創業助成事業は、東京都内で創業を予定している方や創業から5年未満の方を支援する事業です。「起業したいけど資金が無い」という方も多いですが、採択されれば創業助成金による補助を受けることができます。
この記事では、起業したい人や起業したばかりの人のために、創業助成事業について解説していきます。助成額はいくらなのか、申請するにはどのような条件に当てはまる必要があるのかなどを理解していきましょう。
※以下は2021年2月22日時点の情報であり、「令和3年度(2021年度) 第1回創業業助成事業」について解説しています。
創業助成金(創業助成事業)とは?
創業助成事業は、東京都における創業のモデルケースになりうる、都内で創業予定の個人または創業から間もない中小企業者などに対し、創業初期に必要となる経費の一部を助成(創業助成金)する事業です。
都内でこれから創業を予定している方や、都内で事業を初めてから5年未満の方は、申請要件に当てはまっている可能性があります。創業助成事業・創業助成金について理解を深め、申請を検討していきましょう。
創業補助金との違い
インターネットで検索すると「創業助成金」と「創業補助金」の2つを紹介したサイトが見つかり、両者を混同してしまっている方もいらっしゃるかと思います。
2021年2月現在、「創業補助金」という名称の補助金は募集されておりません。2018年度までは創業補助金を後継した「地域創造的起業補助金」の募集が行われていましたが、現在は募集されておりません。また、現在は国による創業の助成制度はありませんが、自治体で制度が設けられている場合があります。自治体によって制度の有無や補助の内容は異なります。
創業助成金の金額や用途
創業助成金の上限や助成率、対象となる経費について解説していきます。ご自身の事業をイメージしながらどのような経費が対象になるのか確認し、申請するメリットがある助成金なのか判断に役立ててください。
助成額・助成率
創業助成金は上限300万円、下限100万円の支給となります。助成率は後述する助成対象と認められる経費に対し、3分の2以内です。
対象の経費
創業助成金の対象となる経費には、以下の費用があります。
- 事務所、店舗、駐車場などの賃借料
- 広告費
- 創業初期に必要な机、PC、コピー機、エアコンなどの器具備品購入費
- 産業財産権出願・導入費
- 外部専門家から助言・指導を受けるための専門家指導費
- 従業員人件費
ただし、以下の6つの要件を満たしている必要があります。
- 申請を行った事業を実施するために必要な経費(申請書に記入した事業)
- 賃借料、広告費、器具備品購入費、産業財産権出願・導入費、専門家指導費、従業員人件費に当てはまる経費
- 助成対象期間中に契約、履行、支払いが完了した経費(賃借料、従業員人件費は交付決定日以前に契約した内容も対象)
- 助成対象物の使途・単価・規模などが確認できる経費
- 申請事業の実施に関わるものとして、他の事業と明確に区分できる経費
- 財産の取得に関する経費の場合、所有権が助成事業者のものとなる経費
創業助成事業の申請要件
創業助成事業の申請要件は4つあります。4つをすべて満たしていないと、申請しても審査を受けることすらできないので、必ず以下の4つの申請要件に当てはまっているかを確認しましょう。
ここでは概要を掲載しますので、詳細は募集要項で確認してください。不明点があったり自分が当てはまったりするのか不安な方は、中小企業診断士などの専門家に相談しましょう。
- 東京都内で創業予定・創業5年未満
- 指定の創業支援事業を利用している
- 事業者等の要件
- その他の要件
要件①:東京都内で創業予定・創業5年未満
創業助成事業は都内で創業予定の個人や創業まもない中小企業者などを支援する事業のため、申請者は以下の3つの要件のいずれかを満たす必要があります。
- 都内での創業を具体的に計画している個人
- 中小企業者に該当する法人・個人のうち、下記のいずれか1つを満たす
- 〇法人登記を行ってから5年未満の法人の代表者
- 税務署へ開業の届出を行ってから5年未満の個人事業主
- 特定非営利活動法人のうち、下記の2点を満たす
- 〇法人登記を行ってから5年未満の特定非営利活動法人の代表者
- 書きのいずれか1点を満たす
- 中小企業者の振興に資する事業を行うものであって、中小企業者と連携して事業を行うものである
- 中小企業者の支援を行うために中小企業者が主体となって設立するもの(表決権を有する社員の2分の1以上が中小企業者)である
なお、申請を行うことができないのは以下のような方です。
- 個人事業主・法人の登記上の代表者として、通算5年以上の経営経験がある(海外での経営経験も含む)
- みなし大企業に該当する
- 個人開業医(医師または歯科医師などが医業の事業で申請を行うことはできない)
創業助成事業の募集要項にはフローチャートが掲載されており、以上の要件に自分が当てはまるかどうか簡単に調べられるようになっています。募集要項も確認し、該当するか確認しましょう。
要件②:指定の創業支援事業を利用している
