き連ねるようなものです。当然、審査により点数を積み上げることはできず、採択からはほど遠い結果となってしまいます。
補助事業のアイデアを述べて精神論で頑張ると主張したり、経営者の過去の成功体験が語られていたり、とにかく補助金が支給されないと倒産してしまうと切実に訴えていたりするものなどが典型的な例だといえるでしょう。心情がわからないではありませんが、審査の上でプラスに働くことはありません。
記述の根拠に欠ける
事業計画書は審査官が納得できる説得力を持つものでなければなりません。個々の記述が説得力を持つためには、可能な限り具体的な裏付けや根拠を示す必要があります。
とりわけ、数値的な記載については、信頼できるデータや資料に基づいて一定の論理や推論により補完しなければなりません。根拠のない記述は「いい加減」なものと捉えられざるを得ず、審査項目と関係する事項だったとしても得点につながることは期待できません。
専門用語が説明なしに多く使われる
申請する事業者は、その業界の専門家で、既存事業にも新しい補助事業にも精通している場合が多いでしょう。
その一方で、事業計画書を読む審査官は経営に関する専門家であっても、個別の事業に関する知識についてはごく一般的な人です。しかも、多数の事業計画書を審査するため、1通の事業計画書の審査に費やせる時間は限られています。そのため、わかりにくい専門用語が当たり前のように多用されている事業計画書は、そもそも審査官の理解を期待することはできず、むしろ心証は相当に悪くなるでしょう。
一般的に望ましいとされる事業計画書は、その趣旨が小中学生でもおおむねイメージできる文章で構成されているものといわれています。たとえば、完成した事業計画書を家族などに読んでもらい、内容がわかるか確認してもらっても良いでしょう。
全体としてストーリーがない
審査項目に基づいた審査が行われるとはいえ、事業計画書という一種の文書全体として脈絡あるいは文脈が支離滅裂であると、審査で重要な納得感、説得力が著しく失われることになります。
たとえば、補助事業に対する熱意や積極性は貴重なものですが、全体を通してストーリー展開に欠けるならば、補助事業に対して自信を持って高い評価を加えることはできないでしょう。事業計画書は、一種のシナリオに例えられることがあります。審査項目を踏まえながらも「なるほど、そういうことになるのか」と思わせる展開が必要なのです。
事業計画書は採択されたら用済みではない
実は、補助金申請のための事業計画書は、採択されるためだけに必要なものではありません。補助金をしてもらったり、そもそも新しく事業を行うにあたって計画を立てたりする際に必要となるものです。
補助事業期間中の活用
補助金申請が採択され、補助事業を実施する期間、事業計画書に記載した内容を確実に実行する必要があります。それは、ある面では事業推進の参考として活用できるという良い点だということができます。
一方で、最終的に補助金を支給してもらうための条件という側面もあることを忘れてはなりません。極端な例ですが、事業計画書で予定していない支出を行ったとすると、それは補助金の対象ではなくなるということです。
また、補助事業完了時には補助事業実績報告とともに補助金の請求を行いますが、報告の基礎となるのは、事業計画書で表明した内容なのです。さらに、その後も3〜5年間、事業化状況を報告することとなりますが、ここでも事業計画書における収支計画が関係することは言うまでもありません。
補助事業に限らず重要
確かに、事業計画書は補助金申請において大きな役割を果たし、採択と不採択を分ける重要な書類であることに間違いありません。しかし、本来新しく何らかの事業に参入して推進するためには、事業計画を策定する必要があります。
仮に自己資金のみを投資する場合であっても、投資に見合う効果を得ることが可能かどうかは、綿密にシミュレーションし事業計画書に起こすはずです。つまり、事業計画書は単に補助金をもらうための一時しのぎで作成するものではなく、新たな企業活動に取り組むに当たって必要不可欠なものであると捉えることが妥当でしょう。
まとめ
今回は、各種の補助金に共通すると思われる事業計画書作成のコツについて解説しました。
ご自身で事業計画書を作成することも決して不可能ではありませんが、複雑な条件を満たしながら採択に近づける事業計画書の作成は困難な作業であることもまた事実です。簡単に失敗するわけにはいきませんから、専門家のサポートを受けながら事業計画書を作成して申請するのが有効なやり方でしょう。
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