募集要項に掲載されている創業支援事業のいずれかを利用していることも、創業支援事業の申請要件となります。全部で18個の創業支援事業があり、そのうちの1つ以上を利用していれば要件を満たします。いくつか例を掲載すると、以下のような事業があります。
- 事業計画書策定支援を終了した(過去3ヶ年の期間内)
- 「多摩ものづくり創業プログラム」を受講後の事業計画策定支援を終了した(過去3ヶ年の期間内)
- 商店街開業プログラム(商店街起業促進サポート)の受講を終了した(当年度または前年度以前の過去3ヶ年度)
- 東京都中小企業制度融資(創業)を利用した
- 都内創業支援施設に入居している・していた
対象となる創業支援事業には他にもさまざまなものがあるので、募集要項で確認してください。
また、創業支援事業を今まで受けたことが無い方は、これを機に受けてみてはいかがでしょうか。プログラムではマーケティングやデザインなどのノウハウを学ぶことができ、事業化のための基礎知識を得られます。
要件③:事業者等の要件
助成対象期間が終了するまでの期間、事業や事業者が満たさなければならない要件もあります。募集要項では12個挙げられていますが、例えば以下のような要件があります。
- 法人の場合、中小企業者に該当し、登記が都内にある
- 個人の場合、中小企業者に該当し、個人事業税の納税地が都内にある
- 実務上、都内で実質的に事業を行っている本店または主たる事務所などが実在している
- 事業内容が、都内経済への貢献、社会貢献、課題解決につながるものである
他にも細かい要件が列挙されていますが、すべて満たしている必要があります。自分が該当しているか不安に感じる方は、お近くの中小企業診断士など専門家に相談しましょう。
要件④:その他の要件
その他、都内の税務署に提出した納税関係の書類の写しを提出できることなど細かな要件があります。必ず募集要項を確認し、必要な書類について準備しましょう。
創業助成金の活用事例
創業助成金の活用事例は、こちらのPDFにて公開されています。ご自身の事業の将来像を重ね、どのように助成金を活用しようかイメージしながらご覧ください。
また、どのような社会課題を意識した事業が採択されているのかも分かります。書類審査や面接審査に備えた情報収集にもなりますので、参考にしていただければと思います。
事業者A(オンライン食材直売所)
オンラインで食材を販売する直売所を運営する企業の事例です。販売ルートが決まっており丹精こめて作るほど利益が上がらない農業の課題に注目し、生産者が自分で価格を決めて消費者やレストランオーナーがオンラインで直接購入するサービスを作りました。
「1人目にレベルの高い人を採らなければ2人目以降も良い人材が採れない」との考えに基づき、納得できる人と出会うまで募集を続け、助成金を活用して1人目に優秀なエンジニアを採用できたそうです。
また、広告宣伝においても助成金を活用し、訴求力のある広告のテストをすることができたそうです。テストを通じて消費者の課題を把握でき、新たな独自サービスの開発にもつながりました。
事業者B(産業用ドローンによる測量)
産業用ドローンによる測量を行う企業の事例です。ドローンが測量に役立つと感じて起業したものの、どのような現場で役に立つか分からないまま起業したため、最初は顧客となる会社は1社も無かったそうです。
ドローンでの測量で必要となる機材は高額で、社長は資金調達に悩んでいました。そこで創業助成金を知って応募したところ採択され、機材のレンタルが可能となりました。他にも、人件費や賃借料に助成金を活用したそうです。
創業助成金の申請から受給の流れ
創業支援事業(創業助成金)の申請から受給までの流れや必要な書類について解説していきます。
後述するように、創業助成金の採択率は100%ではなく、審査を通過しなければなりません。採択されるためのポイントを押さえた書類を効率よく作成するためにも、中小企業診断士などの専門家に相談し、サポートしてもらいながら申請していきましょう。
- 申請要件の確認
- 申請書の作成・申請
- 審査・採択
- 事業実施
- 報告・助成金の受給
申請要件の確認
上述しましたが、まずは自分が申請要件に当てはまっているかを確認する必要があります。
大きな要件は、都内で創業を予定しているか創業5年未満であるか、また創業支援事業を利用していることの2つです。その他、細かな要件も満たす必要があるので、必ず募集要項を確認しましょう。
申請書の作成・申請
自分が要件に当てはまっていることを確認したら、申請書の作成を始めます。申請時に必要な書類は以下の5つです。
- 創業助成事業申請前確認書(指定様式)
- 創業助成事業申請書(指定様式)
- 直近2期分の確定申告書など
- 法人は登記簿謄本(履歴次項全部証明書)、個人事業主は個人事業の開業・廃業等届出書
- 申請要件確認書類
指定様式の「創業助成事業申請前確認書」と「創業助成事業申請書」は、TOKYO創業ステーションのホームページからダウンロードできます。申請書の書き方は募集要項に詳しく掲載されているので、募集要項を見ながら記入していきましょう。
なお、申請には郵送による申請書の提出とWEB登録の両方の手続きが必要です。郵送での提出は、2021年4月15日(木)~2021年4月23日(金)の消印が有効となります。簡易書留、一般書留、レターパックプラス(赤色)のいずれかの方法で送付しましょう。
WEB登録は、申請書と同じ内容を入力します。登録できる期間は同じで2021年4月15日(木)~2021年4月23日(金)です。「TOKYO創業ステーション」のホームページ上にある登録フォームから入力を行いましょう。
審査・採択
「令和3年度(2021年度) 第1回創業業助成事業」の審査のスケジュールは以下のとおり予定されています。
2021年5月~6月 | 書類審査 |
6月中旬頃 | 書類審査結果の通知 |
7月 | 面接審査(書類審査を通過した申請者のみ) |
7月~8月 | 総合審査 |
以上の審査のプロセスを経て、9月1日に交付が決定し、採択が通知される予定となっています。特に面接審査のハードルが高いので、準備には創業助成事業に強い専門家の支援が必要です。
事業実施
無事に審査を通貨し、交付が決まったら、助成対象となる事業を始めます。助成対象期間は、最短で6ヶ月、最長で2年間です。
報告・助成金の受給
助成対象期間中や終了後に、適宜報告を行う必要があります。1回目の実績報告は、2022年3月の予定です。中間検査を経て、助成金の中間支払いが行われます。
助成対象期間が6ヶ月の場合、3月の実績報告の後、完了検査に入り、助成金の支払いが完了します。助成対象期間が2年間で最長の場合、2023年9月の実績報告の後、完了検査に入り、助成金が支払われます。
以上のとおり、助成対象期間に応じて定期的に実績報告を行います。助成金は報告後の後払いとなります。
創業助成金の申請から受給までの流れはこのとおりです。申請時や報告時の書類作成に不安がある方は、中小企業診断士など創業助成事業に強い専門家に相談し、サポートしてもらいましょう。
創業助成金を申請する際の注意点
創業助成金を申請する際に、注意したい点を解説していきます。採択されるためのポイントや、倍率が高く必ず採択されるわけではないことは理解しておきましょう。
採択されるためのポイント
申請書を作成する前に、採択されるためのポイントを理解し、ポイントを押さえて事業を説明できるようにする必要があります。創業助成事業の募集要項に「審査における主な視点」が掲載されているので、必ず目を通して書類審査・面接審査に挑みましょう。
書類審査・面接審査における主な視点を抜粋すると、以下のとおり挙げられます。
- 製品・商品・サービス内容の完成度
- 問題意識・潜在力の明確さ
- 対象市場に対する理解度・適応性
- 事業の実現性
- 助成金の活用方法の有効性
- スケジュール・経営見通しの妥当性
- 資金調達の妥当性
- 申請経費の妥当性
より詳しくは募集要項をご覧ください。
事業の内容や実現性について具体的に説明できるとともに、創業によって社会の課題をどのように解決するビジョンがあるかといった視点でも審査されます。各項目について書類のみならず面接でも説明できるよう、練習しておきましょう。
書類づくりや面接の準備に不安がある方は、中小企業診断士などの専門家に相談してみましょう。「補助金バンク」には創業助成事業に強いプロフェッショナルも多数登録しているので、身近で頼れる専門家を探してみましょう。
倍率が高い
創業助成事業の直近の採択率は以下のとおりで、倍率が非常に高いことが分かります。
申請者数 | 採択者数 | 採択者の割合 | |
2020年度(令和2年度) | 1037 | 156 | 15.0% |
2019年度(令和1年度) | 808 | 152 | 18.8%倍 |
2018年度(平成30年度) | 600 | 151 | 25.2% |
以上のとおり倍率が高い助成金であり、申請者全員が採択されるわけではありません。ほとんどの申請者が不採択となる非常に難しい助成金のため、採択される可能性を高めるためには、書類審査や面接審査で十分なアピールをする必要があります。
まずは書類審査に通る申請書をするためにも、創業助成事業に強い中小企業診断士などの専門家にアドバイスをもらうのがおすすめです。相談は無料で行っている事務所が多いので、気軽に相談してみましょう。
「補助金バンク」には助成金や補助金の専門家が多数登録しているので、身近で頼れるプロフェッショナルを探すことができます。
まとめ
創業助成事業と採択されることによって受給できる創業助成金について解説してきました。資金に余裕が無い創業間もない頃を支えてくれる助成金なので、ぜひ活用を考えていただければと思います。
しかし上述のとおり申請要件が細かいことなど、創業助成事業には分かりにくい箇所が多数あります。不明点があれば、中小企業診断士など創業助成事業に詳しい専門家に相談しましょう。「補助金バンク」には補助金や助成金に強い専門家が多数登録しているので、補助金バンクを使って身近なプロフェッショナルを探してみましょう。